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■小説を「詩作」のヒントに

現代散文自由詩人の独り言(62)
◇島田雅彦ってエンタメ作家なの?

自宅と勤務先のある都心まで、4つの区の図書館で本を借りている。
基本は地元の図書館だが、新刊本は予約が多数入り、なかなか順番が回ってこないため、複数の区立図書館に予約したりする。
予約上限は20点までで、いろいろ予約していると、どどっと入ってくることになる。
現状、4つの区の図書館で25冊を予約中で、8冊の本を借りている。詩集を優先しているが、小説やノンフィクション、ビジネス本などさまざま。

その中で、最近読み終えた2冊の小説について触れたい。

ヒカリ文集 (2022年2月刊、講談社)松浦理英子


名前は知っていて、以前から一度読んでみたいとは思っていた作家の最新刊小説。
あらすじについては触れないが、かつての劇団仲間である男女が消えた仲間の女性についての思いをそれぞれつづる…という形式の小説。かなり面白く読んだ。文章がうまい、流麗ともいえて、なるほどと思わせる部分が多かった。この作者の初期の作品も読んでおきたいと思った。
面白く読み進め、一人の人物について違う人格を通して思い出をつづる格好が自分自身の創作のヒントになった気がする。

パンとサーカス (2022年3月、講談社刊)島田雅彦


筆者は僕とほぼ同世代、島田が学年で1つ上。
これまた、昔から聞き知った作家だが、小説そのものを読むのは初めて。
557ページもある長編で、最後まで読み切れるか、と不安になったが、何とか読み切った。
20章余りあり、登場人物も多く、自分の頭の中に物語が入っていけるかとも思ったが、大丈夫だった。
この作家は純文学でなかったのか。物語はスパイ小説、サスペンス小説、政治小説、謀略もの…といった体でそれなりのスピード感で物語が交錯していくが、だんだんその構成が雑になり、最後のほうはかなりプロセスをはしょったような印象。中日や北海道などブロック、地方紙に連載小説として掲載されていたものだ。
内容的には、現代の日本政府を明らかに批判、おちょくっており、彼はこの年齢になっていても、その出世作「優しいサヨクのための嬉遊曲」を奏でているのか、という印象。スパイ小説やエンタメ作に詳しい人が読んだら、どう感じるのだろうか。

最初のほうで、島田が登場人物に「詩人」について語らせる部分がある。

詩人は老人や廃人や病人や変人の仲間だが、偉人や賢人、美人、聖人の友人でもある。誰もが素通りするぼんやりとした隙間で謙虚に目立たないように暮らしながら、世間を斜めから見て、裏から探るのが趣味かつ仕事

この定義が面白かったので、その後もそうしたものが何度も出てくるのかと思ったらそうでもなかった。
国際政治、国内の権力闘争などなどを背景にしたストーリーを語ることが主眼になってしまい、人間の「底」と「奥」が描かれているとはあまり感じられない、長いだけの小説という感じもした。
何十年も小説を書き、芥川賞を除けば、多数の受賞経験もあるだけにうまく書けており、読み飽きさせない作家なんだろうが、やや期待はずれ、ではある。
自分の詩作の参考、ヒントになるものはあまりなかった小説。

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