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処女で聖母で底抜けに明るい娼婦でいてくれ。

薔薇っていろんな色があるけど、でもオレンジ色の薔薇が最高にセクシーだと思うの。午後のアスファルトをきみの小さな足がぱたぱたと踏んだ。染めていない自然な髪から甘いミルクティの香りがする。
僕がきみの腰に手を回すと、ああ、それは小枝みたいに儚く細くくびれた腰で、うすい骨盤に僕の手が触れると、きみは簡単にくたんと僕にぜんぶを預けてくるんだ。

午後の公園にはひとがたくさんいて僕たちは手をつないであちこちで花の匂いをかいだ。誰かが「この国を変えよう」と人々に訴えている。僕が「世の中にはいろんなひとがいるね」というと、彼女は「ね、いろんなひとがいるっていうとき、そのいろんなひとの中に自分も含まれているんだって考えたことある?」そういって水着みたいにきわどくて素敵な流行りのブラウスからふたつの乳房のふくらみがこんもりと花開く。きみの匂いが欲しい。きみのときめきがみたい。きみの恍惚を僕が手伝うから、ひとばんじゅう一緒にいよう。何度でも僕はよみがるから。だから朝になって少しだけ眠ったあとに、きみはキッチンで僕のために卵料理を作ってくれるね。ケチャップは少しでいいんだ。

どうしていつも口を半分開けているの?
どうしていつも他の男を探しているの?
僕だけのために僕の前で踊っていて、笑っていて、せつなく喘いでいて。
きみに出会えたから、僕はようやく生きているんだ。たぶん、でもそういうことをいうと、きみは「30日間ずっとひとりの女の子を抱いて、31日目にその子をぽいっと捨てることができる。男はそういう生き物なの」といってカラカラ笑うんだ。なら女はどんな生き物なの?僕がきいたら、きみは「40日間ずっとひとりの男に抱かれて、41日目に他の男に腰をあずけて可愛く微笑む、女はそうい生き物よ」なんていうんだ。いったい、きみは何を考えているの?今日までどうやって生きてきたの?何人の男の荒い息を聴いてきたの?きみは、油の匂いが染みたぼろ布みたいに汚れて、それから新品のブランス人形みたいに可憐にふるまう。

ね。アカプルコの海辺に寝そべっていた遠い昔のバスタオルの匂いがいまだに忘れられないの。太陽ってほんとうにすごいのよ。お日様が海を焼いていた。海は女ね。大地は男。たけりくるう波が大地を襲うの。やがて波が去り、大地は前よりずっと気高く勇ましくそそり立つ。

きれいにカットできていない不揃いの眉毛にキスをしてあげた。メイクしていないまぶたを僕の舌で濡らしてあげた。きみは「戦争と戦争のあいだに挟まれてるの。戦争の匂いがする。戦争のすぐ近くで女は誰でも娼婦になれる。一年中恋と快楽のことしか考えていない女がこの世にいたって不思議じゃないでしょ。神さまはとても寛容な方だと思うわ。あるとき、誰かがごく普通のバッグにとびきりのブランド品だという価値を与えて、それが世の中じゅうに広まればあっという間にそのバッグは全世界がうらやむ一級ブランドに生まれ変わるの。娼婦もそれといっしょ、きれいに着飾って乳房を銀の鎖で巻いたら、彼女は誰にも手が届かない至宝となっていつでも男たちのことを考えながら無邪気に足の間にオレンジ色の薔薇を飾っている。

世の中は奴隷と支配者のやり取りで成立している。奴隷は労働は美徳だと騙されて、支配者の富を増やすために懸命に働くの。きみはそういって物思いにひたるけど、正直、僕にはきみの言葉の半分も理解できないよ。でも、いいんだ。きみの髪からはミルクティの香りがするし、僕はずっときみのそばできみの恍惚を眺めるのだと決めたのだから。きみは僕を守ってくれる。やるせなさから、砂漠から、記憶と痛みとうずく野心となにもかもからきみは僕を守ってくれる。

もういいよ。きみは何人の男と寝ているかなんてどうでもいいことだ。僕に会う時、きみはいつでも処女で聖母で底抜けに明るい娼婦でいてくれ。


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