プロとはなにか 「マジックプロプレイヤー」を一年やってみて

はじめに:今年もMPLも終わる

プロとは何かという話題が定期的に上がるのを見かける。

よく見る定義①公式がお金を出して契約している人がプロ

Magic Pro Leagueは名前にプロが入っているし、公式がそう言っている以上は文句ないのではなかろうか。だが私がマジックを始める前にはプロレベル制度というものがあったらしく、一番上(か知らないが多分そう)のプラチナ以外はプロじゃないという人もいる。

よく見る定義②マジックのプレイにより生計を立てている人がプロ

シルバーやゴールドは生計を立てるだけの収益がないのでプロではない、らしい。(具体的な金額は知らない)

他にも

よく見る定義③企業が後ろについていたらプロ

とか、①~③の複合、亜種などいろいろな定義を主張する人がいる。

私は去年から今年にかけてMagic Pro League所属て日本で自立して生計を立てられる契約金をもらったのでプロと言っても誰も文句を言わないと思う。

そんな私からしたプロの定義は

自分でプロと言えばもうプロ

である。

なぜそういう結論になったか、今年の取り組み、これからプロになりたい人へのアドバイスを一年を振り返りがてら語ろうと思う。

一年プロをやってどうだったか

お金をもらえた。以上!!
お金は非常にありがたい。本当にありがとうございました。

逆に言えばそれ以外何もなかった。世界選手権の際はインタビューを受けたりしたが、MPL所属プレイヤーとして公式からの記事の依頼とか動画出演依頼とかは一切なかった。

それもそうだ。興行として失敗したから潰すことが決定している制度である。公式はMPLに価値を見出していない。そうすると肩書はあるが公式が何もプロモーションしてくれない状態だ。無冠の帝王という言葉があるがその逆。世界に24人のトッププロという冠はあるが実態はなにもない。

肩書を活かして自分で何かしなければならない、と思ったのが今年の初めである。

実態があっても宣伝能力がないと何もならない

自分が当事者になってこのことは強く実感した。

これを実感したのはMPLとしてだけではない。大学の研究室の博士学生の先輩からもであった。その先輩は在学中に学会で論文優秀賞を何度も受賞し、学生のうちに助教のオファーが来ているバケモノのように優秀な人だ。(アカデミックでない人からするとピンとこないかもしれないが、普通任期ありの研究員を何年もやって助手とかから助教になるので助教にいきなりなるのはとてもすごい。)まさに東大の更にその上澄み。その先輩が研究能力が高いことはもちろんだがプレゼン能力がすごい。積極性もすごい。

給付奨学金や研究費の取り方を聞いたことがあるが申請用紙の記述箇所でフォントを変えたり図を使ったりするらしい。審査する人が自分の研究をわかってくれるかなんかわからないので、わかりやすさで勝負するしかない。マジックのプロ制度も同じだ。競技シーンを追ってプロ制度を追っていない人が大半。「MPL」より「トッププロ」と言った方がいい。

A4の半分以下の欄に図を入れる発想がなかったので、そんなことやってもいいんですかと聞いた。「やっていいかわからなかったらメールして聞いてみればいい」とのこと。私には図を入れる発想がなかっただけではなく、仮に思いついたとしても質問のメールを送る積極性は少なくともその時点ではなかった。

その時は「こんなに優秀な人でも頑張ってアピールしないといけないんだ!俺も頑張ってプレゼン能力を磨こう!」程度に思った。実際は積極性も伴うもっと深い話であるというのは少し置いといて。一旦プレゼン能力の話に戻る。

そんなわけで私は自分の経験に加え尊敬する先輩の話からプレゼン能力やアピール能力を上げる必要があると強く実感した。プロプレイヤーのキャリアを活かしてゲーム系のコンテンツクリエイターになるならプレゼン能力が必要だ。研究者になったり別の事業をやるにしても協力先を見つけたり出資してもらうためにプレゼン能力が必要。なんなら雇われるにしても上司に評価してもらうにはアピールが必要。

謙虚は美徳なんていうのは、ルサンチマンの妄言である。今の時代ネットでその分野の世界一が簡単に見れるのだ。一人黙々ととよくわからんことをしている私を見てくれる人なんか滅多にいない。世界一に比べて少しでも自分が凄いところがあり、自分がどう凄いかアピールできなければいけない。

文章を通じたアウトプットにもっと力を入れたいと思った。動画や配信の方が人気はあるが、自分が文が好きだからだ。自分が好きだからこそいいものを作ろうという情熱が持てる。

今年の6月以降はとにかくそのことを頭に活動してきた。まず6月、肩書だけじゃなくて「この人の記事だから読みたい!」と思ってくれる人を増やしたいと思い自分について語ってみた。

すごいバズった。俺、文章書けば結構いけるんじゃないか?と嬉しかった半面、他力に頼らずさっさとこうするべきだったと反省した。それから現在まで試行錯誤を続けている。文章術や広告技法の勉強を始めたし、デザイナーの友達に相談してデザインの勉強を始めもした。

