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アメリカ大統領選挙が不動産マーケットに与える影響とは

ドナルド・トランプとジョー・バイデンの一騎打ちとなった2020年アメリカ大統領選挙。不動産取引優遇政策を使って、自らのビジネスでもメリットを享受してきたトランプ氏と、連邦議会で最も貧乏な男の一人と言われながら数多くの不動産を保有してきたバイデン氏。バイデン一家の汚職疑惑が取り糺されている中、バイデン有利は覆るのか?大統領選挙によって不動産マーケットにはどのような影響があるのか解説する。

共和党と民主党の違い

アメリカの政治では、保守の共和党とリベラルの民主党の二大政党がそれぞれ覇を競って争う。

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(出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/赤い州、青い州 )

奴隷制度反対と、どちらかと言えばリベラルな主張から始まった共和党は、世界恐慌で民主党のフランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策に反対する形で、次第に保守色を強めてきた。もともと自由放任主義的な小さな政府が旗印の為、政府主導の大規模な公共政策であるニューディールに反対したのだ。共和党の支持基盤は中西部の農業地帯や、南部、白人、敬虔なキリスト教信者など保守的な人々である。近年では、民主党の支持層だとされていた労働組合の一部も共和党にまわり、より保守的になっていると言われている。
一方で民主党は、もともと農民や労働者が支持基盤だったが、ニューディール政策をきっかけにリベラルへと舵をきり現在に至っている。大恐慌から脱するには、政府が積極的役割を果たす政策が必要という点がリベラルとして受け止められたのだ。よって支持基盤は、世の中を変えたい人々、ユダヤ系やアフリカ系、アジア系、中南米系などのマイノリティーや、女性や比較的新しい企業のトップなども民主党を支持する傾向がある。
共和党は小さな政府で増税反対、民主党は大きな政府で増税推進という対立軸で説明されることもある。

不動産王 ドナルド・トランプ

現大統領のトランプは不動産王として知られている。ニューヨークのクーンズ生まれで、もともとニューヨークで不動産事業を営んでいた父の事業を引き継いで、1971年にトランプ・オーガナイゼーションと改名したところから彼の不動産キャリアは始まる。高層ビル、 ホテル、カジノ、ゴルフコースなどを建設し、不動産事業を拡大させた。不動産王としての知名度を高め、その後トランプの名前をライセンスするビジネスなどを展開した。フォーブスによると、トランプの名を冠している不動産は総額5億6200万ドルにのぼると報じている。

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(出典: https://www.trump.com/ )

トランプが大統領になってから彼の不動産の実業と大統領としての利益相反は常々指摘されている。例えば、1031条項とオポチュニティゾーン条項。
1031条項はキャピタルゲイン税の繰り延べ制度である。投資不動産の所有者が物件を売却した時に得られた売却益を180日以内に「同種」の不動産に再度投資をすることで、キャピタルゲイン課税を繰り延べすることができる制度で、それによりどんどん資産総額を増やすことが可能となり不動産投資家にとっては非常にありがたい制度である。実際にトランプも1031を利用している。1985年にリンカーンウェストの60番外の車両基地を9500万ドルで購入したが、20年後の2005年にその敷地を18億ドルで売却した。本来であれば10億ドル程の納税をしなければならないが、売却益でオフィスタワーを購入し、1031エクスチェンジを利用することで、繰り延べした。2017年の共和党議会で1031条項の廃止が検討されていたが、トランプは1031を維持することで最終法に署名した。
もう一つがオポチュニティゾーン条項である。これは米国内の低所得地域への長期投資を促す制度で、ミシガン州デトロイトやメリーランドのボルティ モアなど全米主要都市で設定されている。現在保有中の資産を売却して得られたキャピタルゲインを180日以内にオポチュニティーゾーンの不動産に投資をすることで、キャピタルゲイン課税の繰延や減額、減免といった税の優遇を受けることができるという内容だ。2018年時点でアメリカの土地面積の12%に及ぶ8762地域がオポチュニティーゾーンの選定を受けた。こうした諸々の不動産取引優遇施策はトランプならではの政策であり、トランプが負けてしまうとこれらの優遇制度が維持されなくなる可能性がある。

