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【前編】DXプロジェクトはなぜ失敗するのか?

現在多くの企業が取り組んでいるDX(デジタルトランスフォーメーション)はすでにバズワード化され、本来の意味を失いつつある。DXの意義をおさえた上で、DXプロジェクトを成功させる要因とノウハウを前編・後編に分けて解説していく。

(↓DXプロジェクトについて全編を解説している動画はこちら)
https://youtu.be/Gwsuf6xBMtw


バズワード化された「DX」


DXが今どの産業でも各企業が取り組むべき課題となっているのは、異論の余地のないところだろう。ところが、一部にはDXごっこと揶揄されるような状況も生まれてきているのが現状だ。

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経済産業省が2018年9月に出した『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』という資料では、「2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警告していた。
そして以降、主に大手企業の間ではDXとは既存のレガシーシステムの刷新として受け止められるようになった印象だ。

そもそもDXとはデジタル技術を用いたビジネスモデルの変革、それによる競争優位の確保と顧客への新しい体験の創出というのが定義である。
それが何故か「既存システムを入れ替えよう!それが我が社のDXだ!」という流れにいつの間にかなってしまった。
しかし、これはある意味仕方ないところがある。なぜなら、この経済産業省のDXレポートを作っているのが日本の大手SIベンダーだからだ。
DXレポートの研究会とワーキンググループのメンバーは、NTTデータやN E C、富士通と言った大手SIベンダーが名前を連ねていて、オブザーバーにも日本情報システム・ユーザー協会や、コンピュータソフトウェア協会、日本データセンター協会などが参画している。

そして、このレポートは2025年の崖ということで、「レガシーシステムを放置していたら年間12兆円の経済損失が発生する」ということのみがフォーカスされている。しかし、本文をきちんと読むと、ほとんどDXについては書かれていない。「DXするために、既存システムを新しくしよう」といった内容が長々と書いてあるだけなのだ。

【レポートの目次】

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(出典: https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital/tranceformation/pdf/20180907_03.pdf )

レポートの目次を見るだけでご理解いただけると思うが、
“DXの前にレガシーシステムの刷新が必要だ”
“ユーザー側にもITに詳しい人材がいないとITベンダーは安心して提案できない”
“ ITベンダーも人手不足なので、古いシステムの保守に人員をさきたくない”
“そうしないとDXは提案できません”
という内容になっている。
ただひたすらITベンダーの現状が書いてあり、どこがDXレポートなんだろうと思うが、これは「ITベンダー業界にとってのDXレポート」なんだと考えれば概ね納得できる。

確かに昨今話題になっているみずほ銀行のシステム不具合の件を見ても、現実的に古いシステムを放置して誰もその中身について理解していない状況が起こってしまっている。
レガシーシステムを放置することは当然あってはならないが、このレポートの影響で、「DXとはシステムを入れ替えることだ、システムを導入することだ」という認識が広がってしまったというのは一部事実だと思う。

誤解のないように言うと、SIerやITベンダーが悪いと言っているわけではない。私も起業前は外資コンサルで、言ってしまえばそっち側の人間だった為、SIerやITベンダーの言っていることも十分正当性があると思っている。デジタル化の段階をステップバイステップできちんと踏んでいかないと、そもそも事業変革は実現できないというのは紛れもない事実である。
しかし、「それはDXじゃないですよね」と言いたいだけなのだ。

問題の本質は受け取り手である事業者側にある。
デジタル化やシステム導入はDX実現のための手段でしかなく、それが目的になってませんか?バズワードに踊らされてませんか?ということだ。

経営層の年代の方々であれば、1990年代から2000年代にかけて、リストラクチャリングリエンジニアリングというキーワードが一世を風靡したのを覚えている方も多いのではないだろうか。
リストラクチャリングは日本ではいつの間にか首切り、人員削減という意味に転嫁された。また、リエンジリアンリングは単なる業務効率化、スリム化と捉えられるようになってしまった。これもバズワード化の弊害である。

もともとの概念がバズワード化され、矮小化されてしまうことで、思うような成果に繋がらないという結果になる。
1990年代のキーワード、リストラクチャリングとリエンジニアリングを振り返ってみると、事業の再構築や事業構造の変革、抜本的変革、社内志向でなく、徹底的な顧客志向、情報システムの活用と謳っている。
これは、今日のテーマであるDXの説明文に入れても何も違和感のない用語ではないだろうか?
つまり、企業の経営課題の本質は30年間全く変わっていないということである。
こうした歴史を振り返ると、今のDXブームも矮小化されてしまうのではないかと思うのは至極当然であり、事実もうすでに矮小化されてしまっている現状がある。

DXプロジェクトが失敗する根本的な原因

こちらは、今年2021年6月の不動産業界のDX推進状況調査の結果である。

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社内におけるDX推進の目的で一番多かったのは、業務効率化という回答になっている。でも、それは「DXではない」。
企業においてDXプロジェクトが失敗する根本的な原因はここにある。
DXというキーワードに対する認識のズレである。

先述のITベンダーの話に戻ると、デジタル化、システム導入は手段にすぎない。この前提があって、その先にある新しい顧客体験の提供という差別化の実現、競争優位の実現がDXである為、その認識がズレていると当然プロジェクトは失敗する。
数多くのコンサルプロジェクトを経験してきた立場からすると、特に経営層と企画層、現場の意識のズレはプロジェクトが失敗する最も大きな要因の一つである。

わかりやすく修学旅行に例えてみる。
本来修学旅行とは、社会を学ぶためのカリキュラムである。
同級生と一緒に歴史的建造物などをリサーチして巡るという体験、同世代の仲間と宿泊することで得られる集団生活のあり方だったり、公衆道徳についての体験を育むというのが修学旅行の目的だろう。
これが、先生が「修学旅行いくぞー!バスと新幹線に乗るのが修学旅行なんだー!」と言ったらどうだろう?
「いやいや、バスと新幹線は手段だから!」と思うはずだ。

これは「我が社はDX推進するぞー!このシステム入れるのがDXだー!」という文脈と同じに感じないだろうか。
何が言いたいかというと、プロジェクト成功のためには、目的の共有化と手段選択の整合性を取る必要があるということだ。

経済産業省のD Xレポート2

先述の経済産業省のDXレポートは、2020年12月に中間報告としてDXレポート2が発表されている。
そこには「DX推進がうまく進んでいない原因の一つには経営層の理解不足があり、経営層のマインドと各ステークホルダーとの対話の中でDXのビジョンを発信していくことが重要である」と報告されていて、
DX推進はI T部門だけのものではなく、全社的に取り組むべき重要事項であり、積極的に経営層が危機感を持ってビジョンを発信していくべき」とまとめられている。最初のレポートよりも、かなり課題を的確に押さえているなという印象だ。
このDXレポート2も各大手SIerやコンサルティングファームがワーキンググループとして作成している為、穿った目で見てしまう私からすれば、この2年間の彼らのDXプロジェクト提案の最大の阻害要因がクライアント企業の経営層の理解不足だったんだなというのがよくわかる内容になっていて、大変興味深く読まさせていただいた。

ただ、このDXレポート2の指摘は本当に真実である。
DX、つまりデジタルによる組織改革、ビジネスモデル変革のためにはどうしたって現場を巻き込んで全社一丸で取り組む必要があるというのは今更いうまでもない。

【後編に続く】
マネジメントベース、ストラテジーベースでのD Xプロジェクトの失敗要因についてetc…
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