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インドへ

チベット・インド旅行記
#33,インドへ

【前回までのあらすじ】ネパールでアテもなく沈没生活を送っていたまえだゆうきは、一路国境を越え、インドへと向かうのであった。

午前9時、照りつける日差しは、新しい土地へ向かう背中をそっと押してくれる。

遠く、遠くと来るほどに重くなる足腰を奮い立たせ、日々を振り切ってバスに乗り込むのだ。


インド国境行きのバスはツーリスト専用で余裕があるとはいえ、ぎちぎちの満載。

重いリュックとギターケースを抱えると足を伸ばすスペースすらない。
後部座席に縮こまり、国境までの道をひたすらに耐えた。


ネパール、インド国境の街、スノウリに着いたのは夕方17時過ぎ。
バス乗り場で客待ちをしているリキシャ漕ぎに声を掛けてボーダーまで向かう。

値段を聞くとボーダーまで5ドルとふっかけて来たので、
「ノーノーノー、1ドルオーケー」。と交渉してリキシャに乗り込んだ。


キコキコとさびたリキシャのペダルを漕ぐ音が夕暮れた国境に響き渡る。
赤茶けた土、畑のうね、乾いた大地にトゲだらけのブッシュ。


「お前は一体、どこから来たんだー?」
「日本からだー」。

「結婚はしてるのかー?」
「まだだー」。

「俺は28歳で結婚をして、娘がひとりいるんだー」。


そうかそうかと相槌を打つ。
真っ赤な夕焼けが地平線に落ちていく。

「ヘイ、ミスター」。
手元から1ドル紙幣を取り出し、リキシャ漕ぎに余分に渡す。
なんて事はない、ただそういう気分になっただけ。それだけだ。

国境についてすぐ、持っていたネパールルピーを全てインドルピーに替えた。しめて900ルピー。(約2250円)

両替所でも沢山の男たちが旅行者を待ち構えていて、バラナシ行きのバスに乗せようと声を掛けてくる。

「バラナシ!バラナシ!250ルピー!(約625円)」
ひとりの男と交渉をし、210ルピー(約525円)でバスのチケットを買い、そのままネパール~インドのゲートを潜った。


ゲートを抜けた、ここからはついにインドだ。


検問を抜けてすぐ、広場に停車しているミニバスに声をかけ、さっき買ったバスのチケットを見せると、ドライバーはチケットをしげしげと眺めた後、けんもほろろにこう言い放った。


「ダメダメダメ、これは偽物のチケットだ。これじゃ乗せられないよ。
 バラナシまでは500ルピー(約1250円)だ。
 可哀想だけど、この偽チケットで割引してやれるのは100バーツだけ。
 何なら中の乗客に聞いてもいいよ」。


くそ!やられた!

思わず後ろを振り返るも、さっきの業者は遥かネパールサイド。
今さら引き返すなんて出来やしない。 

渋々チケットを買い直しバスに乗り込むと、私が最後の乗客だったらしく、バスは国境を背に、暗闇の中へと走り出した。

真っ暗な夜道をヘッドライトを灯しながらバスは行く。

随分と標高が下がったのだろう、どこまでも平坦に続く地面と、所々に点在する雑木林が真っ暗闇の中にポツンポツンとシルエットを浮かべている。

窓を開けると心地よい夜風、朝からの移動続きに疲れしばしまどろんだ。

… 

一体、どれぐらい走ったのだろうか。
今まで順調に走っていたバスはノロノロと速度を落とし、路肩で足を止めた。

車内に灯がともり、ドライバーがとにかく降りろ、降りろ、とジェスチャーをしている。

どうやら走行中にバスが故障したらしい。


ドライバーはしばらくエンジン回りを確認していたが首を横に振りこう言った。

「だめだだめだ、もうだめだ。
 今日はこのバスは動かない。
 お前たちはここからヒッチハイクをしてバラナシまで向かってくれ」。


「はぁ?」と呆気に取られるのも束の間、同乗していたイスラエル人の旅行者グループがものすごい剣幕でドライバーにまくし立てた。
「ふざけるな!」「金返せ!」などと壮絶な言い争いが始まること数分後、道の向こうからこちらに近づいてくるヘッドライトの灯が見えた。