試行錯誤としては、抽象度を上げてマジック以外のカードゲーマーにも見てもらえる工夫をしたり

挑戦的なタイトルをつけてみたり

パロディをやってみたり

毛色の違うことを書いてみたり

結果、マジックで勝ちまくっていた2021年に比べ、ほとんど勝たなかった2022年のほうが多くのインプレッションをもらえた。記事を書くと嬉しいコメントをくれる人も大幅に増えた。書いてみたいこと中心に試行錯誤しているので楽しいし、文を書く能力が上がる実感やそれが評価されることがとても嬉しい。

「プロ」がなくなるこの今、私のマインドは過去一番プロらしくあれていると思う。(念のため、改善できているという意味で現状で十分満足という意味ではない。このような取り組みは今後も勉強し試行錯誤を重ねていくつもりだ。)

「マジックプロ」としてかはわからないが、文を書くのは楽しいし身になっているのを感じるのでこれからも続ける。

それを踏まえてプロとはなにかを再び

プロは名実共になくなるので、定義②の生計を立てるプロを(プロマジックプレイヤーを続けたいなら)目指すべき・・・というのはちょっと違う。

どこが違うかと言うと、プロは名実共になくなるわけではなく、名は残るからだ。そう、プロツアーである。

プロツアーに出られれば生計を立てられるかというとNOだ。

最低賞金は1,000ドル。交通費や宿泊費、食費で節約しても20万円以上参加に必要だろう。生計を立てるどころか参加のために別で金を稼ぐ必要がある。TOP8でも10,000ドル。これを年に3回だから日本だとすごく倹約してぎりぎりである。第一毎回TOP8どころかプロツアーに参加し続ける制度もないのにそんな不安定な生活でプロ、と言ってもなりたかったプロはそんなんじゃない!となるだろう。

制度もいつ変わるかわからない。マジックにしろ別のTCGにしろプロカードゲーマーをやるならプロ認定はきっかけとするだけで、何らかの別の方法で収益を安定させるべきだ。

プロの名はあるが実態を伴わせてはくれないから実態は別の方法で収益化して自分で伴わせるしかない…。

じゃあプロになりたければ勝手にプロと名乗ればいいこれに尽きる。

プロなんて法律で定めれらた基準があるわけじゃない。「〇〇じゃなきゃプロじゃない!」なんて主張はポジショントークやしょうもない人のわがままでしかないのだ。

勝手に名乗ってしまえ。勝手に開業届を出して個人事業主「プロカードゲーマー」になってしまえ。(ちなみに私はもう出しているのでMPLがなくなっても国が認めたプロカードゲーマーである。)

「カードゲームで生計を立てているプロ」になりたいなら使えるものは使うべきだ。「プロツアーに出たからプロ!」でも、「プロツアー目指してるからプロ!」でも言ったもん勝ちである。

コンテンツクリエイターとしての箔付けのプロに実態が伴っているかなんか大抵の人が気にしない。重要なのはコンテンツ内容がいいものであるか、それらしく堂々としているかだ。私自身、勝ちまくっていた2021年よりアピールに力を入れている2022年の方が伸びている。最近"神"になった友人のおたっくんは参加者たかだか60人台のイベントの称号の神がすごいと言われるのに、過去のもっと難しい称号は大した反応をもらえないと言っていたが、そういうことだと思う。競技目線だと全ての人が実態を把握しているような錯覚に陥ることがあるが、ほとんどの人にとって重要なのは第一にわかりやすさである。この上なくわかりやすく最強の箔の"神"を発行した晴れる屋はさすが業界王手だと思う。

日本だと有料記事やコーチングで収益を得ることは一部から胡散臭い扱いを受けるが、本国アメリカはじめ海外では普通である。

世界で最も有名な競技チームChannel FireBallはチームでプラットフォームを運営して有料コンテンツとして記事や動画を出している。

英語圏のコーチングプラットフォームのmetafyではMPL、MRLはじめ多くのマジック強豪が確認できる

配信で収益を稼ぐことも日本では本来以上にハードルが高く感じられていると思う。個人の収益に関わることなのでぼかした表現になるが、英語圏ではフォロワーあたりのサブスク率が日本の3倍以上あることを国内外の配信者の話を聞いて推定している。

「日本だと受け入れられてないから無理…」という見方だけでなく、「日本では競合が少ない!ブルーオーシャンだ!」という見方もできるだろう。

結局はやり方と見せ方の話だ。内容がいいこととそれっぽい箔があること!せっかく公式が「プロ」の名を提供してくれてるのだから使わないと損である。勝手に使って誰かに文句を言われても無視すればいいだけだ。

