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ハムスターが亡くなった

我が家で三番目のハムスターが亡くなった。

御歳二年七ヶ月半。我が家では一番高齢だった。

キンクマのロングにサテンが混じっている、綺麗な毛並みのオスだった。

我が家に来て一週間で、ストレス性の血尿を出し、寒の戻りのきつい四月の夕方、最高防備で自転車に乗せて動物病院に行った。
それからも謎の足の腫れとかでなん度も病院に行った。最終的には、一緒に飼っている後輩に噛まれて病院に行った。

そのおかげか、私と彼との距離は非常に近かったように思う。ハムスターに、っていうのもおかしいけど、まるで息子のように扱っていた。
小さいし、おとなしいし、いつもビビっているし、いつものんびりしている。

目の傷は一度治ったのだけど、そこから神経にバイキンが入ってしまったのか、彼はうまく歩けなくなった。その時点で「あ、これはGW中にもしかするとダメかもしれない」と思っていた。

あっけなくGWはすぎ、足を引きずりながらもまだ回し車ができた。
夏休み前、湿度も気温も高く、寝ている時間も増えてきた。
頬の横には、膿の溜まった膿瘍のようなものが見えた。

「あぁこれは夏休みには・・・」を覚悟をした。
しかし彼は、いつもと同じように、散歩をしてよく食べ、動きづらくなった半身を庇うようによちよちと歩いている。回し車は撤去された。

季節は秋になろうとしていた。この頃から、治っていたと思っていた頬からの膿が少しずつ染み出すようになった。
拭っても拭っても取れない膿。歩き方もどんどん悪くなり、10歩も歩けばひっくり返っている。

そうだな、もう二歳半を超えているもんな。
少しずつ私も家族も覚悟を決め出したシルバーウィークだった。

もう、そこからは寝ていることがほとんど。
たまに起きてカリカリカリと餌を食べている音がする。
見にいくと、ゆっくりゆっくり、器用に使える方の手をうまく使って、
カリカリを口に寄せて齧っている。

食べ終わった後は、ふらふらしながら寝床へ帰っていく。


こんな不安定ながらも安定した日々を過ごしていた彼に、もうどうしようもない変化が現れた。
身体が温まらない。どうやっても温まらない。
トイレに行った時に、ひっくり返ったまましばらく起き上がれなかったうちに床の冷たさに体温を奪われ、虫の息になっていたのだ。

タオルにくるみ、温めて様子を見る。少しずつ意識を取り戻してきたかのように見える。
あんな小さなハムスターなのに座っている私にもはっきり聞こえるほど荒い息遣い。

あぁもしかするとあのトイレからの帰りのまま気づかない方が
彼は楽だったのでは、と悲しい思いがよぎる。
それでも、飼い主のエゴであっても、少しでも生きてほしい。
ゆっくり温めながら、食べられそうなペーストを口に持っていったりしているうちに落ち着いてきた。
眠い、お腹すいた、トイレ行きたい、水を飲みたい。これだけの欲求のために彼は二日間、生きながらえた。尊い二日間だった。

不思議なもので、ハムスターといえども、トイレに行きたいそぶりはわかる。
ケージのトイレ付近に置いてあげると、ふらふらになりながらトイレをする。
そしていつも通りふらふらしながら餌を探し、寝床に戻ろうとする。

この時点ではハムスターはケージの中にキャリーを置いて、その中のみでお世話をしていた。タオルを敷いて保温。中には好きそうなお菓子を二、三個。
知らないうちにちょっと齧っていたりする。

低空飛行ながらも、危篤状態から戻ってから二日。
もう彼には食べ物を食べる力も、水を飲む力も戻らなかった。
三時間前までは食べていたペーストも食べない。
蜂蜜を薄めたお湯にもほとんど反応しない。

その時が近づいているのがわかる。
タオルで包んで、ずっと抱っこで二時間。
呼吸が少しずつ荒くなり、荒くなった呼吸も少しずつ間隔が開くようになる。
胸の辺りがベコベコと動く、生き物の最期の呼吸になった。
時々「キュー」と鳴く以外は苦しそうなこともなく
腕や足をばたつかせることもなく、
飼い主とハムスターはただその時を待つだけだった。

だんだん間隔が短くなっていき、抱いている手にも少し力が伝わる。
あ、これは最期の伸びをしようとしている。

最後に大きく口を開けて、彼は逝ってしまった。
ゆっくりとさっきまでの細かな痙攣はまだ続いている。
けどもう胸の辺りの呼吸の動きは何一つない。
少しずつ、お腹、足、手、全ての動きが停止していく。
お腹の、心臓のある部分、そこがゆっくり一度か二度揺れた後、
彼は動かなくなった。硬くなった。


我が家で三番目のハムスターが亡くなった。

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