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2023年12月に読んだ小説についてつらつらと

年が明けました、初詣に出掛けるのには最適な晴れ間が見えているなあ…晴天な元日。いろいろと小さな心配事や気掛かりな事はあるのですが、なんだかここ数年で一番穏やかに元旦を迎えることが出来た気がします。
さむいにはさむいけれど、暖かい日が間にはさまったり続いたりでしんどいさむさがこの冬はまだ少ないと感じているのも要因の一つかもですね。

そんなこんなで今年も続けていこうと思っている先月に読んだ小説の振り返りをつらつらと…。


岡本好貴「帆船軍艦の殺人」(東京創元社)
第33回鮎川哲也賞受賞作品、鮎川哲也賞は毎年気にしていて受賞作品はなるべくすべて読んでみるように心掛けていたり。この本も終盤まで気の抜けない展開を面白く読んだなあ…18世紀末の英国を舞台に靴職人として生活をしていたネビルが、ある日の突然軍艦の強制徴募にあい、愛する伴侶と離れ離れとなり軍艦生活をおくることになることから始まるお話。
きびしい規律がある軍艦内、そして海上というどこにも逃げ場のない『密室』のなかで次々と起こる不穏な出来事…帆船の操舵や艦内の生活の様子もおもしろく読みました。敵艦との接敵は読み応えあって迫力ありましたね。


櫻田智也「サーチライトと誘蛾灯」(創元推理文庫)
SNSで一時期、何回も感想が流れてくるので前から気になっていたシリーズをようやく読みました。主人公の青年の独特の雰囲気がおもしろかったなあ、様々な場所にあらわれる無類の昆虫好きな青年…魞沢泉のひょうひょうとした物腰が読み進めていくといつの間にか好きになっている事に気付かされるお話でしたね。バーのお話である『ナナフシの夜』が特にお気に入りで印象に残っているなあ、あのほろ苦さも好きな部類だったように思います、ああいう一つの場所でほぼ完結するミステリが好きなのもあるのかなあと思ったり。


佐藤究「幽玄F」(河出書房新社)
あまり今まで感じてこなかった読書感覚で序盤から引き込まれるように夢中で読んでいましたね、これは佐藤究さんの作品全般に漂っている感覚なのかちょっと気になるところです。一人の少年が憧れた空への果てしないような強い想い、そこに手を伸ばそうとした少年はやがて青年となりパイロットになり…それが一体どういう景色へと繋がっていくのかを面白く読みました。一つの事柄についての厚みと、この内容の厚みと濃さでもスルスル読めてしまうのもすごい…驚きでした。


道草家守「青薔薇アンティークの小公女3」(富士見L文庫)
シリーズ第三弾。やっぱり好きなシリーズですねー、相変わらず私の琴線を揺らす要素に満ちていて面白いです。今回の中心となるお話は、花嫁のパリュールに秘められた謎、そこに浮かび上がってくるパリュールに込められた彼女の温かな想いにとても心揺らすものがありました。お話が進んでいく中で、日に日にアルヴィンにとって、ローザの存在が大きくなっているのを感じとれる仕草もたまらなかったなあ…良き…。アルヴィンとローザの二人はは伝えるべき時は、きちんとお互いに向き合って今の心の内を伝え合う姿がほんとにいいなと思う、好き。あとはクレアさんの作る料理やお菓子が今巻も美味しそうで食べたいという気持ちがずっと止まりませんでした…(笑)


ほしおさなえ「言葉の園のお菓子番 復活祭の卵」(だいわ文庫)
えーと…シリーズとしては第四弾ですね、連句の面白さをしみじみと感じるシリーズなのは今巻も健在、それになんだか今巻はいまの私の心に響く言葉が多く出てきたのも印象に残っていて好きだったなあ…。短歌のイベントや連句の大会など内容も盛り沢山、短歌のトークイベントのお話で一葉さんが短歌について感じていることや語っていること、近頃私が短歌について色々思っていることそのまんまで、何度も頷きながら読んでしまう部分もありました。人との繋がりってその時その時の自分がその人とどう関わっていきたいかという気持ちを持ち続けている限りは、たとえ凝り固まってしまった気持ちだとしても年月と共にほぐれて柔らかいものに変わることがあるのかもしれないなあとか色々と考えこんでしまいましたね。そして毎回のお楽しみである登場するお菓子がとても美味しそう…!!


