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オペラは一期一会(トリスタンとイゾルデ)

東京の初台にある新国立劇場でワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」に行きました。待ちに待った上演です。
クラシック音楽は好きだがオペラは上演時間が長いし、よく分からないから好きでないという人が私の周りに複数います。確かに長いです。特にワーグナーは。
今回、上演時間は5時間25分。
第1幕85分、休憩45分、第2幕70分、休憩45分、第3幕80分。
開演は14時ですから終了は19時半。カーテンコールも含めると20時頃に劇場を後にすることになります。

クラシック音楽は好きでしたがオペラは全くの他人事だった若い頃、仕事を放り出して、あるいは休みをとってまでオペラに行く同僚の気がしれなかったのですが、今は分かります。

それは、オペラは一期一会だから、です。

オペラは、演出、指揮者、オケ、キャスト、劇場、などが同じ組み合わせで将来上演されることはほぼなく、しかも1演目の公演回数も少なく、仕事やプライベートの都合を考えると、その公演に行ける機会は1回しかありません。
チケットは数ヶ月前から発売になります。人気がある公演のチケットは発売と同時に買わないと売り切りになってしまいます。当日、仕事や病気など突発の事情で行けなくなるリスクがありますが、それでも「この組み合わせの公演はもう二度と観ることができない」と思うと買わざるを得ません。

芝居、歌舞伎も同じ組み合わせが将来演じられることは少ないでしょうが、オペラの場合はその演目の公演回数が少ないです。
今回の公演は、6回ですが、平日の昼間に行けず土曜は何かと予定が入る恐れがあるので、週の真ん中の祝日をターゲットにしました。
2024年3月14日(木) 16:00
2024年3月17日(日) 14:00
2024年3月20日(水・祝) 14:00
2024年3月23日(土) 14:00
2024年3月26日(火) 14:00
2024年3月29日(金) 14:00

今回は、指揮者が大野和士氏です。オケはいつもの東フィルではなく、東京都交響楽団(いわゆる都響)。そして、なんといっても、日本の宝だと思っている藤村美穂子さんが登場します。
日本でトリスタンとイゾルデを公演することは少ない上に、この3者の組み合わせはもう二度とないと思うと、仕事を放り出してオペラに行った同僚の気持ちは十分に分かります。
ちなみに、新国立劇場での前回の公演は10年以上前でした。

ヨーロッパでオペラの指揮を振った大野和士氏のトリスタンを観る機会は10年後ぐらいでしょうし、その時に世界の藤村さんが加わっての公演は年齢的にいってないと思われます。

2010/2011シーズンに大野和士指揮、デイヴィッド・マクヴィカー演出で上演し、センセーションを起こした『トリスタンとイゾルデ』が再登場します。ワーグナー円熟期の楽劇『トリスタンとイゾルデ』はワーグナー楽劇の最高傑作とも称えられており、愛と苦悩が身を焦がすような音楽で描き上げられ、ワーグナーの魔力を全身で感じていただける作品です。ワーグナー楽劇ならではのライトモチーフ(人物や状況を示すモチーフ)や、旋律から新しい旋律へと連綿と繋がる無限旋律がふんだんに用いられるだけでなく、ワーグナーは『トリスタンとイゾルデ』で半音進行を突き詰め「トリスタン和音」と称される不安定な響きの和声を生み出して、官能と昂揚を表現しました。単独で演奏されることも多い前奏曲や、クライマックスの「イゾルデの愛の死」は特に有名で、甘美なうねりが聴くものをカタルシスに導きます。
芸術監督として、オペラ史上の革命的作品であるこの作品をオペラファンの方々へ届けたいと強い信念を持つ大野和士自らが指揮し、トリスタンにゾルターン・ニャリ、イゾルデにはリエネ・キンチャが出演します。

新国立劇場のHP

今回、開演は14時ですので、30分前に到着し、自分の席を確認しホワイエでぶらぶらしてから10分前には自席に着きました。
休憩時間は45分。トリスタンとイゾルデは歌い手の負担が大きいので、長めにとっていると思われますが、劇場から出て近くのコンビニに行くには十分な時間です。会場(ホワイエ)でも軽食や飲料を買うことができますが、値段が高いのでコンビニはありがたいです。会場にオペラ好きの知り合いがいることが多いのですが、見つけて感想を語ったり、次の公演の情報交換しているうちに、次の幕が始まります。

私にはオペラに造詣が深いわけでもなく、音楽を評論する文才がないと自覚しているので、公演の詳細はメディアやSNSの評論に譲りますが、5時間30分という時間を感じさせないほど陶酔しました。

トリスタン伝説とワーグナー 石川栄作 平凡社新書

ワーグナーはケルト世界に伝わる伝説を元にこのオペラを創作しましたが、あらすじはシンプルで、登場人物も少なく、ストーリーは分かりやすい内容です。舞台演出も簡素です。
観る方は、歌い手の表現力、歌唱力の細部、一瞬一瞬を逃すまいと全集中し、音楽と歌で人間心理を描くワーグナーの世界に没入してしまいます。
大野氏は手兵の都響から繊細かつ深みのある音を引き出し、強弱によって巧みに表現します。さすが、です。

直前にトリスタンとイゾルデの役が替わったのでどうなることかと思いましたが、まったくの杞憂でした。脇を固める藤村さんは、別格。さすがドイツを始め世界の第一線で活躍する歌い手です。オペラは2018年3月21日に新国立劇場でのフランス語の「ウェルテル」で、リサイタルは2018年2月28日の紀尾井ホールで聴いたことはありますが、オペラ、しかもワーグナーのオペラでの藤村さんを観ることができ、これほど思い出に残る公演はありません。
今回の公演は「2024年3月の新国立劇場でのトリスタンは、、、、」と語り継がれることと思いますが、私も「大野和士氏、都響、藤村さんのシンコク(新国立劇場)でのトリスタンは、、、、。」と語っていくと思います。

オペラは一期一会、次は5月の公演。全集中で楽しみます。



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