渡りに船とドライバーは大きく手を振り、やってきたマイクロバスを停めた。

幸運にもバスの座席が空いていたようで、ドライバーはとにかく乗れ、とにかく乗れ!と旅行者たちを追い立てる。

ドライバーの指示に従って新しいバスに乗り込む私。


振り向くと、さっきのイスラエル人たちがまだドライバーと言い争っている。
窓越しに若干冷ややかな目線を投げかけながら思った。

「新しいバスも見つかったのに、一体何をそんなに言い争う必要があるのだろうか?早くバスに乗ればいいのに」。

何はともあれ元の乗客全員を乗せてバスは出発した。
ところが、ほっと一息をつく暇もなく、バスのチケットもぎりがやって来てこう言った。

「バラナシまで100ルピー(約250円)」。

は?何、このバスお金かかるわけ!?と周りを見ると、さっきまで言い争っていたイスラエル人グループは涼しい顔。

口論の末、おそらく元のバスドライバーにバス代を払わせたのだろう。


くそ!余裕ぶってみたのはいいけれど、結局、100ルピー損したのは私だけ。恥ずかしさと悔しさがメラメラと胸の内から込み上がってきた。

 
その後、イスラエル人グループに話しかけて色々聞いてみると、さっきのバスも200ルピーで乗ったらしい。(私は400ルピー払った)

ネパールでの両替レートも私の時より全然良いレートで交換している。


彼ら彼女ら随分旅慣れているというのもあるだろうが、インドに入ってからの数時間で確実に旅の難易度が上がったのをひしひしと感じる。
ここから先、かなり気を引き締めなければいけない。という事だろうか。

 
ただ…、何だろう。

確かにお金を余分に取られる事は悔しいのだが、
気ままに旅をしているリッチな日本人として、百ルピーそこそこの事でいちいち目くじらを立てるのも何か違う気がする。


分からない。
でも分かっているのは、私が人として、旅人として、まだまだ甘ちゃんだという事。

早朝、ポカラを出発してからどれぐらいが経ったのか。
日付が変わり、夜中の3時、バスは真っ暗闇のバラナシの街にするすると到着した。


バスから降り、ぽつらぽつら灯る街灯の下、リキシャの座席で熟睡しているリキシャ漕ぎに声を掛け、とにかく市街地まで行ってもらうように頼む。


寝ぼけ眼のリキシャ漕ぎは、ふてくされた顔で黙ってリキシャを漕ぐ。
シャッターの閉まった通り、ネオンの消えた看板、道端で寝転ぶ野良犬、
同じく道端で寝転ぶ人、人、人。


生ゴミと下水の入り混じった匂い。
湿気を含んだ熱帯夜。
通りの奥、通りの奥、闇がぽっかりと口を開けている。


心細さが募る。

 
通りの一角でリキシャは止まった。
ここからは歩いていかなければならないらしい。

「ゲストハウスまで1キロだ」。
リキシャ漕ぎの声を後に、レンガ造りの細い細い路地へと入っていく。

路地は人が1人、2人やっと通れるぐらいの狭い通路で、クネクネと迷路のように上り階段が続いている。

右に左に路地を曲がりながら階段を登っていく、一体今、自分がどこにいるのか全く検討もつかない。

ぶおぉ。と荒い鼻息に驚くと、階段の踊り場では野良牛が寝っ転がって道を塞いでいる。

恐る恐る牛を避けて先へ進む。
よく見ると、足元には生ゴミに混じって牛の糞もちらほら。 


ガラーン、ガラーン、と寺の鐘の音が迷路に響き渡る。
重いリュックサックが肩に食い込む。
べっちゃりと背中から汗が染み出す。


もういい加減歩き疲れた。と思ったその時、遠く道の先にぼんやりと灯る明りを見つけた。
看板には「アーシュラゲストハウス」の文字。

「助かった!」重い体と足を引きずり、ドアを叩き、やっとの事でゲストハウスの一室に転がり込んだ。


→ チベット・インド旅行記/最終章インド編に続く



【チベット・インド旅行記】#33,バラナシ編はこちら!

【チベット・インド旅行記】#31,ポカラ編②はこちら!



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