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普通の高校生

ある日、萌が学校に来なかった。
(風邪でもひいたのかな?)
美紅は、そんな程度に考えていた。
萌が登校しなくなって1週間。さすがに美紅もおかしいと思い始めた。
『どうしたの?何かあったの?』
美紅から萌にラインした。
既読にすらならない。
美紅は学校の帰りに、遠回りだが萌の家へ行った。

呼び鈴には、萌のお母さんが出た。
「南高校で1年の時同じクラスだった菊池美紅と申します。萌さんがずっと休んでるので、伺いました。」
と美紅が言うと、萌の母は困った顔をした。
ひとまず美紅を家に上げ、飲み物とお茶菓子を出し、
「ちょっと待ってて。」
と、奥へ行った。

10分程して萌の母が戻ってきた。
「ごめんなさい、誰とも会いたくないって。わざわざ来てくれたのに、ごめんなさい。」
「萌さん、何か有ったんですか?」
「何も言ってくれないの。逆に何か知らない?」
「クラスが違うから・・・何か探りを入れてみます。」
「危ない事はしないでね。」

翌日から萌のクラスに探りを入れてみた。
何人からか聞いたが、なんと萌がイジメにあっているらしい。
首謀者が誰か、取り巻きは何人でそれぞれ誰か。そこまで分かるのに、たいした時間は要らなかった。

イジメの発端は、ありきたりな『男関係』。
イジメの首謀者が好きな男の好きな人が萌だった。
付き合っている訳でも無く、特に萌と親しい訳でも無く。
子供じみてて馬鹿馬鹿しいが、首謀者の嫉妬が萌への攻撃に変換したイジメ。
教科書やノートへ萌を愚弄する落書き。持ち物を捨てたり破損したり。首謀者の決まり文句は、
「私のパパは市議会議員よ。あんたを追い出すくらい簡単なんだからね!」
だそうだ。
議員をググると、確かに同じ苗字の市議が居る。
取り敢えず、証拠集めを続けよう。と、美紅は思った。

証拠集めと共に、放課後にはほぼ毎日萌の家へ行った。
萌の母には、萌がイジメの被害にあっていると伝えた。

萌は、頑なに会ってくれなかったが、ある日変化が有った。
萌の母が、
「あの子、昨日、珍しく自分からお風呂に入ったの。『汚れた姿見られたくない』って。きっと、あなたの事よね。」
と美紅に伝えた。
(今日は会ってくれるかな?)
美紅は、淡い期待を抱いて萌の部屋のドアをノックした。
「萌、私、美紅。話したいんだけど、開けてくれる?」
美紅の言葉からしばらくして、ドアが開いた。
「萌、会いたかったよ。痩せた?大丈夫?」
「美紅。毎日ありがとう。」
「ううん、良いんだよ。私が萌に会いたかったから。」
「そうか。もう知ってるよね?」
「うん。気付けなくてごめん。」
「美紅には気付かれたく無かったの。心配かけてごめん。」
「そうだったんだ。相談してくれたら良かったのに。」
「もう、どうして良いか分からなくて・・・」
「担任には言ったの?」
「言ったけど、何も変わらなかった。」
2人で話している時に、萌の携帯が震えた。
しかし、萌は携帯を開こうとしない。
美紅はあることに気付き、
「萌、携帯見せて。」
と萌の携帯を開いた。思った通り首謀者からの罵詈雑言の嵐。
遡って見ても、萌を罵る言葉だらけ。
「萌、全部スクショして私の携帯に送るよ。それが終わったら携帯のショップに行って番号ごと替えな。こんなの見てたら休まらないから。」

家に帰り、美紅はまず叔父に連絡をした。
父も母も兄弟が多く、農業、漁業、林業、獣医、作家、教師、造園、花屋、建築士、居酒屋、弁護士、医師、デザイナー、政治家、会社員。
職業のデパートみたいに、様々な道を歩んで居る。
今回の叔父は弁護士だ。
萌の事を相談すると、落書きされたノートや教科書。破棄されたり破損された私物。罵詈雑言のライン。全て法に触れるとの事だが、学校内での事だから『子供のイタズラに過ぎませんよ』で終わる可能性が高い。動画や音声が有れば提訴に踏み切れる。後は、萌の診断書も有った方が有利だ。
と教えてくれた。

