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ラブエクスプレス

 俺は刑事で、はぐれものだ。
 一人で、いくつもの事件を解決してきた。
 それが、今回に限ってバディを組めだなんて。
「おい、メグミ早くしろ」
「先輩、待ってください」
 犯人から挑戦状が叩きつけられたのだ。このパーク内に爆弾をしかけたという。
「それにしたってこんな広いパーク内のどこに……」
「あ、あれは!」
 ベンチの上に黒くて丸いやつが置いてあった。そいつの上の部分の、でっぱりから紐のようなものがチョロっと出ている。これはきっと爆弾だ。俺の刑事としての勘がそう告げていた。
「私に調べさせてください」
「おい、無闇に触るな」
「大丈夫です。私、爆弾の免許をもっているんです」
「そうだったのか」
「はい。身分証代わりになるから、とっておけって親が」
「十六からとれるからな」
「先輩、わかりました。この形状、絵文字タイプの爆弾です」
「爆弾と入力すると変換されるやつか。なるほど、そっくりだ」俺は絵文字世代だ。
「ここに、なにかフタのようなものが」
 メグミは慎重にフタを開けた。
 中には、二つの配線があった。
「これは、赤と青のどっちかを切るのやつだな」
「先輩、詳しいですね。その通りです」
「初めて見るが、何度も見てきたからな」
 そのとき、メグミの端末が鳴った。
「はい、もしもし。……あなたは! はい。先輩に代わります」
「誰からだ」
「日本大統領です」
「なんだと」
 なるほど、国家の一大事だ。国のトップも心配しているようだ。
 俺は、メグミから端末を受け取る。
 こんな一大事でも、日本大統領の声は落ち着き払っていた。これがトップの器か。
「なんや、エライことになっとるやんけ。せやけど、気ぃ張らずオドレの信じるようにやったらええやん。ほな」
 プレジデントの言葉が身に染みる。
「……おおきに!」
 俺はメグミに端末を返した。
「大統領はなんと?」
「ああ、激励げきれいの言葉だ。多分な。英語は苦手なんだ」
 そのとき、爆弾の紐、導火線に火がついた。
「先輩、時間がありません」
「くそ! メグミ、お前だけでも逃げろ。俺がなんとかする」
「もう……、今から逃げても間に合いません」
「そうか。覚悟を決めないとな。なに、大丈夫だ。絶対にメグミ、お前を死なせたりなんかしない。その命、俺に預けてくれるか」
「はい。信じてます。それに……、私だけじゃありません。この子だって」
 そう言って、メグミは自分のお腹を優しく撫でた。
 パークの観覧車がグルグル回る。俺にはそう見える。メリーゴーラウンドの白馬はサラブレッドのような速度で走り、かぼちゃの馬車は上下に揺れた。俺たちのためにパレードが開かれている。俺はメグミの手を引き、ダンスを踊る。
 そうして、俺は配線を切った。
 どちらの配線を切ったかなんて覚えていない。
 どっちだっていいんだ。だって失敗するわけがないだろう。
 俺は、はぐれものじゃなくなったんだ。

 了

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