榛名丼「レプリカだって、恋をする。2」(電撃文庫)
2巻はこうくるのかあ…という驚きと読み終わりの余韻に心動かされましたね。秋の季節になり文化祭の準備に賑やかな学校で、しばらく学校生活を送ることになったナオは彼女にとって温かく安らぎを与えてくれる文芸部との危機に動くことになり…。文化祭の準備や水族館でのアキとの穏やかなやり取り、そして演劇などなど…印象的な場面がたくさんありましたね。そして私の好きなりっちゃんが、小気味よく動いていてとても良かったです、文芸部の危機にもたくましい…(笑) 3巻を読むのも楽しみです。


二月公「声優ラジオのウラオモテ #09 夕陽とやすみは楽しみたい?」(電撃文庫)」
映像化がとても楽しみ…放映が待ち遠しい。こういう胸が熱くなるような気持ちになるからこのシリーズ好きなんだよなあ…ということをここ数巻は強く感じていますね。由美子と千佳が共に積み重ねてきたものがあるからこその彼女の言葉がとても心に響きました。文化祭回を堪能…?している二人の姿も楽しく読みました。一時声優業をお休みし高校生活を楽しむことになった由美子が声優の道について思い悩み姿も読み所でだったかな、柚日咲さんがもはや癒しキャラだよ…笑ってしまうよ……。


光原百合「時計を忘れて森へいこう」(創元推理文庫)
以前から気になっていた作家さん、タイトルの響きにも惹かれて手に取ってみた本。しみじみと良い本でしたね、好きでした、ヒロインである高校生の若杉翠が時計を捜し森をさまよっていると穏やかな物腰と温かい瞳を持つレンジャーの深森護に出会うことから始まる物語。
お話としては第二話が特にお気に入りだったかなあ、全体を通して若杉さんの何でも護さんの事へと繋げてしまう心の動きがいじらしくて、くすぐったさがあってとても好きでしたね、若杉さん視点のゆるやかな語り口も好きでした。この世界には日々を生きていると、苦しい時や目をそむけたくなるようなものが目の前をよぎることがあるけれど、誰かが誰かに伝える想いの温かさとか、必ずこの世界には美しいものはあると信じられるような森の包みこむような爽やかな息吹が感じとれる読後感がとてもよかったです。
続編とかないのかなあこれは…。


宮田眞砂「夢の国から目覚めても」(星海社FICTIONS)
真っ直ぐで繊細な心理描写に圧倒されながら読んでいたなあ…同人サークルを動かしている女性二人の虚構と現実の合間で揺れる大きな感情にのめりこむように夢中になって読んでいました。その夢のような広い広い国は彼女の想いが続くかぎり、どこまでも広がりを見せていくといいなと思う。
そこに自分はどういう好きを見ているのかなあ…とか色々と考え込んでしまうお話でもありましたね。タイトルがほんとに素敵…好き。


市川拓司「そのときは彼によろしく」(小学館文庫)
SNSでおすすめ頂いた一冊、市川拓司さんは2冊目の本。切なく優しい温かさのあるお話でした、時間が経ち想いは変わらずとも様々な状況で今を人は生きている…。序盤を読んでいた時にはこういう余韻を感じるお話へと続いていくとは想像もしていなかったなあ。
その時目の前に想う人が居る事とか、その人と目の前で言葉を交わせるということをとても大事に大切にしたいと思えるような……そしてあの日抱いた気持ちの着地点を確かなものにする青春小説のような感覚もあった気がするお話でした、とてもよかった…。


今年はどんな小説との出会いがあるのかとワクワクドキドキを感じつつ、未だまっしろな今年の1年を自分なりのペースで歩んでいけたらと思います。