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アメリカ不動産テックM&A最新動向!Zillowの脅威CoStarとは?

はじめに

アメリカ商業不動産市場のジャイアント企業CoStarがいよいよ本格的に住宅不動産市場に参入。アメリカの不動産テックマーケットではM&Aによってそのサービス領域をどんどん拡大させていく手法が主流となっている。CoStarは住宅不動産市場の覇者Zillowを打ち破れるのか?そのビジネスモデルとM&Aの最新動向を解説する。

CoStarとはどういった会社か

CoStarはアメリカの商業不動産マーケットのデータブローカーで、C B R Eなどの不動産事業者に対して商業不動産の情報分析やマーケティングサービスを提供している会社である。

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(出典: https://www.costar.com/ )

アメリカの他のユニコーン企業と同様に買収を繰り返して急速に大きくなり、これまで30の企業を買収している。
現在の時価総額がZillowの約1.5倍の353億ドルだ。
CoStarは2019年の実績で380億ドルの黒字、営業利益率が26%と、Zillowがこれまで力業でiBuyerプレイヤーを押さえ込んでいたのと、全く逆のことを簡単にやれるだけの体力のある企業である。これはZillowとしては相当焦るディールだ。

アメリカの住宅取引の場合、M L Sという情報共有システムが存在していて、誰もが簡単に情報にアクセスできる。一方で商業用不動産、オフィスや商業施設などにはM L Sに相当するものは存在していない。アメリカの商業用不動産市場は日本と同じようにクローズドなマーケットなのだ。
そんなマーケットで33年間データを集め続けてきたのがCoStarで、彼らがどうやってデータを集めているかというと、全米の不動産事業者に電話をかけ、価格や空室情報などを聞き、データベース化している。非常にアナログな会社であり、1600人のリサーチチームによって毎日8時間電話をかける事が彼らのメインタスクだと報じられている。

M&Aによりサービス領域を拡大させていくCoStar

このようにCoStarが力業で集めたデータの為、なかなか他社も真似することができない。ライバルとしてLoopNetやXceligent、Compstakなど商業不動産のデータベースを提供している後発プレイヤーが登場したが、その度にCoStarは訴訟を起こして最終的に破産させるか取り込むかを繰り返してきた

LoopNetを買収したのが2011年である。LoopNetは最もトラフィックの多いオンライン商業用不動産ポータルだった。アナログにデータを集めるCoStarとは真逆のアプローチでデータを集めていて、ブローカーや家主から直接データを登録できる仕組みを提供していた。

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(出典: https://www.loopnet.com/ )

CoStarが弱い郊外の不動産などの情報収集に強みを持っていたのがLoopNetだ。CoStarは現地調査をしなくてはいけない為、そもそも建物が密集していない郊外はコスト割れで調査が追いつかない。その点LoopNetはユーザー自身に登録してもらうオンラインハブ方式の為、そうした郊外の商業不動産のデータが集めやすい仕組みだった。

1995年創業のLoopNetは2006年に株式公開している。買収された2011年時点で四半期ごとに600万人を超えるユニークユーザーを確保した。
急成長してきたLoopNetを当然CoStarが見逃すはずがない為、LoopNetを取り込もうとCoStarが訴訟を仕掛け続けたのである。
もともと1999年にLoopNetが3回目の資金調達ラウンドだったときにCoStarが著作権侵害の訴訟攻撃を仕掛けた。LoopNetはユーザーが自分でデータを登録する為、逆を言えば、CoStarの登録データや撮影画像を取得したユーザーが、そのデータを流用してLoopNetに登録することもあり得るわけで、画像の盗用だと訴えたのだ。
CoStarは他にもいくつも訴訟を仕掛けて、2003年に最終的に和解するが、資金力で勝るCoStarがLoopNetの体力を奪おうと何年も法廷で争い続けた結果、買収に至った。

そのLoopNetはLoopNetで買収を繰り返し、2007年にCityFeet、2008年にREApps、Land&Farm、2010年にBizquestなどを買収している。
そのLoopNetを買収したことによって、100万人のプレイヤーがいると言われている商業用不動産市場でCoStarは15%のトップシェアを獲得し、その地位を盤石なものとした。

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(出典: https://www.costargroup.com/costar-news/details/costar-group-to-acquire-loopnet )

このM&Aによる両者の組み合わせはまさに総補完的で、都市部に強く、リーシング中心で、企業顧客が90%の売り上げを確保しているCoStarに対し、地方に強く、売買が中心で、個人客が多いLoopNetの為、このM&AでCoStarは商業不動産市場のワンストップサービスが提供できる体制を確立したのだ。
このようにアメリカの不動産テックプレイヤーはM&Aによってシェアを伸ばしていくというのが王道になっていて、積極的なM&Aによってビジネスモデルを強固なものにしている。

CoStarは訴訟のための細かい工夫をあらかじめしていて、自分たちのデータが使われたということを法廷で立証するために、他社がそのデータをそのまま使った場合に盗用と指摘できるように意味のないデータをわざと紛れ込ませている。
2007年からCoStarは「著作権侵害対策チーム」を立ち上げて、プラットフォームに誰がどこからログインしたかを追跡するための専用のソフトウェアの開発などもしたと報じられた。

CoStarはZillowにとって脅威となるのか

こうして競争相手をM&Aによって買収や廃業に追い込むことでトップシェアを維持し続けてきたCoStarだが、HomeSnapの買収により、いよいよ住宅市場にも参入かと今注目されている。
アメリカの不動産市場では、商業不動産市場は約16兆ドルなのに対して、Zilloが主戦場である住宅市場は27兆ドルの市場の為、CoStarにとって新たな成長領域だと、戦略的に参入してきたのだ。

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住宅市場への参入はこれまでも段階的に行ってきていて、次々にその勢力範囲を広げてきた。Zillowに対抗するために賃貸物件の詳細情報を調べるためのリサーチチームを立ち上げて、月に100万回以上コールドコールをかけて住宅物件情報を集めているという報道もあって、お得意の御家芸を駆使して住宅産業に乗り込んできている状況だ。

そして今回のHomeSnapの買収によって、いよいよZillowにとっての脅威が現実化かという雰囲気になっている。
HomeSnapは全米240のM L Sサービスを提供する検索ポータルで、現在無料のプラットフォームに130万件のアクティブリストを有する企業だ。

次々とM&Aすることによって着実にZillowにボディブローを喰らわせてきているCoStarだが、本当にZillowにとって脅威となるのかというのは米国でも意見が分かれている。
なんと言ってもZillowはエンドユーザーを確保している。ZillowのWebとモバイルアプリの訪問者数は28億回の為、HomeSnapが加わった程度ではまだ脅威にならないという意見もある。
そこで、CoStarが目をつけているのがCorelogicの買収だ。
仮にCoStarがCorelogicを買収したとすると、これは本当にZillowにとって王手であり、不動産マーケットのジャイアント企業同士の対決が起こるかどうか、今アメリカ不動産M&A市場で話題になっている。

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