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今さら聞けない!【行動経済学】とは何か?

経済学に心理学のアプローチを持ちいることで、リアルなビジネスに多く活用されている行動経済学。その誕生の経緯と理論の基礎、行動経済学がどのようにビジネスに活用できるのか分かりやすく解説する。

リアルな人間像を研究する学問

行動経済学はビジネスの世界でもよく聞くキーワードだが、いまいち、どい
ういうものか、分かりにくい学問ではないだろうか。
その理由として、行動経済学は比較的新しい学問である為、体系化されていない、汎用的なフレームワークなどがないなどが挙げられる。
加えて、「ツァイガルニック効果」「エンダウド・プログレス効果」「ヴェブレン効果」など、とにかく専門用語が難しい。
行動経済学はビジネスの現場、特にマーケティングの分野ではとても役立つ学問だが、こうしたハードルがある為、なかなか浸透していない。

そもそも経済学というものを、突き詰めて考えていくと、「世の中にある限られた資源をいかに有効に活用していくかを研究することにより、人々がどうすれば幸せな生活を送ることができるようになるか」を考える学問、それが経済学である。

実は、経済学の研究目的自体に問題がある。
「どうすれば幸せになれるか」と言っても、幸せの概念はそれこそ人によって違う。それを一つの理論にして万人に適応できる原理原則というものは、本当はできないが、それでは学問として成り立たない為、そこで経済学では、理論を考えるにあたって一つの“モデル”を作る。
人間というのは「こういう経済原理で行動する」という“人間の模型”を想定し、これをホモエコノミクスと言う。

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経済学においてホモエコノミクスというのは、経済的合理性のみに基づいて個人主義的に行動する、と想定した人間像のことを言う。すなわち自分の利益のみを考え、その利益が最大化するように常に完全に合理的な行動を取る存在、それがホモエコノミクスである。

例えばマクロ経済学の経済統計量の算出だったりには、実用性があるが、ホモエコノミクスを前提とした経済理論では、ビジネスの現場では少し使い勝手が悪い。
人々は常に期待効用を最大化し、人々は自身の効用のみに関心を持つというこの新古典派経済学での前提というものがないと数式化が複雑になりすぎる為、理論化ができない。しかし言うまでもないが、リアルな世界では人間というものは必ずしも常に合理的な行動をするとは限らない。
現実世界での経済行動において、人が何かを選択する場合には、心理的な要素が大きく影響している。従来の経済学ではそこが抜け落ちているのだ。

では、経営学のジャンルではどうかというと、こちらも基本的にホモエコノミクスを前提としている。
マーケティング理論も、経済学と同様に「人間の心理的側面」という、説明が難しい“不安定なもの”を排除して構築されている。

経済学、経営学の学問の中で、これまで切り捨てられてきた人々の心理的な側面にフォーカスしてより実践的にリアルな人間像を研究する学問が今回説明する行動経済学だ。

行動経済学のメカニズム

行動経済学の研究は1950年代頃から始まった。「ありのまま経済行動を研究しよう」、「現実を描写するような経済学を構築して行こう」というアイディアを提唱したのが始まりで、ダニエル・カーネマンやリチャード・セイラーなどが第一世代と言われている。
1990年代に社会心理学的な観点から、新古典派経済学の数式モデルをベースにしつつ、心理学的エビデンスに基づく理論を提唱するようになった。これが第二世代である。

ダニエル・カーネマンはプロスペクト理論で有名だ。プロスペクト理論は、不確実性下における意思決定モデルの一つである。
選択の結果得られる利益もしくは被る損害および、それら確率が分かっている状況下において、人がどのような選択をするかというのを記述するモデルだ。これは、従来のミクロ経済学での期待効用仮説での現実との矛盾を解消するための理論である。

期待効用理論(Expected Utility Theory)とは、不確実性を伴う意思決定において、その選択肢に対する選好関係が、効用の期待値(つまり期待効用)の大きさにより決定されるとする意思決定理論である。 期待効用理論では、ホモエコノミクスを前提としている為、意思決定者は常に期待効用が最大になるような選択・行動を取ることが仮定されていた。
ところが現実は必ずしもそうではないということが心理学的には分かっている。

例えば、有名なカーネマンの心理学的実験の事例で説明する。
これは「一つだけの質問による心理学(psychology of single questions)」と呼ぶ手法で行われた実験である。
【まず、あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示されたものとする。】

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選択肢Aの期待値、期待される効用は100万円。選択肢Bの場合も確率50%、50%の為、期待される効用は同じく100万円である。
どちらを選択しますか?と聞かれた場合、より確実性の高いAの選択肢を選ぶ人が圧倒的に多数となる。

