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ゴッホの手紙を読んで 日本への強い憧憬

ゴッホが好きな人、西洋美術を学んだ人、ならゴッホの手紙を読んだことがあるでしょうが、これはゴッホの絵の鑑賞を深める良書です。
弟のテオドル宛ての手紙をすべて翻訳したものではなく、文庫本という都合上翻訳者が手紙を取捨選択したものですが、それでもゴッホの作品の背景などが十分に分かります。
また、なぜオランダから南仏に滞在したのか、なども手紙に書いてあります。
更に、ゴッホは日本の浮世絵などに影響を受けたとは知っていましたし、作品からもそれが窺い知れますが、日本への憧憬がとても強かったことはこの本を読んで分かりました。手紙の至る箇所に日本について記載していますし、しかも日本への強い憧れを読み取ることが出来ます。

まずは、オランダからアルルへ行ったのは、単に温暖で日光を求めてのことかと思っていました。
アルプス以北のヨーロッパに住んでいると、寒く、暗く、長い冬の生活に鬱々としてきて、南仏やスペインに太陽を求めて旅行したくなります。
写真は旅行で行った時の12月のアムステルダムですが、昼間でも暗いし、日の入りは早いので、楽しみは自宅でアルコールに浸るか、演奏会などに出かけるか、ぐらいでした。
日光が少ないので、ビタミンDが必須でした。

アムステルダムのコンサートホールのコンセルトヘボウ

これが同じ12月でも南仏に行くと昼間は明るいし、温暖です。写真は12月のアルルです。
クリスマス休暇に太陽を求めて車で南仏に行きましたが、アルプス以南は気候が全く違い、鬱々とした気分を発散することができました。

ゴッホが南仏に滞在し続けた理由はちょっと違ったようです。

たとえ物価が高くても南仏に滞在したいわけは、次の通りである。日本の絵が大好きで、その影響を受け、それはすべての印象派画家たちにも共通なのに、日本ヘは行こうとはしない。つまり、日本に似ている南仏に。結論として、新しい芸術の将来は南仏にあるようだ。
ゴッホの手紙 中 エミル・ベルナール編 硲伊之助 訳 岩波文庫 P105


これは驚きでした。アルルが日本に似ているとは思えないのですが、ゴッホは日本の絵画からそのように思ったのでしょう。
この他にも日本についての記述は多く、単に浮世絵から影響を受けただけでなく、日本への強い憧憬が作品の背景にあったことが分かりました。

アルルの街並み(12月撮影)


アルルの円形闘技場(12月撮影)

手紙には作品についての説明もあります。アルルには「夜のカフェテラス」のモデルとなったカフェがあります。

夜のカフェテラス Amazonで販売しているポスターから

著作権に配慮してAmazonで売っているポスターを貼り付けました。
写真はモデルとなったカフェです。

夜のカフェテラスのモデル

作品と実際のカフェの雰囲気が違うと思っていましたが、「夜のカフェテラス」についてゴッホは次のように書いています。

僕は「夜のカフェテラス」の絵で、カフェとは人が身を滅ぼし、狂人になり、罪悪を犯すような場所だということを表現しようとした。要するに僕は、やわらかいバラ色に鮮血のような赤と酒糖色や、ルイ15時代風のやわらかい緑やヴェロネーズ緑などに、黄緑とかたい青緑とを対比させて、地獄の坩堝と青白い燐美の雰囲気の中に、居酒屋の暗い機能を表現しようとしてみたのだ。
ゴッホの手紙 中 エミル・ベルナール編 硲伊之助 訳 岩波文庫 P236

私は「罪悪を犯すような場所」という風に鑑賞していませんでした。モデルの場所に行って、作品と違うなあ、とぐらいにしか思っていませんでした。これが作品で表現したかったことなのか、と初めて知りました。

カフェが面しているプラス・デュ・フォルム広場


「ゴッホの手紙」には、他にも作品についても記載があります。

僕はもっと向日葵を描きたかったのだ、でも、もう季節が過ぎてしまった
(中巻のP282)
ああ!クロード・モネが風景を描くように、肖像を描きたい!
(下巻のP157)

ゴッホの手紙はこのように作品を理解する上で大変役に立ちますし、手紙が保存されていなかったら、「夜のカフェテラス」は本人の意図とは違った解説になったかもしれません。


ゴッホが南仏に滞在したのは日本への憧憬がベースにあるようですが、夏の南仏は、太陽がいっぱいです。写真はエクス=アン=プロヴァンスですが、見ての通りの青空、セミの鳴き声(とっいっても、日本のセミとは鳴き声が全く違って騒音ではないです)に溢れています。


エクス=アン=プロヴァンス(8月撮影)
エクス=アン=プロヴァンス(8月撮影)
エクス=アン=プロヴァンス(8月撮影)

ゴッホの手紙を読んだ後でも、南仏が日本に似ているというのはどうにも首肯しかねますが、日本への憧憬がゴッホの創作意欲の原動力だったことは間違いないようです。


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