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本物の夢を見るんだ 【群青日和 #31】

【試合結果】
5/6(月) 東京ヤクルトスワローズ
◯6-5
[勝]三嶋
[敗]エスパーダ
[S]森原

◇ ◇ ◇

「「あれ……?」」

カメラを構えていた夫と、その隣でグラウンドを眺めていた私。
二人ともほぼ同じタイミング、同じトーンで呟いた。
試合前、ビジターチームの打撃練習が終わりアップの時間が始まるかな?という頃。今シーズンからどうやら全体でのウォーミングアップではなく個々のペースに任せる形になったらしく、試合前シートノックも基本的に若手のみで行う形に変わっていた。

……はずなのだけれど。

どう見ても野手陣全員がベンチ前に集合し、ストレッチを始めている。
そして本当に自然に、今日から一軍合流が明言されNPBの公示にも名前があった筒香嘉智の姿もそこにあった。
久々に試合前ウォーミングアップから野手全員が勢揃いしている風景を見るなあ。
そして当たり前のように、ポジション別のノックも全員が参加している。
……それにしても。

選手たちが本当に良い意味でリラックスしていて、笑顔があちこちで見られる。
でも決してダラダラやっている訳ではもちろん無く、移動からボール回しまでキビキビと動いて見ていてとても気持ちがいい。
選手の年代は関係無く、チーム全体で雰囲気良く練習に入れている、とでも言おうか。

「なんか今日は特にアップから雰囲気良いね、どうしたんだろう」
夫がファインダーを覗いたまま私に呟いてくる。
わかる。
今までが悪い意味で緩かったとかそういう訳では無いのだけれど、筒香が今のベイスターズの中に入ってきてくれるとここまで変わるものなのか。

このシーズン、ここまで既に何度か現地で観戦してきたけれどもこんなに大きな変化が見られたのは初めてで。

◇ ◇ ◇

2024年4月16日、5年前にポスティングシステムを利用し海を渡った筒香嘉智が横浜DeNAベイスターズに復帰することが発表された。

その時、ああそうかと驚いたのが
「彼の帰りを喜び『おかえり』と言う、筒香を知っている人達」
「2020年シーズン以降にベイスターズファンになった、筒香を知らない人達」
SNS上でこの二つの流れにくっきり分かれていたこと。

それが短いようで長い月日が経ったことを示していて、同時に筒香以降も球団の顔と呼べる選手たちが次々に生まれ、新世代のファンもちゃんと育まれていたことも嬉しくて。

筒香嘉智という選手を知らない人に、彼が一体どういう存在なのか、どんな言葉を使って説明したらいいんだろう……そんなことをぼんやり考えているうちに彼が横浜スタジアムに帰ってくる日がやってきた。

横浜高校出身、高卒ドラ1で獲得したスラッガー
ハマの4番を背負い、侍ジャパンでは日本の4番も務めた
2016年には本塁打王・打点王の二冠達成
2019年までの10年間で、合計205本塁打を放った
「横浜の空高く……」から始まる応援歌が名曲

分かりやすいありきたりなフレーズを並べてみても、合ってるんだけどピンとこないんだよなあ……もうちょっとなんかこう……とモヤモヤしたものが残る。

◇ ◇ ◇

佐野恵太のタイムリーヒットで1点追い上げて、2点ビハインドの展開。
8回裏、二死一二塁でバッターボックスには今日4打席目の筒香。

初球。
エスパーダがファーストストライクを取りに来た、そのストレート。

風が強く吹いていて、いつの間にか雲が消え晴れ渡った夜空に白いアーチを描いて、あっという間に伸びていって。

何度も見たことがある。
私の大好きな光景。

一瞬だけ止まって、打球方向を見上げながら駆け出す筒香。
一瞬遅れて、波のようにぶわあああっと拳を突き上げて立ち上がる一塁側のお客さんたち。

筒香嘉智を知らなかった人達が、筒香嘉智を知った瞬間。
説明なんて要らなかったんだ。

これが、横浜に輝く大砲、横浜の背番号25なんです。

おかえり。

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