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【季節詩】「においの正体」

どこから漂うのだろう
青くさいにおいがする
街路には光を浴びた
つやつやした葉が目に入る
においはそこから?
いや違う
頭上の樹木からしているのだろうか
これは 栗の花のにおい
ぼくは勝手にそう思う
栗花落――梅雨入り前に落ちる栗の花から
つゆり と読ませる
その時期にはまだ間があるはずで
しかもここは山の中ではない
東京の下町だ
自然がある――
といっても隅田川の周辺の人工的な木々である
遠く離れた山々から
下ってくる川の水に乗って
生命力を発散する青いにおいが
ここまで届いているのか

栗の花のにおい――と書きながら
栗の花というものを見たこともない
そもそも花が咲くのもまだ先のはず
ならば
今漂うこのにおいは
青いあおい葉や花が放つものでなく
若い男 少年青年たちが精を放つ
あのにおいと同じ
きっとそうだ あのにおいだ
だがしかし
それが外に漂うわけはなく
ぼくに においの正体はわからないままだ

自分の体をひっくり返したところで
青くさい瑞々しいにおいなんて
とっくにしなくなっている

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