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今日限り逢える日時計【群青日和 #30】

【試合結果】
5/5(日) 広島東洋カープ
◯5-0
[勝]大貫
[敗]九里

◇ ◇ ◇

5月1日の中日戦、初回からベイスターズは打者一巡の猛攻。
あっという間に得点を重ね、上位打線は1イニング内で2度目の打席を迎えた。
2番・蝦名にタイムリーヒットを浴びて失点が7点に届いた所で先発の涌井が早々にマウンドを降り、2番手の梅野が登板する。

変わりっぱなは狙い目なんて言われるけれど、この打席の佐野恵太はなんとなく、『狙っている』予感があった。
構えなのか、目線なのか、確信するほどではないにしても強めの予感。
初球のスライダーを空振りした後、見逃せばボール判定にもなりそうなインハイを突くストレート。
あ、本来の佐野なら大好きな球じゃない?
と思った刹那、強くバチンと振り抜かれるバット。

首位打者を獲得したシーズンによく見た、インハイをしばける佐野恵太。
昨年あんまり見ることがなかった逆方向への強い打球に加えて、このスイングが見られたなら今日以降もっと調子を上げてきそう。
強めの予感がその通りになり、さらなる強めの予感を呼んだ打席だった。

◇ ◇ ◇

まだ牧秀悟が入団するよりも前、佐野恵太がベイスターズの4番として抜擢された2020年シーズンで初めて本塁打を放ったのが、開幕から数えて28試合目のことだった。

その際の談話ではこんな風に語っていた。

やっと本塁打を打つことができ、正直ホッとしています。追い込まれていましたが、自分のスイングができました。

筒香嘉智から継ぐことになったキャプテンと4番の立場、全く予想していなかったパンデミックによる開幕の遅れと気負う要素しかない状況で、佐野はやっぱり、でも人知れず気負っていたんだな。
正直な言葉に胸が痛くなりながらも、彼と同じようにホッとした。
ひとつ出れば、焦ることなく次のチャンスもしっかり仕留められるでしょう。
打った瞬間の表情とコメント内容から、そんな予感がした。

結果として、佐野恵太は打率.328、本塁打は20本とキャリアハイの成績でシーズンを終えた。
焦りや気負いから解放された佐野のバットは最後まで迷わないことを、彼は成績で示してくれた。

◇ ◇ ◇

昨シーズンの終盤に右手有鉤骨を骨折し、痛みから解放されて臨むこのシーズン。
フォームも完全なクローズドスタンスから少し変え、春季キャンプから少しずつでも順調に感覚を調整しているのが見てとれた。

開幕して29試合が終わり、これはスタンドインでは!?という当たりが増えてきた。
5月3日の試合ではフェンスギリギリもギリギリ、ラバー部分に当たってほぼホームランの当たりがエンタイトルツーベースになる、なんていう場面もあった。

中継画面の向こう側に届くはずもないけれど、焦るなよ、結果が出るのも時間の問題だぞ、と強目に念を飛ばし続けてはいた。

5月5日、つまり今日の試合。
4回表に佐野の2打席目が回ってきた。

その前の回まで全く手が出なかったところからようやく1番・桑原が食らいついて塁に出ると、先発九里の操る変化球がほんの少し、ストライクとボールがはっきりしてくるようになる。
2番・蝦名がなんとか塁上の桑原を進塁させ、得点圏にランナーが居る状況に持ってきた。

打席に立つ佐野の表情を見て、既視感に襲われる。
中日戦、あのインハイの球を強く引っ張ってツーベースヒットにしたあの場面と同じ、強めの予感。

何か起きそうだ、と思ったところの「だ」の部分でカァン!と乾いた高めの音が響く。
九里の浮いたチェンジアップを佐野の強いスイングがしっかり捉え、球をぐっと押し込み、あっという間にフェンスの向こう側まで運んでいった。

開幕から数えてちょうど30試合目で、今シーズン初本塁打。
2020年とほとんど変わらないタイミング。

2024年、佐野恵太のスイングはもっともっと輝きそうだ。



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