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【Genii 2023.9.】"The Expert at the Card Table"作者は誰なのか問題:Genii 2023 Sep.を読んで

マジック月刊誌Genii 2023年9月号の特集は非常に興味深いものでした。なんと、The Expert at the Card Tableの作者 S.W. Erdnase(日本語だと、「アードネス」と表記されることが多い)の新たな候補者が登場した、というのです。

私自身、"The Expert at the Card Table"は一読しておしまい、Erdnaseの正体も特にどうでも良い、というスタンスの手品ライト層なのですが、今回の特集は面白かった!ということもあり、noteに書くことにしました。
この機会に日本語で色々と「Erdnase正体にまつわる説」をまとめようかなぁと思ったんですが、結構な分量になりそう&ソース当たるの厳しすぎやろ、ということで断念。今回はGenii 9月号の読書感想文的に、ちょっと情報をまとめつつ感想を書いています。ネタバレ注意。

なお、新訳&新装版The Expert at the Card Tableが発売されるそうですね。実質的に第二版で原典に準じた赤表紙ということで楽しみです!(買いました)

Erdnase正体論争の現状

私は「あー、そういえばアードネスって偽名なんだよな。」くらいの前提知識でした。でもそのくらいの人が読んでも今月号のGeniiは楽しめます。

そもそも、S.W.Erdnaseは偽名であり正体不明、というのが通説です。そのため、Erdnaseの正体について、アメリカを中心として多くのマジシャンやマジック史研究家らが論争をしています。有名どころだと、Martin GardnerやDavid Benなどがその論客です。

このErdnase正体論争について、日本語で当たれるリソースとしては、フレンチドロップの石田コラムであり、10年前の記事ではあるものの、概況を掴むことができます。

手っ取り早く正体の候補者を知りたい方は、英語ではありますがWikipediaを見るのがよいでしょう。Wikipediaなので情報の信頼性を懐疑的に見ておいたほうがいいかもですが。

本当に、様々な説があります。例えば、S.W.Erdnaseというあまり一般的でない名前を逆からスペルすると、E.S.Andrewsとなるとか、タイトルページに書いてあるサブタイトル"Artifice Ruse And Subterfuge at the Card Table"を逆から読むと、And Ruse (Andrewsと同じ音)が現れる、というような論拠で、Andrewsという名前が有力視されている、などなど。まぁ、こじつけといえばこじつけっぽい、でも偶然にしては出来すぎ、みたいな間接的な理由で色々な人たちが議論をしているわけです。

しかしながら、Erdnaseの正体は未だに決定的にはなっていません。マジック界最大のミステリーといってもいいプロブレムでしょう。

Genii 2023 9月号で紹介された新説

最新号のGeniiでは、40ページに渡り、Dr. Richard H. Evans氏による、Erdnaseの新たな正体の新説が展開されます。新たな候補者は Emory Cobb Andrews

当時シカゴで出版業界でカラー印刷の専門家として活躍していた彼が新しい候補者のようです。 "The Expert at the Card Table"の筆致や単語の使い方からErdnaseにはある程度学歴があること、加えて彼が本名名義で書いた論文での言葉遣いが似ていること、直筆のサインの分析など、決定打には欠けるものの、間接的な証拠たちを積み上げて正体に迫っていきます。

この新しい説が興味深い理由はそれだけではありません。Emory Cobb Andrewsとマジックとの接点がかなりエキサイティングなのです。彼の働いていた会社の雇い主や同僚がSAM(The Society of American Magicians)の熱心な会員だったことに始まり、実はCobbs自身がフーディーニと個人的な交流があったのではないか、という話まで出てきます。ただフーディーニとの接点には物的証拠が一切ないようで、ここはかなり眉唾ものではありますが。
それだけでなく、最大のロマンある写真がGeniiには掲載されています。フーディーニを囲むSAMのパーティで、若かりしダイ・バーノンとフーディーニと、このEmory Cobb Andrewsが同席しているのです。もしかするとバーノンは知らずして、彼のヒーローに見守られながらフーディーニにマジックを見せていたかもしれないのです。これが最大のロマン。エモい。この写真を見たとき、エモくて鳥肌が立ちました(語彙力

貴重な史料も掲載されているので、ぜひとも本誌を手にとってみてください。すげぇボリューミーですが、その分、読み応えがかなりあります。
最初のところでErdnase正体論争の概況についても説明してくれているので、予備知識ほぼなくても、楽しめます!

Genii誌はデジタルでのサブスクなら、年間35ドルで、複数年契約ならさらに安くなります。おすすめですよ!今後も力及ぶ限り感想を書いていきたいと思います!

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