山木マヒロ

創作は生きがいです。生みだす過程に苦痛は伴いますが、完成した時の喜びは格別です。 あな…

山木マヒロ

創作は生きがいです。生みだす過程に苦痛は伴いますが、完成した時の喜びは格別です。 あなたの心にのこるなにかを作れたら本望です。

最近の記事

承認欲求 #1/10

リークの場合 「あんな嘘は、二度とつかないで」  柏木遼圭は、小学校三年生のとき、母親から言われたその言葉と顔は忘れられないものとなった。  授業参観で、家族を紹介する作文を読んだ。  その内容は、遼圭の家族は毎年海外旅行に行っていて、いかに冒険的かということを詳細に描写するものだった。  有名なランドマークやエキゾチックな場所を訪れ、それぞれの国で現地の人々と交流し、多くの新しい体験をすると紹介した。  しかし、現実はまったく異なり、家族は海外旅行どころか、国内旅行さえろ

    • 蘇生死刑 #9/9

       残り、頭・胴体・右肩・右肘・右前腕・右手・左肩・左肘・左前腕・腰・右大腿部・左大腿部・左膝・内臓少々  暗い部屋。あまりに暗い。  小さな白熱灯がひとつ。  きっと、スプラウトすら育たない。  男が一人と、半分の男が一人。  瓶の中の液体に浮かぶ臓器。  それを持つ男が、その瓶に入った臓器を、半分の男の顔の前で左右に揺らす。半分の男の濁った目は、その臓器を追って左右に動いた。  かつて、半分の男の一部だった大切なもの。  半分の男の乾いた唇が、微かに動く。  縦にパクパク

      • 蘇生死刑 #8/9

         吹き出る汗で枕を濡らしていた。  なんだ、この吐き気をもよおすイメージは。夢のような、いや、それよりもずっと生々しい。  粘膜から直接血中に溶け込むように、それは強引に私の中に吸収されていく。 「目覚めたな。どうだね、少しは何か思い出したかね?」  コーダと名乗った男は、ベッドに横たわる私のすぐ近くにいた。 「おも、思い出す? なんだ、あれは。気味の悪い。梅毒を意図的に感染すとか、それに、肉親を標本にするとか」 「そうだろう。だが、それは君の記憶だ」 「私の? そんな、まさ

        • 蘇生死刑 #7/9

           ツダコウシ物語、黄昏編  大学を受験する頃になると、私の中で、ある変化が起きていた。それは、ふつふつと湧き上がり、私の心をざわつかせた。  飾らずに、そのときの気持ちを表現するならば、「セックスがしたい」その一言に尽きる。  自分の中で、今更こんな感情が生まれるなんて。その原因については全く身に覚えがない。……わけではない。  さて、寄生菌の中には宿主を乗っ取って、その精神や行動を操るものがあるらしい。にわかには信じがたいが、しかし、その説に寄り添って、私に起こった変化を

        承認欲求 #1/10

          蘇生死刑 #6/9

           ツダコウシ物語、黎明編  思春期を迎える男子の頭の中は、色欲にまみれているそうだ。  たとえば、ナカタニ君なんか、股間を擦りすぎて、最終的に血が出たそうだ。 「はぁ。ツダさん、知ってます? これ赤玉っていうらしいですよ」  一人で打ち止めまで達していたら世話がないと思うが、そんな悩みがあるだけマシだ。  私など、異性への好奇心や性に対する興味が全く湧かず、体だけが成長して中身が置いていかれる気分だった。成長期にあたり、特に内外の不一致を感じていた。  この頃、家ではコテツ

          蘇生死刑 #6/9

          蘇生死刑 #5/9

           ツダコウシ物語、暁編  私の父は警察官だった。  父は口癖のように、「ルールは守らないといけない」と言っていた。  しかし、父は死んだ。ルールを遵守しようとして殺された。私が小学三年生のときだ。  迫り来る犯罪者相手に、正当な手順での拳銃の使用を試み、凶刃に遅れをとってしまったらしい。  父の上司にこっそり教えてもらったことだったが、なぜかそれは周知のことだった。  道徳の授業で、私の父の行動は正しかったのかどうか、是非を問う一幕があった。 「教科書を閉じなさい」先生はそ

          蘇生死刑 #5/9

          蘇生死刑 #4/9

          「……の……は、そのぜ、Zは、どう、どうなった? わた、私は……だ、れな、んだ?」  どうにかして、情報をかき集めなくては。  私は、一体何者なのか。そして、この男の目的は? 「もう、話せるようになったな。そうでなければ困る」  視界の端で白衣の男の体が沈むと、ギシッと金属の軋む音がした。おそらく椅子に腰を下ろしたのだろう。 「質問に答えよう。とはいえ、何事も順序が重要だ。さきほどの話、アマダやZの話だ。あれは、君に大いに関係のある話だ」  登場人物が、加害者か被害者しかいな

          蘇生死刑 #4/9

          蘇生死刑 #3/9

           また、夢をみていた。  今度は覚えている。半分の男の夢。  ゆっくり、少しずつ頭がクリアになっていく。頭にかかった靄が晴れるにつれて、脳裏に浮かぶのは、得体の知れない不安ばかりだ。  ゴゴゴゴ。  これは、空調の音。  天井から落ちる、ぼんやりとした光。  これは、白熱灯。  空っぽの頭に残っている、なけなしの情報は、今の私の全てで、大事にしなければいけない。  気味の悪い、標本の男の話を思い出す。なぜか、胸がざわつく。  それに、半分の男の夢。これは、ただの夢だろうか。

