音読道場指導者は、未来の教師モデル

松永さんのところへはじめて訪れたとき、見学したのが音読サイコロ道場だった。
そのころ、音読を習いに来る子どもが増えて、松永さんだけでなく、周囲の教師で手分けしてメソッドを教えようとしていたときで、道場は僕が事務所にはじめて行った二カ月前に始まったところだったらしい。
そんなこんなで、教師人員が足りず、すぐさまサイコロを教えることになった。

事務所には数学ができる教師が少なかったので、最初はサイコロを教えるのが主な仕事だった。それから1年後の3月に松永さんにはじめて音読を習った。(ちょうど方丈記を音読しているころ地震がきた)
震災の後も松永さんとの音読トレーニングは、何事もなかったかのように継続して、そのまま『にごりえ』『ソクラテスの弁明』まで進め、春休み頃には音読を教えはじめていた。

それから11年、いろんな先生が出たり入ったりしてきたが、最近、指導者養成講座で認定を受けた教師たちが音読サイコロ道場を担当しはじめ、今までと少しちがう雰囲気になっている。

これまでは教育を生業とする教師や、幼いころ道場で音読を体得した学生が担当していたから、若いエネルギッシュな雰囲気があった。
いまの指導者たちは、子育てや会社の若手育成などで教育的な活動をしてきたからか、道場にくる子どもたちの接し方をみていると、なんだか「わかっている」感じがする。包容力があるというか、子どもが活動しやすい言葉や振る舞いにあふれている。だから、子どもたちも伸び伸びと、朗らかな気持ちで参加できている気がする。

それに指導者は女の人が多いので、子供や保護者がやってきたとき、「こんにちはぁ」と優しい口調で語りかけるから、今までのようにぶっきらぼうな教師ばかりでなく、初めての人も参加しやすい雰囲気になってる。
レッスン後、保護者と話し続けていると「余計なこと言うおせっかいおばさん」と彼女たちは自虐するが、そんなことは決してなく、僕にはできないホスピタリティを自然と持ち合わせているようにみえる。参加する人も安心できるにちがいない。

そんなふうに教師を観察して、養成講座をやってよかったなと思う。
教育学を学んで教師になろうとか、そういうのでなく、もっと自然なかたちで教育に関わる先生が、道場から生まれている気がしている。
教育は、生きていれば、おのずと誰もが通らざるを得ないものだから、
子育てしてなくても、会社で部下ができるし、対等な関係であっても、ある場面においては、教育的な言動になりうることもある。
経験豊富な人は自然と教育の場数を踏んでいる。

公教育では教員不足が叫ばれて久しいし、生徒も多人数で面倒みるのは無理ゲーだから、いずれ公教育でも、さまざまな経験を積んだ人たちが、スポットで教育に関わっていく気がしている。
教員免許保持者だけでなく、「百姓」のように生業を複数持つ人が子どもの教育に関わる。それは寺子屋の師匠の復活ともいえるかもしれないし、もしかしたらwebもあるしもっと大きなものかもしれない。

教員免許?それも「資格」の一つに過ぎない。
学者もある意味「資格保持者」だし、他の資格も教育現場にいく「資格」となりうる。
それにオンライン学習が広がれば、教師に学問における専門性は必要ではない。(そもそも持ち合わせていないという説もあるが)
分からないことがあれば、もっと専門的なことを教えてくれるデジタルコンテンツを探せばいい。「私には分からないから」と言って、質の高い授業をガイドすればいい。

それよりも、子どもが伸び伸び学べるように、コミュニケーションすることが大切だし、仲介業者のように、いい教育についていつもアンテナを張っておく好奇心も欠かせない。それに、悩みを聞いて、共感する感受性も必要。

これは、ファシリテーターやメンター、セラピストというのだろうか。

実際、メンターやファシリテーターは欧米の教育現場で大切にされているし、公教育の「クッション」として機能している。日本でも、教育カウンセラーとか心療内科とかが子どもたちをサポートしているのかもしれないが、そんな大げさなものじゃなくて、もっと自然に街に溶け込んでいる存在がいいと思う。スポーツのトレーナーや掃除のおばさんがメンターであったりとかだ。(ここは話が長くなるので、また今度書こう)

少し話がそれたが、とどのつまり僕が言いたかったのは、これからの時代に教育現場で必要になってくるだろうファシリテーターやメンターといった仕事、指導者養成講座を受けた先生たちは、ナチュラルにやってのけているということにひどく感心したということだ。

現代版「読み書きそろばん」と呼んでいる「音読暗算作文」といった基礎学習を教えられ、なおかつ心のケアもおこなえるのだから、
養成講座の先生たちはとても未来的で優秀なんだろう。

そして、そういう教師がもっとたくさんできたらいいなとも思う。
ということで、僕たちは「音読道場」というスキームで、これからの時代の教育システムの一端を担うことを期待している。

2期が来週からはじまる。どうやら1期生を越える受講者がいるようだ。



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