マガジンのカバー画像

隠し本棚📚

46
運営しているクリエイター

記事一覧

『女ぎらい-ニッポンのミソジニー-』上野千鶴子 2024年⑲

『女ぎらい-ニッポンのミソジニー-』上野千鶴子 2024年⑲

女性蔑視について、最近考えたこと。
会社の同僚が言った言葉で、はっとしたことがある。部署ごとでチームを組んで行う社内の発表会で、私のチームはほとんど毎回優勝か準優勝を取っている。商品ももらえるし、私は運動会的な競技で勝ったような感覚で喜んでいたのだが、この同僚はそうは思っていなかったらしい。
私たちのチームが上位チームとして選ばれているのは、全員女性で構成されたチームだからだ、というのだ。発表の内

もっとみる
『いもうと』赤川次郎 2024⑱

『いもうと』赤川次郎 2024⑱

まさか。『ふたり』の続編に出会うとは。

北尾実加、27歳。
青春のきらびやかさのあった前作と違い、9年目の会社員として現実に飲み込まれていく彼女の肩には、若いながらも人生の疲れが漂っていて、共感できる点であった。
死んだ姉の千津子はほとんど登場せず、今度は一人で、様々な出来事に相対しつつ、母、父、そして妹に向き合っていく実加が描かれる。

少女時代の彼女は、のんびりしたどちらかというと楽観的な性

もっとみる
『猫語の教科書』ポール・ギャリコ 2024年⑰

『猫語の教科書』ポール・ギャリコ 2024年⑰

一匹のおりこうな飼い猫がタイプライターで書いた、人間の家の乗っ取り方。アメリカ版・吾輩は猫である🐈(仕組まれた)かわいい写真の数々。

父は昔から、臭いや家具を傷つけられることを嫌って猫だけは飼わないと言っていた。だが、この本にあるような戦略を仕掛けられたら、父だって参ってしまうんじゃないだろうか…。

人間の女の人は猫と似ているって、ほんとにそう🐈

巻末に、「グーグーだって猫である」の大島

もっとみる
『結婚式のメンバー』カーソン・マッカラーズ 2024年⑯

『結婚式のメンバー』カーソン・マッカラーズ 2024年⑯

この本を読んで私が思い出したのは、小学校高学年の頃に出会ったジェリー・スピネッリの『スター・ガール』だ。もし12歳の時、フランキー・アダムズに出会っていたら、フランキーはスターガール・キャラウェイと並んで私の心の中の友達になっただろうと思う。

夏の光と影、暗い台所の描写が印象的だった。

「わたしたち」とは呼びたくなかった人たちとすごした、フランキーの長い長い夏の時間は、重厚な現実感があるのに、

もっとみる
『あなたの話はなぜ「通じない」のか』山田ズーニー 2024年⑮

『あなたの話はなぜ「通じない」のか』山田ズーニー 2024年⑮

通じ合えない痛みをこれほどわかってくれるズーニーさん。これを読めば誰だって、ズーニーさんを信頼して心のうちを曝け出してしまいたくなるではないか。冒頭からがっしり掴まれた。

コミュニケーションを円滑にできたらいいなと思い読み始めたが、人間関係だけでなく、考える力を鍛えるためにも本書は役立ちそうだ。

「考える」にも、方法論がある、というところで目から鱗が落ちた。ぐるぐるうじうじ悩んでいるだけでは、

もっとみる
『デッドエンドの思い出』吉本ばなな 2024年⑭

『デッドエンドの思い出』吉本ばなな 2024年⑭

何も分かってないのに、分かっているように書いたり言ったりすることは、自分を蝕んでいくものなのだと思う。自分でも気付かないうちに、少しずつ、少しずつ。

吉本ばななは、わかっていることしか書かない人なんじゃないかと思う。それはそれで、苦しいことが、きっとあるのだろうけど。私には、まだそれができない。違うことをしてしまう。

