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大切な宝物

真央は恋をしていた。
憧れではなく『恋』。
その人の名は架純さん。
同じ大学の1学年上の素敵な人。
そして、
莉子は結愛の友達で、架純さんの恋人。

「真央、聞いてよ!架純ったら、莉子がラインしても返事来ないし、来てもスッゴい遅いの!酷いと思わない?」
「何か予定が有ったんじゃないの?」
「莉子よりも重要な用事って何よっ!」
「私は架純さんじゃないから分からないよ。」
「何か最近莉子の事おざなりなのよね!前はすぐに連絡くれたのに!」
「専門課程も増えるし、大変なんじゃない?」
「真央は架純を庇ってばっかり。まだ好きなの?莉子、愚痴聞いて欲しかったのに!使えない!」
と、莉子は違う席へ移動した。
莉子は最近イライラしていた。
(使えないって本人に向かって言うか?失礼な!架純さん、大変だろうな。)

真央が初めて架純に出会ったのは、入学直後。
一般教養でいきなり課題を出され、図書館で本を探していたとき。
背の低い真央が高い棚の本を取ろうとしていたら、架純がその本を取ってくれた。
「この本を選ぶって事は、三橋准教授だね。」
「はい。いきなり課題を出されて参ってます。」
「私は長濱架純。あなたは?」
「私は荒井真央です。」
「荒井さん、今回の課題は、2章と5章を読めば、簡単にいけるよ。頑張ってね。」
去っていく架純の背中に、
「ありがとうございます。」
と、お辞儀した。
真央が恋をした瞬間だった。

レポートの提出後、学校の構内で真央は架純と偶然会った。
「長濱さん!」
「ああ、荒井さん。どうだった?」
「長濱さんのお陰で、バッチリでした!」
「三橋先生には泣かされたからね。上手くいって良かった。」
「ありがとうございます。助かりました。何かお礼をさせてください!」
「お礼なんて、おおげさだよ。」
「でも、長濱さんの助言が無ければ、きっと、あんなにまとめられなかったから。是非お礼させてください。」
「じゃあお昼だし、学食かな!」
「そんなので良いんですか?」
「大丈夫、私、大食いだから。お財布空っぽになっちゃうかもよ?」
悪い子の目でニヤリと笑う架純。
「が、ガッテンです。」

それ以来、水曜日の学食では、真央と架純が一緒になる事が多くなった。科目の組み合わせで、次の授業の校舎が同じ事がその理由だ。
早く来た方が席を取っておくのも、自然と始まった。
お互いに苗字から名前で呼び会うようになった。
一目惚れした架純と、2人で話せるこの時間が真央の特別な宝物みたいな、ひとときだった。
話す度に、想いがどんどん膨らんでいった。
架純が食べる時の表情、話し方、真央は、全てを大切にインプットしていった。

真央の特別な宝物を土足で踏みつけるように奴が現れたのは、本当に突然だった。

「真央!」
真央と架純の元に莉子がやって来た。
莉子は真央の隣に当たり前のように座り、
「真央、この人は?」
「2年生の架純さん。」
「架純さん。莉子って言います。よろしくお願いします。」
その後は、莉子の独壇場だった。
次の週から、莉子は当たり前のように真央と架純と一緒に過ごした。
真央の隣に座っていたのが、架純の隣に座るようになったのも、あっという間だった。

架純と莉子が付き合い始めるのも。

「真央!真央ってさぁ、架純の事好きだったでしょ?ごめんね、莉子が取っちゃって。だって架純が強引なんだもん仕方ないよね?」
莉子はわざわざ真央に伝えてきた。
他の子の話では、莉子が架純を家に誘い、しこたまお酒を飲ませて既成事実を作った挙げ句、裸で寄り添う莉子と架純の写真をSNSに上げたそうだ。
強引なのはどっちだ!

その後真央は、毎週水曜日のお昼を、教室で過ごすようになった。
莉子と架純を避けるように行動した。

数か月後、そんな真央に、架純から久し振りにメールが来た。
「時間が有ったら、少し話したい。」
待ち合わせ場所に行くと、少しやつれた架純。
話を聞くためファミレスに入ると、架純は莉子の話を始めた。
付き合うきっかけは、他の子に聞いた通りだった。
「酔っていて覚えていないってのは無責任だと思って居たけど、SNSにまで上げてるとは思わなかった。」
「莉子って、今でも気分は高校生だから。物の分別がつかない所が有りますからね。」
「初めは可愛かったんだよ。お弁当屋作ってきてくれたり。よくメールしてくるのも。可愛いと思えた。それが、どんどんエスカレートしていって、どんなに用事が有っても『夕飯作るから絶対にウチに来て』で、時間が遅くなるとヒスられるし、授業中も何度もメールしてくるし、返さないと怒るし。正直参ってるんだ。」
「架純さんの優しさに甘えてるんですね。きっと。」
「優しさかぁ・・・・・」
「架純さん、大丈夫ですか?」
「何で一緒に居るのか、もう判らないよ。」
「架純さんは、忙しいんだって莉子に言っておきますよ。効果が有るかは、自信無いですけど。時間が合えばお話聞きますし。」
「ありがとう真央ちゃん。こんな内容でごめんね。」
「莉子の性格は、よく知ってるから、架純さんの力になれることは何でもします。」
「ありがとう・・・」

