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なぜ「専」には点がないのか問題と、 日本の没落問題について

○月△日
テレビのクイズ番組でたまに気になることがあります。それは漢字の書き順の正誤についてアレコレ言ったり、その書き順自体をクイズ問題にすることがあったりする時です。

ボクの考えは、漢字の書き順に正しいも間違いも無い、書き順なんてどうでもいい、むしろ書き順を強要することは悪影響があるというものです。

「上」という漢字の書き順って、みなさんはどう習ったでしょう。
ボクの世代(昭和40年前後世代)は、横→縦→横、「  -    |    _  」です。
どうやらこの書き順って現在は、縦→横→横、「  |    -     _   」らしいのです。
そしてボクの世代より昔は、現在と同じで、縦→横→横「  |    -     _   」だったとのことです。
つまり「正しい」書き順って、変遷があって、ゆらいでいるのです。

誰が決めているのでしょう。聞くところによると習字で書きやすい順にしているだとか。今さら、縦→横→横のほうが書きにくいのですが。というか筆運びの距離は横→縦→横のほうが短いですし、動きも美しいと思います。
それはともかく、もうひとつ書き順で重要視されているのは、漢字の成り立ちです。

「左」と「右」の書き順が有名です。
「左」の書き順は、上の横棒が一画目、斜めのはらいが二画目、「 一  ノ 」です。
一方で「右」は、上から斜めにはらうのが一画目、次に横棒、「 ノ  一 」です。
左右は始めの二画の書き順が逆なのです。
これらは漢字の成り立ちで決まっているそうです。詳しく文章化するのは複雑なので省略しますが、とにかく象形文字の段階までさかのぼって、それを元に書き順が決まっているのだそうです。ここでは書きやすさは関係なさそうです。
ちなみにそれぞれの一画目は、二画目より長さが短いのだそうで、右の横棒は長く、左の横棒は短いのです。これも成り立ちで決まっているのです。なので字の形として、右は横長、左は縦長になります。
そのことを意識して書くと「この人、わかってるー」ってなります。

書き順は漢字の成り立ちで決まるというなら、文句がありますぞ。「博」の点だ。
博、薄、簿などの右上の点は、書き順で言えば最後です。
しかしこの部分の漢字の成り立ちを調べると、もともと甫という漢字です。浦、圃と同系列です。
ならば、博などは下の寸を書く前に上の甫を完成させるべきでしょう。点は最後じゃありません。成り立ちをいうならそうするべきだ。

ちなみに、甫、という字は、うすくひろがっている様を表すそうです。
博は広いと言う意味です。博識とかね。薄はそのもの、うすいです。簿は、竹や木などを薄片にして、文字を書くためのものです。浦も圃も何やら地形的に薄く広がっています。田ん圃などです。敷は、広げる意味があります。
そして、音は、ハク、ホ、ボ、フ、などです。これらの漢字は意味も音も、明らかに同系列ですね。

さて、専には点がありません。この字だけ点が無い問題って、謎ですよね。博たちに仲間外れにされています。
実は、この字は「甫」系列とは成り立ちが違うのです。専は「專」という字が元々の漢字です。なぜか形が省略されたのです。
この寸の上の部分は、糸巻きだそうです。寸の意味は手です。手で糸巻きを巻いていることが、専念している様の「もっぱら」という意味だそうです。
同系列の漢字は、ほとんどが省略されています。轉=転(車の糸巻きで転がっている)、傳=伝(人から人へ糸巻きのように伝わる)、團=団(糸巻きでカタマリがある様)、などなどがあります。
音としては、セン、テン、デン、ダンなど同じ系列とわかります。
省略されて姿形がそれぞれ変わってしまい、お互いが仲間かどうか分からなくなった悲しき一族ですね。「專轉傳團」、せっかくだから並べてあげるね。

「セン、仲間がいてよかった。もうここへ来てはいけないよ」
「ハク、ありがとう。私がんばるね」
「おばあちゃん、私の本当の名前は、專っていうんです」
「專かい。いい名だね。自分の名前を大切にね」

ずいぶん脱線しました。漢字の書き順は、象形文字までさかのぼって決めている割に、以上のように抜けがあります。そして書きやすさも、ゆらいでいます。つまり普遍的なものではない。普遍的でないものに、正しいとか間違っているとか区別するのはナンセンスです。 

日本人は小学生の間に、漢字の書き取りで正しい書き順を叩き込まれます。順番を守ることを無意識下に叩き込まれるのです。順番抜かしは悪なのです。滑り台などで遊ぶ時も、順番を守ることを教え込まれます。
日本人の順番を守ることの行儀の良さが国際的に感心されているようですが、その先に年功序列などという非効率な呪縛が潜んでいると感じます。

おそらく日本人ほど、順番を守ることに対する、善悪メーターの感度の高い民族は他にいないのではないでしょうか。世界では、気づかれなければ順番抜かししたって構わない、抜かされる方も悪いんだと思って、悪びれない民族の方が多い印象です。

確かに順番抜かしは、せちがらいです。でも大人しく順番を待っているより、少しは狡猾にガツガツしてもいいんじゃないの、せめて書き順くらいは厳しく教えずに、ゆるーくしたらどうでしょうかねって思うのです。
おすすめの書き順はコレコレですが、好きに書いてもとやかく言いませんよってね。そこの自由さを残すことが、発想の自由などのイノベーションの原動力になるんだ。

そういや大正生まれの死んだバーさん、ガツガツしていて順番抜かしなんて平気でしていました。順番なんて気にしない人たちが戦後の日本を押し上げたんだ。昔はそれほど書き順も順番も、とやかく言われなかったのかもしれない。
その後、順番を守り、大人しく待つことを憶えて日本は没落したのでしょう。
あれよあれよと勃興著しい国々に抜かされてしまいましたとさ。それではまた。

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