この本の中で二度、"のび太とドラえもんがどら焼きを食べながら漫画を読んでいる

もっとみる
『ミトンとふびん』吉本ばなな 2024年⑬

『ミトンとふびん』吉本ばなな 2024年⑬

旅先は、日常から数ミリ浮いているから、あの世にも少しだけ近いのかもしれない。

亡くなった大切な人を胸に抱いて、異国(あるいは離島)を旅する人々を描いた作品集。

ヘルシンキ、ローマ、八丈島、金沢、台湾…わりと全部行ってみたい場所だったりする。

身近な誰かの死、という経験は一体何のために存在するのか、知りたくて彼らは旅をしたのだと思った。悲しみの淵から、顔を出してまた呼吸をするために。

八丈島

もっとみる
『自分で「始めた」女たち』グレース・ボニー 2024年⑫

『自分で「始めた」女たち』グレース・ボニー 2024年⑫

副題は、"「好き」を仕事にするための最良のアドバイス&インスピレーション"。

写真がたっぷりで、少しずつ、眺めるようにして読んだ。(ちびちび読んでいたため、実は本棚に2年間はあった)アメリカが多かったが、とにかく個性豊かな世界中の起業した女性たちのインタビュー。
この本を手に取った時、私は今の自分の環境から飛び出したくて、そのうち仕事もやめてやるとか思っていた気がする…。今はそんなに極端には考え

もっとみる
『彫刻家の娘』トーベ・ヤンソン 2024年⑪

『彫刻家の娘』トーベ・ヤンソン 2024年⑪

トーベ・ヤンソンが、子供時代のことを思い出しながら書いた自伝的小説。少女トーベの生活が空想混じりに描かれる。

入江、即席の劇場、絵、銀の塊。トーベの眼からみた世界は、魅力的で、創造性に満ちている。日常の情景の中に時々、ここからムーミン童話が生まれてきたに違いないと思わせるような、暗がりが落ちている。

見つけた銀の塊を家まで転がして運ぼうとしたり、入江に流れ着いた流氷に飛び移ろうとしたり、じゃじ

もっとみる
『ヴェニスの商人』ウィリアム・シェイクスピア 2024年⑩

『ヴェニスの商人』ウィリアム・シェイクスピア 2024年⑩

噂に聞いていた通り、シャイロックは気の毒だ。ユダヤ人に対する人種差別が、全編に渡ってまかり通っていて驚いた。

時代を経ていくにつれ、演出によるシャイロックの人物造形が変化していったらしいが、この話を喜劇というふうには、見られそうにない。
アントーニオとシャイロックを並列してみる解釈は、面白いと思った。

実際の舞台を想像しながら読むと、当時の観客はものすごくイマジネーションと頭を働かせて舞台とい

もっとみる
『モネ 揺れる光』 2024年⑨

『モネ 揺れる光』 2024年⑨

去年行った、上野美術館のモネ展が心に残っていたので。

カラーの絵がたくさん入っていて、モネの一生についてもわかりやすく書いてある。その絵を描いた時、モネの周辺で何があったかが分かった上で、また美術展に行ったら違う楽しみ方ができそうだ。

モネが、大事な人の死を多く経験してきた人であったことは初めて知った。2人の妻と、長男。

あとがきには、モネが描いた数々の連作には、そのテーマを選んだ意図がある

もっとみる
『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか?』森田汐生 2024年⑧

『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか?』森田汐生 2024年⑧

「アサーティブ」という言葉に初めて出会ったのは、去年の夏に受けた社外研修だった。(その時のnote↓)

研修の一番最後に、より進んだスキルとして紹介されたのがアサーティブだったが、内容についてはほとんど触れなかった。にもかかわらず、研修の間、一番私の目が開いたのはアサーティブの説明を聞いている時だったかもしれない😅
自分を大切に、相手を大切にしつつ、意見を伝えるにはどうしたらいいか。これがこの

もっとみる
『掌の中の小鳥』加納朋子 2024年⑦

『掌の中の小鳥』加納朋子 2024年⑦

ミステリーは、実はあまり得意ではない。大抵、ものすごく分厚く、その癖、ユーモアがなかったりする。何より、自分が謎など解けないと知っているだけに、なぜこれを読まされているんだろう、という気がしてくる。読まされている感覚、が私のミステリー嫌いに一番影響しているのかもしれない。たぶん過去を辿れば、好きなミステリーだってあるはずだけど。

この本を手に取って、ぱらぱらとページをめくってみた。まず文体が綺麗

もっとみる
『JR上野駅公園口』柳美里 2024⑥

『JR上野駅公園口』柳美里 2024⑥

上野恩賜公園に「コヤ」を張っていた一人のホームレスの視点から語られる、日本。彼は、福島県の(現)南相馬市に生まれ、東京オリンピックの前年、出稼ぎのために上京、20年家族と離れて働いた。息子の死。妻の死。故郷には戻らないつもりで再び上京し、ホームレスとなった。

人生のやるせなさ、に底のない渦に巻き込まれ落ちていく。
いつもは目を逸らしているものを凝視させられる体験だった。
今、上野公園に行っても、

もっとみる