今度は叔母に連絡した。この叔母は医師だ。
萌の事を話すと、いつでも連れて来なさい。診断書書いてあげるよ。との事だった。

今度は別の叔父に連絡した。この叔父は教師だ。
萌の事を話し、弁護士の叔父に言われた事を話すと、確かに『子供の悪ふざけ』で済まされてしまうかも知れない。その市議の出方にもよる。教師は個人の事まで介入出来ない。と言われた。

証拠集めを本格的にやろう。

翌日、隣のクラスの子に、動画を撮るのが好きな生徒が居ないか探った。数名の名前が上がった。
イジメの首謀者にバレないように、1人ひとり人気の無い場所で聞いてみた。
みんな、始めは否定したが、動画や音声の出所は絶対に明かさない。と約束すると、

首謀者と取り巻きが、萌を囲んでギャーギャー喚き、萌を蹴飛ばしていた動画。
首謀者と取り巻きで、教科書やノートに罵る言葉を落書きしてる動画。
萌がトイレの個室に入ると、首謀者と取り巻きがバケツの水を個室の上からかけている動画。
「アイツの事、道路に突き飛ばしてやろうぜ!」と首謀者が言い、それに同調する取り巻きの音声。

全てを美紅の携帯に送ってもらい、素知らぬ顔で授業を受けたが、想像以上の悪質さに、怒りを抑えるのが大変だった。

放課後、萌の家に行き萌と話した。
新しい番号を教えてもらい、
「私が最初に教えてもらった人?」
の言葉に、萌は赤くなり、
「家族以外ではそう。」
とモジモジして答えた。
叔母の話をして、
「学校に行けないくらいのダメージを受けてるんだから、病院で診てもらった方が良いよ。食べれてる?寝れてる?」
「病院かぁ。精神科でしょ?なんか嫌だな。」
「殴られたり切られたりしたら、病院行くでしょ?萌は、心を殴られたり切られたりしたんだよ。病院に行っても恥ずかしくなんか無いし、叔母さん、優しいから大丈夫。」
「ん~・・・・・」
「ご飯ちゃんと食べて、グッスリ寝ないと、お肌にも悪いよ!」
「美紅、病院行く理由そこ?」
萌が久しぶりにお腹を抱えてコロコロ笑いだした。
「今は大丈夫でも、年いったら苦労するじゃん!」
萌の笑が止まらない。
「美紅やめて、お腹痛い。」
「目の下のクマ、取れなくなるんだよ?」
萌が身体をよじらせ、足をバタバタして笑う。

物音に驚き、萌のお母さんが部屋に来た。
久しぶりに子供らしく大笑いしている我が子を見て、うっすら涙ぐんでいた。
「萌、笑ってて良いから、お母さんとも話そう。たるみ萌。」
萌は、声も出せずジタバタしながら頷いた。
美紅は、叔父と叔母の話を萌の母にして、病院に行くように勧めた。萌の母は、やはり難色を示していたが、笑い続ける娘の姿を見て、病院に行く事を決意した。
「小じわ萌、お母さん行くって。シミが消えない萌は?」
もう、バタバタする体力も無い萌は、お腹を抱えて頷いた。
美紅はその場で叔母に電話し、萌のお母さんの都合を聞きながら予約した。
その頃萌は、笑い過ぎて魂が抜けていた。

萌の母が退室し、
「萌、大丈夫?」
と美紅が萌に近付くと、萌は美紅に抱き付いた。
「萌?」
「美紅にだけは知られたく無かったのに。」
「どうして?」
「美紅が特別な人だから。」
「特別?」
萌は身体を起こし、美紅の前に座る。右手で美紅の左手を。左手で美紅の右手を握り、
「特別って言い方じゃ分からない?」
萌が美紅を見つめる。
お互い、どちらともなく膝立ちになって、両手を繋いだまま見つめ合った。自然の流れで2人は唇を重ねた。

