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「アンパンマンのマーチ」の謎

前回紹介したあおたまさんの記事「何のために働く」の冒頭で、タイトルがアンパンマンの歌詞みたいと書かれていました。
おお。ボクがこの世で最も好きな歌詞のことじゃないですか。
人生で以下のフレーズがいったい何万回脳内リフレインしていたことでしょう。

なにが君のしあわせ なにをしてよろこぶ
わからないままおわる そんなのはいやだ!

アンパンマンのマーチ
作詞:やなせたかし

あまりに好きな歌詞だったので、韻を踏んだ英語訳にして外国人の知り合いに送りつけたことがあります。その詩はどこかへ散逸して見当たりませんが。

実はこの歌詞、長い間一番の歌詞だと思っていました。
しかしその訳詞を作る際に気づきました。これは二番だったのです。

全部を引用しましょう。
アンパンマンの作者であるやなせたかしさん自身の作詞です。
サビ始まりです。「女々しくて」「ヘビーローテーション」と同じです。
マシな例が思いつかないな。
「She Loves You」「Can't Buy Me Love」「Don't Let Me Down」もそうだ。
ちょっと古すぎ偏りすぎ。

そうだ うれしいんだ 生きる よろこび
たとえ 胸の傷がいたんでも

なんのために 生まれて なにをして 生きるのか
こたえられない なんて そんなのは いやだ!

今を 生きる ことで 熱いこころ 燃える
だから 君は いくんだ ほほえんで 

そうだ うれしいんだ 生きる よろこび
たとえ 胸の傷がいたんでも
ああ アンパンマン やさしい 君は
いけ! みんなの夢 まもるため

なにが君の しあわせ なにをして よろこぶ
わからないまま おわる そんなのは いやだ!

忘れないで 夢を こばさないで 涙
だから 君は とぶんだ どこまでも

そうだ おそれないで みんなのために
愛と 勇気だけが ともだちさ
ああ アンパンマン やさしい 君は
いけ! みんなの夢 まもるため

時は はやく すぎる 光る 星は 消える
だから 君は いくんだ ほほえんで

そうだ うれしいんだ 生きる よろこび
たとえ どんな敵が あいてでも
ああ アンパンマン やさしい 君は
いけ! みんなの夢 まもるため

アンパンマンのマーチ
作詞:やなせたかし

アンパンマンは子ども向け、ほぼ幼児向けのアニメですが、この歌詞の深さはどうでしょう。
人生を問う歌詞になっています。
「時ははやくすぎる」「光る星は消える」、つまり人生は短く儚い。
人生に必要なのは「愛と勇気だけ」だ。
「何が幸せ」か、
「何をして喜ぶ」か、
「何のために生まれてきた」のか、
「何をして生きる」のか、
そんな深いことを幼児に向けて問題提起しています。
そして「ほほえんで」「今をいきる」のだと。
仏教的でもあります。
そんな歌詞なのです。

そしてボクは二番の歌詞が一番だと思い込んでいました。
あらためて読んでも二番の方に一番の感触があります。
一番の歌詞に苛烈さがあるからでしょう。

比較してみましょう。
Aメロ
1.「何のために生まれて、何をして生きるのか」
2.「何が君の幸せ、何をして喜ぶ」
Bメロ
1.「今を生きることで、熱い心燃える」
2.「忘れないで夢を、こぼさないで涙」
サビ
1.「たとえ胸の傷が痛んでも」
2.「愛と勇気だけが友だちさ」

一番のほうが前のめりでヘビーしょう。

通常は一番の歌詞に一般受けしそうな平易な言葉を選び、二番以降で強くてエキセントリックな表現にします。
「六甲おろし」がそうですね。知りませんわな。
しかもサビ始まりで唐突に「胸の傷」があることをカミングアウトしています。
ルフィやケンシロウじゃあるまいし。ただ3人とも名前の付いたパンチを繰り出しがちですが。

今調べたら、テレビ版の曲は二番だけで構成されていました。
それでそんな記憶になっていたのだった。
始まりのサビも「愛と勇気だけが友だちさ」でした。
やっぱり普通は逆です。
そして、それについて言及しているブログをいくつか見つけてしまいました。
自分だけが発見したと思っていたのに。少し悔しい。

一番がヘビーな内容になっている理由については諸説あるようです。
ひとつはアンパンマンの設定が、そもそも「胸に傷ある」うだつの上がらない人だというものです。元になった絵本ではそうなっているようです。
そしてもうひとつは、やなせさんの戦争体験説です。
「どんな敵が相手でも」「君は飛ぶんだ」「みんなの夢まもるため」などは特攻隊を連想させます。
そんな暗い背景が重い歌詞を前面に出したのだということです。
どちらも信憑性が高いですね。

しかし本当の理由なんて作者本人にもわからない、というのがボクの説です。
やなせさんのセンス、クリエイターの無意識がそうさせたのでしょう。
天才の考えることなんて天才本人にも言語化できないものだと思っています。

そう言えば漫画・アニメ界の天才クリエイターは軒並み作詞脳力が高いです。
石ノ森章太郎、藤子F不二雄、宮崎駿、富野由悠季、さくらももこ、尾田栄一郎、などなど。まだまだおられるはずです。
この相関について考察したいのですが、おそらくボクには無理でしょう。

さて「何が君の幸せ、何をして喜ぶ」が脳内リフレインしていると書きました。
なんとこれは、ボクがこのところずっと書き続けている「快不快」理論と呼応しているじゃないですか!
何が幸せで何をして喜ぶのか、つまり自分が気持ちいい、快感だと感じることとは何かということです。
「わからないまま終わる、そんなのはいやだ!」、つまりそれを探索することが人生なのだと。
たかし。わかっているじゃないか。

前回の記事の最後に「自己実現ために働くこと」について書こうとしてやめていました。
今回はそれについて書こうと思っていましたが、「アンパンマンのマーチ」のほうがずっと深いところに行けそうな気がしたので、今回も書くのをやめにしました。
前回の記事の「自己実現」という言葉で思い出したという「ピラミッド」とは以下の三角形のことです。
こうやってバラしたということは、もう二度と書かないつもりだったりして。
「わからないまま終わる、そんなのはいやだ!」
うーん。気が向けば書くかも。それではまた。

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