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図録の「効用」をミクロ経済学的に考える 東京国立博物館のショップにて

ほとんどの展覧会は、鑑賞コースの出口に特設のミュージアムショップがあり、関連する商品を販売しています。数々の作品に心を揺り動かれた穏やかな興奮状態のままショップを見て回ると、鑑賞したときの印象を持ち帰りたい衝動からポストカード、マグネットなどのグッズを買ってしまいます。

ポストカードはその後に見ることもなくショップでもらった封筒に入ったままですが、価格が100円程度なので「選ぶ楽しみ」と「安価で印象を持ち帰った」ことによる経済学で言う「効用(満足感)」は大きいです。
マグネットは600円ぐらい。自宅の冷蔵庫に「自治体のお知らせ」「学校からの通信」などを貼り付けるための「ピン」という実用性と、白壁のような冷蔵庫の表面のデザインとしてのアクセントになる、ことから「効用」は高く低下することもありません。

その他のグッズ、例えばバッグ、マグカップ、ネクタイ、などは使うことがないと分かっていますし、1000円程度するので、私の「効用」は低いことが予想され買うことはありません。
ーーーマグカップだけでも何個あることやら。。。。

まさに、ミクロ経済学のお手本のような行動になっています。

「効用」とは、ミクロ経済学の基本的概念で、人が財やサービスを消費した時に感じる主観的な「満足の度合い」であり、「効用」は人によって異なり、経済学では、人々はこの「効用」を最大化するために行動しているということを前提にしています。

買った直後の「効用」は最大になっているものの、自宅に持ち帰ってから「効用」が暴落するのが「図録」です。本棚を飾るだけになり、買うのではなかったと後悔する時もあり「効用」がマイナスにあることもあります。
背表紙はインテリアになりますが、洋画、日本画、版画、などジャンルがバラバラのため、本棚は美的ではありません。

ミュージアムショップで図録の見本をぱらぱらとめくっていると、鑑賞直後の印象を包んで持ち帰りたい衝動が、2000円以上を支払うことの躊躇を上回り、図録をレジに持って行ってしまいます。図録に掲載されている絵画・美術品の写真だけでなく、専門家の解説も参考になるからです。

ただ、画集と違って図録に載っている作品は展覧会の作品が中心ですから、特定のものを切り取っているので、展覧会の思い出が薄れていくことに比例して満足感も低下していきます。
買った図録を見ることもなくなっていきます。

こうした学習効果から、最近では図録を買いたいという衝動をなんとか押さえ込んでいます。最初のころはそれがストレスになってしまい、鑑賞したという満足感を低下させてしまうという、展覧会の「効用」を低下させてしまうこともありましたが、「どうせ見ない」と自分に言い聞かせることで展覧会の「効用」を保つ境地になることができました。

美術品を見たり、関連する本を読んだりしていると、もっと調べたくなってきますが、そんな欲求を満たしてくれるのが過去の展覧会の図録です。
トーハクこと東京国立博物館のミュージアムショップには、過去の展覧会の図録がたくさんあります。トーハクは美術品の宝庫ですが、図録も宝庫です。

トーハクは2500円で年間パスを購入することができ、常設展やミュージアムショップにはいつでも行くことができます。トーハクには法隆寺宝物館もあり、食事も美味しく、庭園もあり、疲れたら新館のソファでうたた寝することもあり、年間パスの「効用」は最大値で安定しています。

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2500円のメンバーズパス 「効用」は最大化しています

トーハクのミュージアムショップには、グッズだけでなく美術関連の本も充実していますが、なんといっても全国の博物館・美術館の図録コーナーがあるのが特徴です。


図録コーナー

書籍のコーナーで本を探したりしていましたが、図録に関しては私の図録に対する「効用」は低下することが分かっていましたので、図録コーナーは「沢山の図録があるなあ」という程度で図録の数々を眺める程度でした。

図録の数々

時々、図録をぱらぱらとめくっていましたが、中には「これはいい」「効用」が低下しない、というものもあります。

それが今回買い求めた「国宝源氏物語絵巻 五島美術館」です。
平成22年に発刊された「開館50周年記念特別展 国宝 源氏物語絵巻 図録 五島美術館展覧会図録」です。
源氏物語に興味があり、その関連の絵巻物を画集などを買い求めていましたが、この図録は作品だけでなく解説がとても充実しています。値段は2000円台。
2000円台という値段で専門書に近い内容の図録を買ったという「効用」と、自宅で読み込み新たな発見を得られるという「効用」の相乗効果から、この図録の「効用」は最大になっています。
いつかは崩し文字を読めるようになりたい、というチャレンジ精神もそそられ、「効用」が低下する見込みはゼロです。今のところ。

買い求めた図録


当時の展覧会に行って買ったとしても「効用」は直ぐに低下していったことでしょう。美術品に触れ、源氏物語やいろいろな古文を読んでいる今だからこそ、この図録の「効用」は高くなっています。
「効用」が高い図録は、本棚で背表紙を眺めていても、眺める「効用」は高いです。

美しい絵巻
解説も充実
崩し文字、まだまだ読めません(涙)

この図録を購入した経験から「図録は衝動的に買うのではなく、後でトーハクで買えばいい」ということを学習しました。
展覧会のミュージアムショップで「図録を買いたいが我慢する」というストレスからも解放され、展覧会の「効用」も高まります。


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