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【短編小説】コーヒー党のヴァンパイア(17話)

17 ヴァンパイアの図書館通い

蔦の絡まる洋館からは、温かいオレンジ色の光が漏れていて、私は孤独な黒い蛾のように、その建物に吸い寄せられる。
本の蒐集家だった何某という資産家の没後、彼の住まいは図書館として開放された。
この瀟洒な建物の中で、彼が最も気に入っていたのは、地下の書庫だったに違いない。そうでなければ、一番上等な革張りの椅子を、地下の閲覧席に置くはずがない。
私は一冊の詩集を手に、深々と椅子に座る。窓ひとつなく埃っぽい書庫に、他の利用者の姿はない。

私は あなたの瞳を覗き込むことができない
私は あなたのそばに寄ることができない
あなたが発する熱で 私は溶けてしまうから
だから 私は決めました
あなたの影で生きようと 夜の闇に生きようと
それでも 白昼夢のまどろみの中で
私は願ってしまうのです
太陽よ あなたを愛することができたなら

「太陽に捧げる詩」小野町子

なぜこの無名の詩人の書いた詩が、心を打つのかわからない。彼女が私と同じ、夜の世界で生きる者だからなのか。
私は詩集を閉じ、ポットの蓋を開けた。白い湯気が立ち昇り、古い本の匂いとコーヒーの香ばしい匂いが混ざりあった。

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