もう一つ質問を考えてみよう。
【あなたは200万円の負債を抱えているものとする。そのとき、同様に以下の二つの選択肢が提示されたものとする。】

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この質問の場合、選択肢AもBも期待値は-100万円で同額だ。
最初の質問で確実性の高いAを選んだ人が、今回の質問の場合は、ほとんどの人がギャンブル性の高い選択肢Bを選ぶことが実験で分かった。

こうした人々の選択肢の選び方は従来の期待効用理論では説明できない。
期待される効用が同じであれば人は同じ確率で二つの選択肢を選ぶはずというのが期待効用理論であり、ところが実験ではそうではないという矛盾である。人は完全に合理的な選択をしないということだ。

この実験結果が意味することは、人間は目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先して、逆に損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向(損失回避性)があるということが分かったという内容である。

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商品のキャッチコピーなどのケースでプロスペクト理論を応用すると、人には損失回避性、得をすることよりも、損をすることやリスクにさらされることについて、過大に反応してしまう傾向があることが分かった為、例えば「この商品を使えば、〇〇のようなメリットがあります」というメリット型の訴求よりも、「この商品を使わなければ、〇〇のようなリスクがありますよ」というリスク型の訴求の方が大きな反響を得られるというような判断ができるようになる。

行動経済学の役割は、まさにこうした局面で、人の心のメカニズムも考慮することによって、より満足度の高い選択を行なうことができるようにすることにある。
ビジネスマンにとってみれば、行動経済学を理解することによって、人々がどのような認知をするとどのような判断をするのかをより深掘りして理解することができる。

カテゴリー分けした行動経済学の理論

人々の判断の仕方は大きく分けて3つの方向性がある。
1.人は一部の目立つ情報だけで、短絡的に判断する
2.人は情報の「与えられ方」だけで、短絡的に判断する
3.人は元々の「自分の考え方」が働き、短絡的に判断する
これを一つ一つ説明していく。

1つ目の傾向は、人は一部の目立つ情報だけで、短絡的に判断するというものである。

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これにはバンドワゴン効果、ハロー効果、ジンクピリチオン効果などがある。
バンドワゴン効果とは、人は人気を多く集めていることがわかると、元々関心がなかったにも関わらず、興味を示してしまうという現象である。 
次は、ハロー効果。これは、ある「目立つ特徴」に引きずられ、それだけで評価がポジティブに振れてしまうという現象である。
3つ目がジンクピリチオン効果。これは、聞いたことのない、凄そうな言葉の響きだけで、「何となく良さそう」と短絡的に判断してしまうというものである。
このように一部の目立つ情報に引っ張られて人は短絡的に判断する。

2つ目の傾向が、人は情報の「与えられ方」だけで、短絡的に判断するというものである。

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これにはザイアンス効果、ウィンザー効果、返報性の原理などがある。
ザイアンス効果とは、何度も繰り返し接触させられることによって、警戒心が薄れ、次第に好印象を持ち始めるというものである。

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ザイアンス効果はTVのCMやウェブマーケティングの現場などでも活用されている。 
次が、ウィンザー効果。ウィンザー効果とは提供者から直接アピールされるよりも、第三者から間接的に聞いた情報の方が信じやすいというものである。

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会社の製品ページなどにお客様の声などを記載するというのもウィンザー効果を狙ってのものだ。
次が、返報性の原理。最初に人から何かの施しを受けた際、ポジティブな行動で返さなければいけないと思ってしまうというものである。

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スーパーの試食コーナーが良い例だ。

3つ目の傾向が、人は元々の「自分の考え方」が働き、短絡的に判断するというものである。

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これには、確証バイアスや一貫性の法則、ヴェブレン効果などがある。
確証バイアスとは自分の考えを正当化するために、それを証明する情報ばか
りを探してしまい、ネガティブな情報に目がいかなくなるというものである。

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ネットワークビジネスにハマった人はこの典型例だ。
次が一貫性の法則。

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自分で決めたことについて、最後まで一貫性を持った態度をとろうとして、それに反する行動を避けてしまうというもので、ビジネスの分野でも多
く活用されている。
最後が、ヴェブレン効果。

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「それを購入した自分」をアピールしたいという欲求が働き、高額な商品を購入したいと考えてしまうもので、高級ブランドなどがヴェブレン効果の良い事例である。

最後に

今回は行動経済学の基礎について解説した。
リアルなビジネスの現場で活用可能な様々な法則があるということがお分かり頂けたと思う。
行動経済学が分かっていれば、ウェブマーケティングや営業の現場でより効果的な判断ができるようになるはずだ。

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