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資本主義、「懐の深さ」と「レヴィアタン化」


こんにちは。馬渕磨理子です。

「資本主義の中心で、資本主義を変える」(NewsPicksパブリッシング)のご著者 清水 大吾 さんにお声がけいただき「資本主義のアップデートについて考える Advent Calendar 2023」 に参加させていただきます。

企画を立ち上げられた 中村研太さん、ありがとうございます。

■清水さんとの出逢い
清水さんとは、NewsPicksの企画で立教大学で一緒に登壇させていただきました。清水さんはゴールドマンサックス出身で、金融業界の現実・厳しさを知り尽くした上で、それらを内包しながらも資本主義をアップデートしていきたい志をお持ちです。リアリストでありながらも、前向きな議論で世の中をより良くしていきたいという清水さんとお話しているととても楽しいです。
立教大学での『社会を知る講座~金融のプロが教えるお金の教養~』(NewsPicks特別コラボ企画)の開催レポートはこちら。

■資本主義の「レヴィアタン化」

私からは、資本主義をどう捉えているかを執筆させていただきます。

「時価総額資本主義」と真逆の考え方が「人間らしさの追求」だと思います。環境を破壊しながら経済成長続けることへの矛盾から、資本主義社会の限界が謳われESGを重視する動きがここまで進んできました。

「人間性」と「時価総額資本主義」が交わる金融市場だと思います。

資本主義とは、いったい何なのか。想いを巡らせると。旧約聖書に出てくる怪物レヴィアタン(リヴァイアサン)と重なるところがあると思う。
 
哲学者トマス・ホッブズが1651年に著した政治哲学書『リヴァイアサン』の中で、神を除き、この地上において最強のものを象徴したことばとしてリヴァイアサンを使っています。
 
特にホッブズは「国家」という巨大な創造物を、この架空の怪獣で表現しています。そして、国家権力の暴走を食い止める「最後の鎖」が憲法なのだと。

1651年頃は、国家を怪物と捉えるならば、そこから、約370年の歴史を重ねるなかで「資本主義」こそが最もレヴィアタン化していると思います。

利潤追求が当たり前であり、搾取が正当化されるのが資本主義。この世の中、見渡しても資本主義の名のもとに、全く搾取のない安全地帯など存在しないでしょう。

■資本主義の「懐の深さ」

一方で、同時に「懐の深さ」を持ち合わせているのが資本主義でもあります。自由経済を背景に、アイデアと実行力があればどこまででも成長できる。この懐の深さに関して、資本主義に代わるものはいまだ存在していません。

資本主義=怪物が暴走して自滅しないように、私たちは見届ける必要がある。つまり、国家に対しては「憲法」が存在するように、資本主義に対する「憲法のようなもの」を皆が探し始めているのです。

今回のアドベントカレンダーが立ち上がっていることそのものが、資本主義に対峙する「憲法に値する」ものをみんなで作ろうとしているのだと捉えています。

歴史を積み重ねる中で、資本主義の中に生まれた歪みや疑問を感じながらも、資本主義を愛してるからこと、資本主義のアップデートについて考える Advent Calendar 2023が生まれたのだと感じています。

資本主義で企業の価値を測るモノサシである「時価総額」ですが、これが力を持っていることも事実です。金融市場にいれば、時価総額資本主義がより一層強まっていることを強く感じます。

一方で、ESG(環境・社会・ガバナンス)の議論を高めて、企業をより良くしていく意識を人類は持っている。

しかも、金融業界は、理念先行型の活動とは異なり、どこまでもいっても、リアリストです。だからこそ世の中を変える可能性を持ち得ていると思う。理想論と現実社会の相反する2つの価値観が交わる場所が『金融市場』だと、私は捉えています。(清水さんと重なる部分がありますね)

金融市場は懐が深く、二律背反する考え方を許容する場所です。どちらが間違っていて、どちらが正しいと決めることはせず、どちらも真実として受け止めるしかないのが金融業界です。

強欲なまでに突き進む時価総額資本主義の企業を称賛する向きも理解できるし、成熟した資本主義社会に突入する中で環境への配慮を進める企業へ投資をするESG投資も理解しています。

二律背反するところには熱く深いエネルギーが渦巻いていて、ある意味、人間の底知れぬパワーも感じます。

そんな厳しい世の中で、力強く立っている企業や誠実な経営者を見ると、愛おしさを感じるものです。

■ウエポン化した資本主義

アメリカと日本の株式時価総額の格差は拡大するばかりです。この「格差」が何を意味するのでしょうか。

ニューヨーク証券取引所の時価総額は約3400兆円、東京証券取引所約700兆、アップル1社で約340兆円、グロース市場約7兆円です。

GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)の時価総額は東証を上回る規模にまで格差が広がっています。

そもそも、企業の時価総額とは、理論的には企業そのものの価値であり、将来の事業キャッシュフローの現在価値と保有純資産の合計値です。

ある意味、時価総額=企業競争力の源泉です。時価総額が大きいと何ができるのか。時価総額がまさに、「経済的武器」となったことを感じる企業買収がありました。2021年9月に米国決済大手ペイパルが、日本の後払い決済サービスのスタートアップ企業であるペイデイを3000億円で買収した事例です。この企業買収は日本の金融業界に激震が走りました。

後払い決済プラットフォームを海外企業に手渡すことになったのです。

残念ながら、日本の大手企業の中で3000億円もの資金をスタートアップ企業に対して出せる企業は、今のところ存在しません。

アメリカ企業が莫大な資金調達力を武器に、世界のすべての産業を駆逐していく可能性があるのではと恐怖さえ覚えます。

株式交換や株対価TOBなどで株の貨幣化が起こっています。巨大な時価総額を背景として、テクノロジー企業は邪魔な競合を買ったり、有望な未上場を取り込んだりしています。

過去20年ほどの間に、テック大手企業が、長期的な戦略に基づき時価総額をテコとして、企業や技術を買っていくということが一般化しています。

日本では、上場後の企業が時価総額を高めることに力を入れることをあまり「よし」としていない風潮があるように思います。それが、グロース市場全体でたった7兆円しかない散々たるものになっている現状に繋がっているのです。

時価総額が経済的なウェポン(武器)であるならば、ここにもっと貪欲にコミットするべきだと思う。企業価値を高めれば、M&Aなど次なる成長への手を打つことができるのですから。

■2024年は資本効率化が進む

放っておけば、権力をどんどん肥大化させていく怪物である資本主義をいかに、コントロールするか人類が色んな叡智を出し合って議論しています。

ESGやSGDsはそのひとつでしょう。そして、日本においては、2024年に一段と議論が加速するであろう論点が、資本の効率化です。PBR1倍割れの是正やROEの数字の改善として、余剰資金の有効活用を迫られる企業がより表面化するでしょう。

上場子会社への思惑買いは活発になっており、2024年の日本株期待にもつながる可能性がある。

資本効率という意味では、親子上場は資本を寝かせていることになり、東証は上場子会社を持つ意義ながあるならば、コーポレート・ガバナンス報告書に記載することを12月にも義務づけるとしています。こうしたことから、TOBやMBOの動きは2024年は一層加速するでしょう。こうした、自制心のある議論の1つ1つが資本主義を守るのだと思います。

「資本主義のアップデートについて考える Advent Calendar 2023」 を通して、資本主義をより良いものにアップデートする叡智が集まっていることにワクワクします。

最後まで、お付き合いいただきありがとうございました。

日本金融経済研究所
馬渕 磨理子


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