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名残メシ【vol.06】幸来@北上野

町中華は哀しい。北尾トロと町中華を食べ始めたきっかけもある店の閉店だった。2013年の暮のことだった。翌年から精力的に町中華を食べ歩き始めたのだけれど、とにかく閉店していく町中華が多かった。

2014年に新宿から北上野に引っ越したのだけれど、たまたま引っ越した先のビルの1階に幸来さんがあった。対外的には「町中華が好きすぎて、町中華が一階にあるビルに引っ越した」と言ってはいたけれど、実際は偶然だったのだ。それが幸来さんだった。

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実は、引っ越す前からこのお店のことは知っていた。このお店があるのは浅草と上野を結ぶ「かっぱ橋本通り」にある。散歩取材のため、このあたりをよく歩いていた。そのときにいい雰囲気の店だなぁと見ていると、中からご主人が出てきて、どこかへ行こうとしていらっしゃるようだったが、ふと目が合った。と、ご主人、かすかに微笑まれたのをよく覚えていた。

12時45分にうかがったが、ほぼ満員。近所のサラリーマングループが2組。カウンターに3名いた。

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セットメニューが文字で書かれている。僕が住み始めた頃、ここにはご主人がつくるサンプルが置かれていたのだけれど、今は文字で書かれている。きのうから、チキンライスに決めていたので、初志貫徹。

かつて、ご主人の奥様がランチ時はサポートしていたけれど、今は別の女性がいる。奥様は今年のはじめに亡くなったのだ。昔はご主人のお兄様も厨房にいたけれど、今はいらっしゃらない。病気されて引退されたのだ。中尾さんの顔は見えた。幸来さんが今月いっぱいだと教えてくれたのは中尾さんだ。スーパーでたまたま会ったときに教えてもらったのだ。ビルの立て直しで今月いっぱいだと教えてくれた。厨房にはもうひとり、白髪の男性がいたけれど、知らない人だった。

店内に張り紙があった。

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ビルの建て直しのために閉店するも来年には近くで再開する予定だそうだ。よかったぁ。

チキンライスを注文するもできないそうだ。厨房からご主人が出てきて「ケチャップがないんだよ、明日終わるから買ってねぇんだ」とのこと。どうしよう。先客が注文した中華丼が美味しそうなので、中華丼をお願いする。ほどなく到着。

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ほどなく手の空いたご主人が出てきてくれた。「お母ちゃん元気?」と聞く。妻のことだ。なんせ同じビルに住んでいたので、よくご存知だ。店にも妻と一緒に行ったことがあるし、今年の初夏、妻の出勤に付き添って歩いていたら、自転車のご主人に会った。ちょっと立ち話をしたのだが、そのときに今年のはじめに奥様が病気でお亡くなりになったのを聞いた。

中華丼、うまいなぁと食べていると、ご主人が厨房から出てきて「40年、長いようであっという間だったよ」とおっしゃる。そういえば、開店のときには、昭和通りまで行列ができたそうですね。と聞けば「ああ、半額にしたからね。3回も食べに来たのがいたよ」と笑う。「僕が引っ越してきた頃は、毎晩のようにどんちゃん騒ぎでしたね」と言うと、お店を手伝っている女性がなんとかさんがいたからね、みたいなことをおっしゃる。そうだよ、とこれを受けてご主人も「パトカーがきたり、救急車がきたり大変だった」と懐かしむ表情をされた。40年営業していた最後の何年間かしか知らないけれど、やはり名残惜しい。





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