【短編小説】カウンター席のお姉さん【前編】
男子の中で概念として存在している「憧れのお姉さん」。実の姉ではなく、近所のお姉さんだったり、友達のお姉さんだったり、そのお姉さんの属性は様々で男子によって憧れの対象になりうるお姉さん像は違う。
とはいっても、それはフィクションで実際にはそんなものはないのだろう。僕ら男子はそのフィクションのお姉さんに憧れを抱いているだけで現実には存在しないのだ。そう現実は甘く作られていないと。
サークル内の論争を思い出し、帰宅途中、夢のない持論が脳内を埋める。こんな思考のまま家に帰って体を休めるのはなんだか気が乗らない。もう少しだけ歩こう。いつもとは違う道へ入る。通ったことがあるような、どこかで懐かしさを感じる静かな道を進んでいく。気分のままに曲がり角を曲がると、突然、明らかに見覚えのある景色が広がった。やや狭いその道に遠慮がちに出される年季の入った看板。看板には【雨の日晴れ顔】と書かれている。懐かしい珈琲の香りに隠れた甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
なぜ今まで忘れていたのだろう。あんなに通っていたのに。
扉の前に立つ。大切に仕舞われていた引き出しが一気に開かれる感覚。脳裏に鮮明に浮かぶ一人の女性の姿。
嗚呼。僕にはいるかもしれない。
憧れのお姉さんが――。
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