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恋の小旅行

絢音と友理奈は電車に乗っていた。
期末試験の最終日、いつもとは違う時間だから電車は空いていた。
2人並んで座席に座り、試験の事を話していた。

「英語がラストとかあり得ないよね!」
「いつも前半なのにね。問題間に合わなかったのかな?」
「佐久間め!あたしの睡眠時間を返せ!」
「絢音完徹?」
「ピンポーン!英単と戦ってた!」
「あちゃー!」

始めは2人で話していたのだが、完徹の影響か絢音は寝てしまった。
友理奈はスマホを出し操作し始めた。

絢音と友理奈は、高校の同級生。
入学直後からウマが合い、クラスメイトから「ニコイチ」と言われるくらい、いつも一緒に居た。

電車が大きく揺れ絢音が友理奈の肩にもたれてきた。
絢音を見ると、完全に眠っている。
周りの視線が気になったが、友理奈はそのまま寝かせてあげた。
友理奈は顔がニヤケてしまうのを、必死で堪えた。
絢音の頭に友理奈は頬をよせてみた。
絢音の香と体温。
友理奈はずっとこのままでいたかった。

絢音はいつも友理奈の話を、自分の事のように喜び、怒り、悲しみ、笑って聞いてくれた。
友理奈にとって絢音は心許せる掛け替えの無い存在となり、心惹かれる初恋の人となった。
告白なんかしてこの関係が壊れてしまうのは嫌だったから、この想いはずっと感情の奥底に仕舞っている。

友理奈の最寄り駅が近づいてきた。
絢音を起こそうかと思ったが、絢音の最寄り駅まで一緒に行くことにした。
絢音の香と体温を感じている時間が恋しかったから。
折り返せば良い。

性格も良く明るい絢音は友達も多かったし人気も有った。
しかし、日頃の絢音は友理奈の姿を見つけると、
「友理奈ぁ~!」
と名前を呼び、駆け寄り、友理奈に抱きついた。
「絢音ぇ、友達ほっといて良いの?」
「良いの良いの!友理奈の方が大事だから。」
無邪気に笑う絢音に、友理奈の感情の奥底がザワザワする。

(そうだ!)
今の絢音とのツーショットをスマホで撮った。
大切な1枚だから、絢音を起こさないように何回も撮り直して、ようやく満足な1枚が撮れた。
そんな事をしていたら、絢音の最寄り駅が近づいてきた。
「絢音、もうすぐ着くよ。」
絢音を揺さぶってみたが起きるどころか、友理奈の腕に自分の腕を絡め眠りを続行する絢音。
「絢音!ねぇ!起きて!駅着いちゃうよ!」
電車は無事に絢音の最寄り駅に着いちゃって、2人を乗せたまま無事に発車した。

「ねぇ友理奈ぁ」
「ん?何?」
「友理奈は好きな人いるの?」
「へっ?・・・」
(神様、好きな人から、好きな人いるの?と聞かれた私は、どう答えたら正解なのでしょうか・・・)
「絢音はいるの?・・・好きな人」
「いるよ!」
「えっ!誰?私も知ってる人?」
「うん!」
友理奈の心はザワついた。
「・・・誰ぇ~・・・かなぁ~・・・?」
「あたしが好きなのは友理奈でぇす!友理奈もあたしの事好き?」
「うん、好き・・・だよ・・」
「じゃあ両想いだね!」
「それって両想いに入るの?」
「え、入らないの?」
「ん〜、まぁ、良いんじゃない?それで。」
(マジ焦ったわぁ。まぁ、1番近くに居る友達ってのは確定って事だよね)
友理奈の心中は複雑だったけど。

絢音の最寄り駅を後にして、電車は走り続ける。
呆然としていた友理奈だったが、絢音と寄り添う時間が増えたと思考を変換させ、絢音を起こす事をやめた。
(なんなら終点まで行っちゃえば良いよね)
友理奈が自問自答していると、友理奈の腕にしがみついていた絢音の手から力が抜けスルスル友梨奈の手元に降りてきた。
友梨奈は迷ったが、そっとその手を繋いでみた。
絢音が起きる気配は無い。
(ずっとこの時間が続いたらなぁ・・・)
友梨奈は嬉しくも切ない時間だった。

「友理奈ぁ、どこ行くの?」
休み時間、友理奈が1人で教室を出ようとすると、絢音に声をかけられた。
「石田先生の所。次の授業で使う資料を取りに来て欲しいって。」
「じゃあ、あたしも一緒に行く。」
絢音は友理奈の元へ飛んできた。
廊下を並んで歩いていると、絢音は友理奈と手を繋いできた。
(えっ!)
友理奈は内心驚いたが、絢音は普通に話しを続ける。
職員室に着いても絢音は手を離さず、扉を開け、
「石田先生ぇ~!来ましたぁ~!」
と、職員室中に聞こえる声でニコニコしながら言った。
「おお、やっぱり2人で来たか。本当に仲が良いな。コレ教室に頼むわ。」
手を繋いだ2人を当たり前みたいに見る石田先生。と、他の先生達。
(この状態を当たり前に思われているのは喜ばしいけど・・・)
友理奈が秘めている恋心が、大きく揺らいだ。

2人を乗せた電車は無情にも無事に終点に着いた。
乗客全てが当然だが下車した。
「絢音!起きて!ねぇ絢音!起きて!」
友梨奈が必死に揺さぶり、絢音の頭がブランブランして、やっと絢音は目覚めた。
「着いた?」
「うん、終点に。」
「はっ?終点?え?何?どうゆうこと?何で起こさなかったの?」
「起こしたよぉ。絢音全然起きないんだもん。」
「マジ?ごめんねぇ。ホントにごめん!う〜佐久間めぇ~!」
「いいよ、明日は試験休みだし。ちょっとした旅行って事で。」
「友梨奈って本当に優しい!」
そう言うと、絢音は周りをキョロキョロした。
「絢音?」
絢音は「よしっ!」と言うと友梨奈に抱きつき、キスをした。
驚いて言葉を失う友梨奈に、
「ファーストキスは、本当に好きな人が良かったから。」
照れくさそうに目をそらして話す絢音は初めて見る。
(本当に両想いって事だよね!)
友理奈が閉じ込めていた想いが溢れ出した。
「絢音」
綾音が友梨奈を見る。
「私も絢音が好き。」
「うん。」
友梨奈が大好きな笑顔だった。
折り返し発車するホームメロディに紛れて、2人は再び唇を合わせた。


                            おわり


                                                   

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