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君に届かない2

「よーし、1、2!」



5人の男たちが整列した。手にはそれぞれの得意な武器を持っている。
大池隊長が話し始める。



「えー、われわれ、真行寺美智子さんを守る会はー、今日も元気に、世の輩から、美智子さんを守る! これが唯一にして絶対の使命である!」



「はい!」


4人の隊員が、声を合わせて返事をする。


真行寺美智子さんとは、この町で評判の「美熟少女」である。


もうすぐ、60に手が届くというのに、その美しさと、可憐さ、初々しさから、「美熟少女」と称されている。ぽやーんとした雰囲気。そこがたまらなくかわいいと、同年代から年下、おじいさんにまで、大モテなのである。


しかし、美智子さんは、自分が大モテなことすら知らない。



また、美智子さんは、5年前に亡くしたご主人を、今でもこころから愛している。その気持ちを大事にしてあげたい、と守る会が結成された。
美智子さんの気持ちをかき乱すような、迷惑な奴らは、即刻排除だ。


田中隊員「今日は火曜日。いつものスーパーの大売り出しに向かうと思われます!」

大池隊長「よし! スーパーがある南西を要チェックだ!」


美智子さんの家の近くの小高い丘に、守る会のアジトがある。
田中隊員は、大小さまざまな望遠鏡や双眼鏡、CIAしか持ってないはずの温度式室内探査機まで持っている。

「あ! 北東から敵接近! 目がハートです。田辺隊員、出動です!」



美智子さんの家に向かう、一人の老人がいる。目がハートだ。美智子さんの魅力にやられている。

「ポストに手紙を入れようとしている! 田辺隊員!」
「ラジャー!」



スコープ付きのライフルのようなもので狙いをつけたかと思うと――。



ボン! 一瞬で、手紙は灰となって消えた。老人はびっくりして、来た道を走って戻っていった。

「よし、美智子さんが外出した。今日も美智子さんを守るぞ!」


伊賀の里が開発したと言われる、「男五人桜秘隠れ」という秘技によって、美智子さんに見つからず、しかし輩はすぐ排除できる陣形で、警護する。


「あっ! 前から来た高校生が、美智子さんの魅力にやられました! 目がハートです! 花木隊員!」


「おう!」

すれ違うまで、美智子さんに見とれていた高校生を、花木隊員が呼び止める。

「ちょっと、君。」

「はい」

ドス!

「はうっ!」


高校生のくびすじに、手刀一閃——。崩れ落ちる高校生。

「君はまだ若い。今日あったことは、忘れるんだ。」


さっと立ち去る花木隊員。

隊長「さすがだな、花木隊員。美智子さんの魅力にやられた時間が短いものは、君の手刀がいちばん効果的だな。」

花木隊員「はっ。おほめの言葉、光栄です――。」



口数の少ない、花木隊員なのだった。


隊長「いよいよ、スーパーに入るぞ。」
田中隊員「今日いちばんの山場ですね!」



まず、田中隊員が、MI6が開発したと言われる「小型メモリーダー」で、今日の美智子さんの買い物を把握する。

「ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ……。今日はカレーだと思われます!」


隊長や田辺などが、野菜コーナーに先回りする。きれいなジャガイモ、ニンジン、玉ねぎを、美智子さんが取りやすい場所に置く。
時間があれば、磨きもする。

田辺隊員「ああ、今日も僕らが選んだ品物を買ってくれている。」



……これらの行動は、美智子さんを守っているのか、自己満足なのか、よくわからない。ただ、輩がいないか常に注意を払っている5人なのだった。


大池隊長「よし、今日もあとは遠くから見送って、今日は終了としよう!」
田辺隊員「ぼくのライフルと田中のサーチ・マシンできっちりお送りします。」

大池隊長「よし! 美智子さーん、守るかーい、ファイ!」


田辺と田中が見送って、今日の活動は終わった。



「そうなのよ~。もう、おっかしくて~。」
美智子さんの家から、電話をする声が聞こえる。

「みんなね、気づかれてないと思ってるのよ。も~、笑っちゃう~。」



美智子さんが電話でしゃべっているのは、スーパーでパートをしている、友達の真知子さんだ。

「そうそう、毎回、野菜を磨いてるもんね~。けなげよ~。」

「そうなのよ~。最初の日から気づいてたわよ。なんか、いろんなマシンとか持ち出して、楽しそう♡ だから、このままやらせてあげようと思って~。ヘンな男が来るのもイヤだから、ちょうどいいし~。」


美智子さんは、思ったよりも、ぽや~んなタイプではないようだ。
真知子さんが聞く。


「でも、この後、どうするつもり?」


美智子さんが言う。

「そうね~。しばらくしたら、あの『男五人桜秘隠れ』破り! とお! とか言って、びっくりさせて~、うちのカレーパーティにでも誘おうかな~! 

実は~花木隊員、ちょっと好みなのよね~。」


なんと! 誰からも思いが届かないように活動していた守る会。そのこころの底には、もちろん美智子さんへの想いがあった。


町の老人や高校生など、多くの「思いが届かない男たち」の中で、
花木隊員の想いだけ、届くとは――。



守る会と花木隊員がそれを知るのは、1年後のカレーパーティの席だった。

花木隊員の男泣きと、他の隊員の祝い泣きで、パーティは大変な騒ぎになったのだそうだ。


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