中流階級?ジョー・バイデン

もう一方のジョー・バイデン氏は中流階級のジョーというあだ名があり、連邦議会で一番貧しい男の一人と言われている。ただ、その理由の一つがやはり不動産で、借入を沢山して不動産を購入している為、上院議員の資産リストの中で、不動産ローンの部分が差し引かれて、純資産が低くなっているからだとも言われている。

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(出典: https://www.wsj.com/articles/in-his-own-words-joe-biden-was-seduced-by-real-estate-11582885802 )

フォーブスによると、バイデンと妻ジルの総資産額は推定900万ドルで、そのうち400万ドルが不動産資産となっている。バイデンは、デラウェア州ウィルミントンの高級地区に約4900坪の豪邸を保有しており、不動産専門家の評価ではこの不動産の評価額は200万ドル近いと言われている。

トランプとバイデンの経済政策

トランプとバイデンの経済政策を見ると、いずれも重視しているのはインフラ投資である。トランプは2兆ドルの計画が必要だとアピールし、バイデンも1.3兆ドルのインフラ計画を打ち出している。インフラ投資は不動産市場に直接お金が流れ込むという意味でも、間接的に不動産の環境価値が上がるという意味においても不動産マーケットにとってはプラスだ。
ただ、大きく違うのが、税法関連の施策である。バイデンは富裕層向けの増 税やタックスヘイブン、脱税などへの対策を強化すると見られている。トランプは減税路線 、バイデンは増税路線と非常にわかりやすい対立構造になっている。アメリカのマーケットが不動産バブルである現状を鑑みると、トランプが勝てば、緩やかな不動産価格の上昇が予想され、一方で、バイデンが勝てば富裕層向けのラグジュアリー物件の価格にフタがされる形になることが予想される。
バイデンは最高所得税率を37%から39.6%にあげ、最高法人所得税率も21%から28%に引き上げたいと考えている。さらに、40万ドルを超える所得を稼いでいる人に社会保障税、100万ドルを超える人にはキャピタルゲインと配当に対する課税を強化すると言っていて、それにより、2030年までの間に4兆ドルの税収入を確保する計画となっている。所得が全米で上位1%の世帯が3兆ドルを負担する内訳となっていて、富裕層狙いの政策の為、民主党の支持基盤である大都市、ニューヨークやカリフォルニアなどからどれだけ支持されるかという意味でも興味深い内容となっている。
対中国との政策でも全く真逆で、トランプは当然強気の交渉を維持していくが、バイデンは一方的な関税対立などではなく、同盟国やパートナーとの連合の関係を作って協議をしていくべきと主張している。

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トランプは中国人留学生が中国共産党のスパイであるという理由で就学ビザなどを規制している為、チャイナマネーにも規制がかかるが、バイデンの場合は反対にチャイナマネーの復活が期待され、アメリカの不動産市場においてはバブルを持続させる効果はあると考える。バイデンは中産階級やマイノリティーが支持層の為、先程述べたインフラ計画でも中産階級の雇用を創出するというのが狙いとなっており、それにより安定した賃金を保証していく流れを作ろうとしているのは明らかである。

最後に

以上のことを総合的に判断すると、富裕層のマーケットに対して優遇をしていくトランプが勝てば、大都市の不動産価格の上昇はストップしないだろう。一方で中産階級向けのマーケットを保護していくバイデンが勝てば、チャイナマネーの助けを得ながら大都市以外の不動産投資マーケットが安定していくことが予想される。
いずれにせよ、コロナ対策で金銭が大量に動く状況が続いていく構造に違いはない為、トランプとバイデンどちらが大統領になったとしても不動産市場にはそれぞれメリットを提供するだろうという結論になる。勿論、ここでいうメリットは不動産事業者、資産家、投資家にとってのメリットという意味 の為、家賃が高額で生活できない賃貸マーケットにとっては話は別である。投資家も入居者も満足という健全な不動産マーケットを構築するという面であればバイデンの政策の方がふさわしいと言える。しかし、バイデンが大統領になった時のマイナス効果を考えるとそれが果たして正しいのかというのは、世界のパワーバランスや日中関係の問題もある為、その評価はみなさんの考えにお任せしたいと思う。

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