          蘇生死刑 #3/9

          蘇生死刑 #2/9

           残り、頭・胴体・右肩・右肘・左肩・腰・左大腿部・内臓少々  夢をみた。嫌な夢だ。  どんな夢だった?  思い出せない。とにかく嫌な夢だ。  天井に、ひとつの白熱灯が吊られている。ぼんやりとした灯りが、夢と現実の境界を曖昧にする。トロンと瞼が重くなる。ああ、だめだ、頭を働かせなければいけない。  ここはどこだ?  腕が上がらない。動かせない。ベッドかなにかに固定されているようだ。  誘拐された? なぜ。  なぜ、私が誘拐されなければいけない。  私は、私は……、誰だ。  ど

          蘇生死刑 #2/9

          蘇生死刑 #1/9

           残り、頭・胴体・右肩・内臓少々  天井に吊るされたモビール。  この装置は、赤ん坊の上で静かに回転するベッドメリーのようで、ぶら下がったイカの足みたいなものの先に、愛らしい動物や星のフィギュアがいくつもくっついている。  それらが揺れて動くさまに、赤ん坊は目を奪われるだろう。  ゆぐりすな。  この装置は、そう呼ばれていた。  本当は、ただのベッドメリーなのかもしれない。  この拷問に耐えられるのは、きっと赤ん坊だけだ。  頭上で延々と回り続けるゆぐりすなは、全く同じ動き

          蘇生死刑 #1/9

          noteを使用して思ったこと

           noteを始めて1ヶ月と少し経ちました。  この2、3日で投稿を見ていただけたり、スキやフォローをいただける頻度が突然増えました。よく仕組みは分かっていないのですが、すごい人がなにかをしてくれたのかな、と勝手に思って勝手に感謝をしています。  私の個人的な感覚ですが、これまで投稿をして、noteは長文や長編の物語を読むのにあまり向いていないのではないか、と思い始めました。  何度か試してみて、一つの投稿に1,000~2,000字くらいの完結した物語が、ちょっとの隙間時間に

          noteを使用して思ったこと

          月を食べた男

           前任者から急遽引き継ぐことになった囚人の監視に、瀬戸は右往左往していた。 「珍しいですね、ここで独房だなんて。しかも監視は僕一人だけですか?」 「これは極秘事項でな、一人で監視した方が都合がいいんだ。彼が、ここから逃げ出す心配はない。しかし、このことが外に漏れたら、まず、お前が疑われるぞ」 「彼は誰なんですか?」 「こいつに名前は、もうない。必要があれば、紙魚と呼べ」 「罪名はなんですか?」 「前例のないものだ。歴史上で、人間が犯した罪の中で最も重いとされている」 「最も重

          月を食べた男

          人殺しのリズム

           サトミは闇の中で、水面に立つ波紋を見た。  それは、サトミの心象風景で、実際のものではない。サトミは小さい頃の事故で視力を失っていた。  大きい波紋、小さい波紋、それらは不規則なリズムを生みながら、サトミに近づく。 「こんにちは、おばさま」 「あら、よく分かったわね」 「いえ、……そろそろ、いらっしゃる時間かと思って」  サトミは人の足音のリズムで、その持ち主を判別することができる。このことは、誰にも言っていない。 「サトミさん、今度、あなたのおばあさまのところに引っ越すの

          人殺しのリズム

          ラブエクスプレス

           俺は刑事で、はぐれものだ。  一人で、いくつもの事件を解決してきた。  それが、今回に限ってバディを組めだなんて。 「おい、メグミ早くしろ」 「先輩、待ってください」  犯人から挑戦状が叩きつけられたのだ。このパーク内に爆弾をしかけたという。 「それにしたってこんな広いパーク内のどこに……」 「あ、あれは!」  ベンチの上に黒くて丸いやつが置いてあった。そいつの上の部分の、でっぱりから紐のようなものがチョロっと出ている。これはきっと爆弾だ。俺の刑事としての勘がそう告げていた

          ラブエクスプレス

          あまのじゃく

           伝わりっこない。  それはユウの口癖だ。  彼は、伝えたいことと反対の言動をしてしまう、あまのじゃくだ。  どうして、そんなことになったのか。  彼は言う。小さい頃、頭をぶつけるケガをした。まっすぐ繋げなければいけない線を、病院の先生があべこべに繋いでしまった。それは、ほんとのことかわからない。彼は、あまのじゃくだから。 「ユウ」は、彼のニックネームで、アルファベットのU。Uターンのユウ。入り口と出口が逆の方向を向いている。思ったことと言動が逆になってしまう、彼の性格をよく

          あまのじゃく

          黄金のナイフ

           それで、トキダさん。あなたの言う黄金のナイフ? というものはどこで手に入れたのですか?  機関車公園のベンチに座っていたら、お爺さんが座ったんです。隣というか、こう、ベンチの端と端という感じです。それで、最初ボソボソ喋るもんだから、僕に話しかけているのかどうか分からなかった。  その老人がナイフを?  天気の話とか日本がどうとか、そんな話をしました。向こうが一方的に話すだけで、僕は、ぼうっと聞いていました。だから、詳細はよく覚えていないんですが……。  覚えてる範囲で話して

          黄金のナイフ