2人がファミレスを出ると、架純の携帯が震えた。

送り主は莉子。

『水族館を満喫して、これからお泊まりでぇ~す』
のコメントと共に、男性に腕を絡める莉子の写真だった。

真央は架純が心配で顔を見たが、架純は無表情で携帯をポケットにしまい、無言で歩き出した。
真央も慌て架純に付いていった。
どこをどう歩いているのか分からない。架純に付いていくのに必死だった。

突然架純が立ち止まった。
架純は真央の腕を掴み、建物に入って行った。
ホテルだった。
部屋に入り、架純は真央をベットに押し倒し、強引に唇を奪った。
真央の着ている服を乱暴に脱がし、真央の身体に舌を這わせた。
真央は、一切抵抗しなかった。
架純は舌や指で、真央の身体を奪い続けた。もう、架純は平静を完全に失っていた。
架純は真央の下着を脱がすと、真央の感じる部分を少し乱暴にほぐし始めた。
奪われている真央は、素直に感じ微かな声を上げた。
感じる部分をほぐされながら、胸のトップを舌で弄ばれ、真央の快感は頂点をむかえた。

「嫌だったよね?」
「いいえ。」
「怖かったでしょ?」
「怖くないです。好きな人ですから。」
「え?」
「図書館で初めて会った時から、ずっと好きです。」
それを聞いた架純は、ハッと真央から身体を離しベットの縁にがっくり座った。

しばらくすると、架純は泣き始めた。
「架純さん?」
「そんな純粋な気持ちに付け入って・・・・・ごめん。・・・私は最低だ・・・・」
真央は架純を背中から抱き締め、
「架純さんの力になれるなら、私は構いません。」
「怒って無いの?」
「好きな人の支えになれたなら、むしろ嬉しいです。」
「真央ちゃんは凄いな。ごめんね。・・・・帰ろうか。」
「えぇ、せっかく宿泊にしたんだから泊まりましょうよ。」
「だって・・・・・」
「ここ、トランプとかボードゲーム貸してくれるみたいですよ!こんな時は1人で居ても良いことなんて無いですから、眠くなるまでゲームしましょう。」
「ははは、それもそうだね。」

翌朝、目の下にクマを作った真央と架純がホテルから出てきた。
「まさか完徹とは、オセロって怖い・・・」
「ベーシックな物ほどやめられないですね。」
「真央ちゃんって、策士だわ。」
「架純さんだって、心理戦凄いじゃないですか。」
「ふふ、真央ちゃん、ありがとうね。1人じゃ何してたか判らなかったよ。」
「架純さんのお役に立てて光栄です。」
真央も架純も、最悪な顔だったが、2人の気持ちは晴れやかだった。

数日後、真央は授業を受けるため大講堂の階段教室で授業の始まりを待っていた。
バーン!
教室の扉を勢いよく開ける音。
真央が音の方向に目を向けると、階段教室のテッペンに莉子が鬼の形相で立っていた。
「真央!あんた架純に何言ったのよ!」
そう叫びながら階段を真央に向かって凄い勢いで降りてくる。
が、
勢いが勝って、莉子が顔から落ちていった。
「莉子!」
グシャっと落ちている莉子に真央が近寄ると、顔から酷く出血している。
真央は急いで119番し、持っていたタオルで止血しながら救急車を待った。病院まで付き添おうとしたら、莉子に断られた。
(そうだっ!)
架純にメールをすると、『莉子とはもう別れた。真央ちゃんも、もう莉子の事は放っときな。』と返って来た。

数週間後、
「ねえ、真央知ってる?莉子の事。」
と、友達に声をかけられた。
「莉子の事って?」
「顔の傷、そうとうヤバいらしいよ。目立つ場所だし、メイクでも隠せないくらい大きいみたい。もう大学も来れないんじゃない?」
「何で知ってるの?」
「ウチのお姉ちゃん看護士なんだ。莉子が搬送された病院って、ウチのお姉ちゃんが勤めてる病院なの。ウチのお姉ちゃんER担当だから。」
「そうなんだ・・・・・」
「まぁ、昔から自分勝手で、人の恋人取ったり、二股三股してた子だから、罰が当たったんだよねきっと。」
「罰にしても、女の子が顔に傷は、気の毒だなぁ・・・」
「まぁねぇ~。まだ若いしねぇ~。ただ、若いからって、やって良い事と悪い事は判断出来なきゃだよね。」
「まぁ、確かに。」
真央は、あの事故以来、何度か莉子にメールしているが、返事が来ない理由が判った気がする。

それから数日。
架純さんからメールが来た。
「『今日の夜、ご飯行かない?』」
真央は、
(何だろう?莉子から連絡でも有ったのかな?)
と思い承諾のメールをした。

「架純さん、何か有りました?お呼びだしなんて。」
学生の見方、ファミレスに真央と架純は居た。
「『お呼びだし』って、物騒な言い方しないでよ。話したかったんだ。真央ちゃんと。」
「私で良ければ聞きますよ。」
「真央ちゃんじゃないとダメな話。」
「私ですか?」
「うん。真央ちゃん、正式に私と付き合って欲しい。」
「莉子の事は?」
「別れた後とは言え、あんな事故が有って可哀想だけど、今、私が好きなのは真央ちゃんだから。」
「・・・・・・・・・・」
「真央ちゃん?」
「はい。よろしくお願いします。」
真央は涙を拭いながら言った。
入学直後からの真央の宝物が、また輝きだした。


                         おわり


































































































































































































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