何も覚えていなくても
何もかもがはじめての体験だった。できることをすべてやっても他人でしかなくて、ただ無力感に苛まれた。この世に命を生み出すことの壮絶さと向き合い、代わってあげられないことへの罪悪感も抱えながら、僕は出産という奇跡にやっとの思いで立ち会った。
2022年の11月末、奥さんが妊娠していることがわかった。忙しい平日の朝の時間、トイレから出てきた奥さんが「なんか、妊娠したかも」と一言。あまりに唐突だったから少し時間が止まったけど、ふたりともこらえきれず笑った。驚きと嬉しさが混ざった幸せ