見出し画像

暖かいのに震える

米を研ぐ
手に当たる水が冷たい

ああ…寒くなった

冬は近い。


帰宅した息子が
私の丸めた背中にいう


「この台所には熊がおる」

失礼しちゃう
ただいまも言わずにそれかい。

冬に備えて買ったのよ
ユニクロのボアフリース。


自分の母親に
熊ってどうよ。

「あー、熊じゃなくて
カタギだ、カタギがおる」




ーー そう。

私は真面目に生きて来た。

どんなに苦しかろうが
お天道様にそむくようなことは
しないで生きてきた。

ひたすら、まっとうに

・・・


違う違う

そうじゃない。


ボアフリースを着た私を

毛皮をまとう仕事人に
例えたつもりなんだろ?


何だろうねえ

もう震えてくるよ。

三十路過ぎてもやっぱり
お前はそうなんだねえ。

そういうところだよ


あんたの脳みそ、
言語中枢っていうのかい?

シナプスの信号
どういう仕組みかねえ?

みたいな。

音階でいうと半音、
惜しいねってカンジ?


あのね、

東北の山深い場所で
生業を持つ者は

カタギであっても
それ、カタギではないんだな。



え?何?
これ何色って?


ああ、毛皮じゃないよ
ボアフリースね。

…何かの出汁が
染み込んだような色…


あんたもクリエイターなんだろ?
なんだい、その表現は。

これはまがいもなく新品だよ。

ウキウキ買ったばっかだよ。

「黄ばんでる」とか
言うんじゃないよ。

ジーンズに合うかなーと
思ってこれにしたのよ。

まあ… 本当はこんな着こなしになる
つもりだったんだけどねえ…


けど、人生もだいたい
イメージ通りに
行かないもんじゃない。

そんなカンジなんだから

フリースの着こなしったって
こんなもんなのよ。

ボアフリースを着てお出かけする母

・・・


いやいや、色のハナシじゃないのよ。



あんたの
言い間違いだよ。

さっきから
あたしの震えが止まらないのは
寒いからじゃないんだよ。

このボアフリースは
とっても

暖ったかいんだから…


この震えは
言い間違いに気づかない
あんたのせい。



ああ、わかってないね?

もー、いい、いい。


あんた、先にお風呂入んなさい。

もうすぐご飯炊けるから。




今日も息子の言い間違いを放置。

おかげで余計暖かくなった。



















この記事が参加している募集

noteの書き方

買ってよかったもの

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?