その帰り道、美紅は萌の唇の柔らかさや萌の指の細さを繰返し思い巡らせていた。
萌のと目を合わせていたら、ああしていた。
(何であんな事)

(やっとああなれた)
の対極する思考を、行ったり来たりしていた。
案の定最寄り駅を乗り過ごした。

調査で分かったのは、首謀者がパパを盾に悪さをするのは有名な話らしい。脅しとお金で世に出ていない悪事は1つ2つでは無く、泣き寝入りするしか無いケースが多いらしい。
「ガキの躾も出来ないのに議員さんねぇ。」
美紅は自分の親に感謝した。

診断書が出来た。
と連絡をもらい、いつも通り萌の家に行った際にコピーをとらせてもらった。
萌の家からの帰り道、弁護士の叔父に連絡したら、その夜家に来てくれて、動画や録音のデータを自分のパソコンに移し、診断書のコピーは叔父が預かった。
本人や保護者の依頼が有れば、すぐ動ける。
と、心強い言葉がもらえた。

が、
萌も萌のお母さんも、「仕返しが怖い」と、前向きではない。
分からないでもないが、学校に行けないくらいイジメがエスカレートしていて、弁護士が動けるまでの事態になっている。
萌の家に同席していた弁護士の叔父が、
「この首謀者には、余罪がかなり有るようですし、こちらにも奥の手が有ります。市議が黙る程のね。ですから、安心して任せてください。」
と言ったら、やっと正式に契約を結んでくれた。

叔父は、一足早く帰り、美紅は萌の部屋で萌と話していた。
「美紅の叔父さんって弁護士なんだ。叔母さんはお医者さんだし、凄いね!」
「変人ばっかりなだけだよ。」
「でも美紅はそれを盾に威張らないね。」
「私の功績じゃ無いからね。それに、響きは華やかな仕事だけど、内容はかなり大変らしいし。私が無駄な仕事増やしたく無いんだ。」
「・・・美紅のそういう所、好き。」
そう言うと萌は美紅の手を取り、優しく頬づりした。
美紅は反対の手で萌の頬に触れ、ゆっくり唇を重ねた。
萌は触れていた手を、自分のシャツの中に入れた。
そこは暖かく、滑らかで、柔らかかった。
美紅は萌を押し倒し、シャツをたくしあげ、女性の象徴を優しく揉み上げ、色素の濃い部分に舌を当てた。
萌の声が可愛くて、何度も唇を重ね、絡め合った。
下半身に手を伸ばそうとすると、
「怖いから・・・・・」
と阻まれた。
そんな姿が、また可愛くて、唇を合わせる。
美紅は萌の身体を起こし、しっかり抱き締めた。
「美紅は、私の事好き?」
「友達として好きだと思ってた。そうじゃなかったみたい。萌と見つめ合うと欲情する。」
「欲情って生々しい!」
萌がコロコロ笑いだす。
その笑顔が、美紅は好きだ。

弁護士の叔父から、学校の校長、首謀者の家、首謀者の父の事務所、教育委員会、県知事、それぞれに内容証明を送った。と連絡が来た。
萌に伝えると、
「大丈夫だよね?お任せして良いんだよね?」
と不安がっていた。
美紅は萌を抱き締め、
「私は、萌の笑顔を守るためなら、何でもするよ。」
「美紅、今のセリフずるい。」
そう言って美紅にキスをした。