これからプロプレイヤーとして生計を立てたい人へ

競技マジックを通じて稼ぐためには競技プレイヤーの属性を持っているコンテンツクリエイターというのが近道だと思う。どうすればいいかで積極性の話に戻る。

公式から記事や動画の依頼が来なかったとは言ったが、2022年 (原稿を提出したのは2021年) のマナバーンへの寄稿はしている。だがこれはオファーをもらってのではなく自分で提案した。ちなみに今年はオファーをもらったりはしていないし持ち込みもしていないので寄稿はない。

おそらくこれと同じで、向こうから声をかけてはくれないが提案してみると通るということはよくあるのではないかと思う。

こう思うエピソードは他にいくらでもある。

例えば、個人でやっていると思っていた海外プレイヤーと話してみたら海外の(ほとんどの日本人が雲の上の存在だと思っている)某強豪チームにコンタクトして一緒に調整していたと聞いたこととか。

例えば超強豪の調整パートナーと話したら3年程度のオンラインのみでの付き合いしかないことがわかったこととか。

実はその道で成功している人や有名人と関わる機会はそこらへんに転がっているが勝手にこちらが目を閉ざしているだけだ。提案してみると意外といけるのである。

もちろん、全く無名な状態でオファーするよりは何かあったほうがいい。私もマナバーンに寄稿の提案をしてOKをもらったときにnoteを見てこれなら大丈夫そうと思っていただけたらしい。

よく「マジックで稼ぎたいならnoteでも書いてみればいいじゃん」と言うと、「もっと勝ってから」とか「今の状態で書いても見てもらえないだろう」とか「勝ってないのに偉そうにして変なこと言われると嫌」とか言う人がいるが、すぐになんか書くべきだ。私は自分が文章が好きだから文章だが、配信や動画が好きならそちらでもいい。

勝てるようになってから発信するのは効率が悪い。だって発信力がなければプロとしてはやっていけないのだから。マジックで勝って、そこから執筆や配信を始める…時間の無駄だ。文も配信もうまくなるには練習がいる。ラダーに潜るぐらいの気軽さで継続して発信していかないとせっかく勝ったアピールチャンスを逃すかもしれない。

企業スポンサードを目指すならなおさらだ。発信能力が低い人間に看板を持たせてもしょうがない。

また、いきなり偉そうにしても意外とアンチコメはこない。私はnoteをはじめていきなり有料記事を書いた。

今から見ると文章も内容も酷い。スキの数から見て読者もいいと思った人が少ないのがわかる。ちなみに数千字の苦情のDMも来た。だが内容は建設的で身になる批判であったのでその人には感謝しているし、単なる中傷のコメントは来なかった。世界は意外と優しい。

買ってくれた方々には申し訳なかったなと思う一方で、書いてよかったとも思っている。書かなければはじまらないからだ。マジックと同じだ。下手なら勉強したり練習したりするしかない。

加えて名刺代わりにも発信することは重要である。私はプロプレイヤーとしてイベントに向けて中心となってチームを作ることがある。そこでコンタクトをもらって新メンバーを受け入れたこともある。そこで書いた記事なんかがあれば、チーム調整に必要なコミュニケーション能力や言語能力の証明になる。また言語化能力と実力は相関がある。何かを発信している人はしていない人よりも断然受け入れやすい。

最後に勝たなくてもコンテンツにすること。勝たなければコンテンツにできないのはもったいない。カードゲーマーなら強くても負けることがあるのはわかるだろうし、リスクヘッジの重要性もよくわかっているだろう。第一プランが通ったときのことしか考えずにデッキを組むのは損だ。《鏡割りの寓話》を3ターン目に必ず出せるとは限らない。用意できるならサブプランを用意しろ。

自信があったデッキで大負けしたとき私はデッキを共有して勝った友達にお願いして有料部分のために対談してもらった。負けてティルってる暇はない、カードゲーマーなら第二第三のプランを選べ。内容に自信があれば箔は友達に頼んでもいいし、ラダーで後付けもできる。

また、負けから得られた発見というのもためになるコンテンツにできる。私の過去記事のうち評判の良かったもののいくつかは自分の失敗を一般化して論じたものだ。読んでいる人の大半は負け語りだと気づいていないと思うが。

勝ち方より負け方の再現性は高い。負けからの学びは勝ちからの学びより良いコンテンツになるとすら思う。

以上、これからプロとして生計を立てたいなら、
・いろんなところに自分から凸る
・堂々と今から発信を始める
・視野を狭めずにリスクヘッジする

が私からのおすすめだ。




お読みいただきありがとうございました。年末のまとめとして書いていたのが書いているうちに年が明けてしまいました。今年もよろしくお願いします。

noteのコミュニティを始めました。私に今年もプロっぽくいてほしいと思ってくださる方はそちらからご支援いただけるととても嬉しいです。


おもろいこと書くやんけ、ちょっと金投げたるわというあなたの気持ちが最大の報酬 今日という日に彩りをくれてありがとう