後日、双方の話し合いが行われた。
場所は、叔父の法律事務所の一室。
私と萌と萌のお母さんは、別室のモニターで様子を見ていた。

「わざわざ内容証明まで送りつけるなんて、ご苦労なことで。こんな程度の内容に、こちらが怖じ気づくとでも?」
「内容証明は、あくまでも『ここまでは難なく出せますよ』という物で、手の内全ては明かしませんよ。」
「他にも何か有るとでも?」
「まあ、例えばこんな物ですかね。」
美紅が集めた動画の一部をノートパソコンで見せた。
「画像では、あなたのお嬢さんの顔も認識出来ますし、依頼人の顔も映っている。声紋も、お嬢さんと一致しましたよ。」
「はいはい。で、いくら欲しいんだ?どうせ庶民は金だろ?言い値で買い取ってやるよ。」
「お金で解決しようと?」
「市議の俺に近付く口実だろ?こんな子供のイタズラにのせられる、あんたの弁護士としての能力を疑うね。」
「これらは、イタズラの域を優に越えていると思われますが?」
「だから、それを無かった事に出来ると言っているんだよ。市議という信頼を使ってね。」
ずっと黙って座っていた男性が、口を開いた。

「山里市議。あなたを選んだ市民は気の毒ですね。」
「今度は動揺作戦か?ろくでもない弁護士が揃ってるな。」
「残念ながら私は弁護士では無い。山里市議、顔を見ても分かりませんか?」
「弁護士じゃ無いなら、いい歳してパラリーガルか?」
「仕方ありませんね。」
さっきのノートパソコンをいじり、画面を見せた。県知事のホームページだった。
「山里市議、ここに写っているのは誰だと思いますか?」
今まで足を組んでだらしなくヘラヘラしていた山里の顔色が土気色になった。
「誰だと聞いているんだ!答えたまえ!」
知事の叔父が一喝すると、山里は椅子から立ち上がった。
「佐々木知事、どうしてこのような場所に?」
「可愛い姪が関わっているからね。悪質な市議の娘に食事も喉を通らない状態まで追い込まれていると聞いたら、黙ってはいられないだろ。」
「たかだか子供のイタズラですよ?受け取り方の違いでは?」
「教科書やノートに、書かれた内容を読んだのか?自分の娘が同じことをされても『子供のイタズラ』と言えるのか?随分と躾の行き届いた家庭だな。」
「娘に代わって謝罪いたしますから、穏便に済ませましょう。」
「娘に代わって謝罪?」
山里は椅子から離れ、土下座した。
「山里市議、君の土下座に何の価値が有るのかね?姪達は姪達の、私は私のやり方で、これまでの罪を償ってもらう。以上だ。私は失礼する。」
叔父は、秘書達を引き連れて退出した。

床に座り呆然としている山里に、
「では、この内容で提訴します。ご足労いただき、ありがとうございます。」
と、淡々と締めくくった。

山里側から、示談を何度も持ちかけられたが、萌側は受け入れず、法廷に持ち込まれ、あっさり萌側の勝訴。

山里市議は、懲戒免職。首謀者の娘は退学処分。取り巻き達は停学処分。
学校長及び担任には3カ月間給料半額減のペナルティが課せられた。
山里一家は居づらくなったのか、早々に引っ越した。

全ての処分が決まり、萌が初めて登校した日、萌へのイジメの引き金になった男から萌は告白された。
「私、窮地に立ってる私を助けてくれない人とは、お付き合い出来ません。」
と断ったと美紅に言っていた。

萌は今、美紅の家の美紅の部屋の美紅の腕の中にいる。
唇を合わせ、萌が最も感じる場所を許した所だ。
「美紅・・・」
「気持ちいい?」
「・・・・・うん」
「中もいい?」
頷く萌。
萌の中は美紅の想像以上だった。暖かくて滑らかだった。神々しくて、優しかった。
美紅は、自然と萌が最も感じる場所に舌を這わせていた。
萌は身体をよじらせ、美紅の好きな可愛い声を出した。
美紅は、萌の中に入ったまま、ゆっくり丁寧に萌の最も感じる場所を舌で転がした。
萌の声が今までより高くなった。
「美紅・・・私・・・・ああ・・・美紅・・」
それからすぐに、萌は登りきった。
「萌?大丈夫?」
萌は頷き美紅に抱き付いた。
美紅も萌を抱き締めた。

「美紅、今回は本当にありがとう。」
「勝訴した件?今の件?」
「もう!美紅のバカ!・・・大好き!」
2人は子供らしくじゃれ合った。
当たり前な高校生に戻って。


                         おわり






























































































































































































































































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