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まだまだ進化する!ミスチル桜井さんの歌詞を作詞家が本気考察

 歌詞は書いているんですけどねえ、筆が進まぬ作詞家です。noteが久しぶりになっちゃいました。年末は毎年忙しいはずなのに、今年はいろいろあってのんびりです。ということで、今年最後に大好きなミスチルについて語りたいと思います。12月2日にリリースされたMr. Children 「SOUNDTRACKS」を聞きました。たくさんの音楽番組で 「Brand New Planet」 「Documentary film」 を耳にしました。「あ~やっぱりミスチルはいいなあ」と改めて思いましたよ。

 なんせ1993年「Cross Road」からのファンですからね。ファン歴も長くなってきました。そんな私がどうしても一番注目してしまうのが歌詞です。そしてその歌詞ですが、今回のアルバム…というよりは、ひとつ前のアルバム「重力と呼吸」、いやもっと細かく言うとシングル「himawari」(2017年リリース)あたりから、少し変わったなと思っていたのです。

作詞における最重要点

 作曲においてもそうですが、作詞においても、重要なことはフックです。キャッチーで、覚えやすく引っかかりがあること。今年流行った曲を思い出してみてください。

「ドールチェ・アーンド・ガッバーナ」「ポケットからきゅんです」「愛してるよマイラ」「I love, I love… イレギュラー」「Ohh I just wanna make you happy ~」

歌詞とメロディーがセットになって歌えるくらいの、印象的なフレーズが、流行りましたよね。桜井さんはなんといっても策士ですから、特にシングル曲においてはキャッチーさをしっかり狙って、歌詞を乗せています。2000年代だけみたって

「ダーリン、ダーリン」「もう一回、もう一回」「でもヒーローになりたい」「365日の~」「~サイン」

とかね。曲のタイトルになるようなキーワードが、メロディーの肝になる個所にあてられていたり、言葉を繰り返して印象的にしたり。こういう作詞方法って、むしろ商業作詞家の書き方なんですよ。アーティストさんは、自分の伝えたいことをしっかり伝えれば、もうそれで「アーティスト」という職業を全うしているので、そんな商業的な作り方しなくてもいいんです、普通は。ましてやミスチルほどの大物アーティストなら、なおさら。でも桜井さんて、いつまででも策士なんですよねえ。

「himawari」で魅せた進化

 そんな策士・桜井の、新たな罠が「himawari」だったと私は思っています。個人的にはすごく好きな曲ですが、最初に聞いたときに「あれ?これシングル?」と正直に思いました。いい曲なのはわかるけど、今までのようなシングル曲ならではの派手さ、印象深さ、はあまりないなあと意外だったんです。「himawari」のサビってけっこうあっさりしたメロディーで、しかも短いんですよね。歌詞も”ひまわり”と”陽だまり”で韻を踏むミスチルらしさ(桜井さんらしさと言うべき?)はありますが、ずいぶんおとなしいなと。それから、もっと驚くことに、サビの始まりの音が「う段」なんです。サビの最初の音って、しっかり聞かせるために、大概「あ、え、お段」の音にすることが非常に多いんです。桜井さんも今まで、かなりの頻度でこれを実行しています。(「果てしない闇の向こうに」「決してつかまえることのできない」「閉ざされたドアの向こうに」など。)でも「himawari」は「暗がりで咲いているひまわり」と"く”から始まるんです。う段って私には一番暗い音に聞こえるんですよねえ。おそらく私は、今まで一度もサビ始まりを”う段”にしたことはありません。

 まあ、今までの商業作詞家的な作詞から、アーティストの作詞を披露したといいますか。新しいミスチルを魅せたシングルであったと、私は思っています。つまり、新しい罠です。また仕掛けにきてる!いつまで桜井さんは仕掛け続けるんだろう…

「Documentary film」に思うこと

 それで、そのままもうアーティストっぽい歌詞で行くのかな?と思ったら、そうでもないんですよ。アルバム「重力と呼吸」は、全体的にわかりやすさを追求した歌詞でしたね。アルバムリード曲のタイトルは「Your Song」いえ、大好きな曲ですよ。MVがエモかったなあ。でもシンプル!いままで、ひねりに命かけてませんか?くらいひねっていたのに…捻らない、シンプル歌詞ばかりでした。

 そして2020年、最新アルバム「SOUNDGTRACKS」のリリース。アルバムのずいぶん前にリリースされたシングル「Birthday」は、今までのミスチルっぽい王道シングル曲だなと思いました。このアルバム内で私が一番好きな曲は「Brand new planet」ですが、こちらもhimawariの流れを受けているとは思うものの、ちゃんと捻りがあって、でもとてもミスチルらしい曲です。桜井さんは今まで、世の中の絶望ひとつひとつに光を当てる作業をしてきています。底が見えない、濁った水の中から、希望を掬いあげる作業。この世のどこかにいる誰かに、一緒に行こう!と誘う言葉を投げかけているんです。個人的に、「あたらしい"欲しい”まで もうすぐ」というフレーズに励まされました。

 でもこのアルバムの中で、まったく違う光を放っていたのが「Documentary film」だと私は思います。何が違うのか、ずっと考えていたのですが…この曲の歌詞って、すごくパーソナルな気がするのです。歌詞はいつも作詞家(=歌詞を作る人)の一面ではありますが、同時に、誰か、自分以外の主人公が歌詞世界にはいます。自分のことを歌っているようで、誰かのことを歌っているようで。その境界線はあいまいです。真剣に歌詞を聞いて「これって自分のことだ!」って思ったこと、ありますよね?書いている側の言葉を使うと、共感を得られるように、誰もが主人公に当てはまるように、作詞をするんです。ミスチルの歌詞は、特に今までそういうことを意識して作られていると思います。でも、この「Documentary film」は、すごく桜井さんのパーソナルな部分を感じてしまうんですよね。そして「パーソナルな部分をさらけだす」というのは、時代的に歌詞のあらたなトレンドにもなっている気がするんです。まあ、古参のミスチルファンは、それって「innocennt world」からでしょ、と言うかもしれません。確かに、innocent worldとかTomorrow never knowsとか、あのあたりは本当の自分をさらけだす作業だったし、時代がそういうものを求めていたんだと思います。でも時代は変わります。

 時代にも自分のなかにも、トレンドはあります。そしてトレンドはめぐります…音楽ではここ最近、80年代っぽいものが流行っていますし。そして、自分自身も変化しながら、進化しながら、同じ場所に戻ってくることもあるでしょう。けれど、正確にはただ同じ場所に戻ってきたわけではないはずです。我々は大きなグラウンドを走って1周しているわけではく、螺旋階段をのぼっているんです。だから同じ場所に戻ってきても、それは今までとは段違いの同じ場所。

 桜井さんの歌詞も、螺旋階段をのぼるように、進化し続けているんでしょうね。「Documentary film」は、誰かのために歌っているようで、でもすごく個人的なことを歌っているようで、私は耳にするたびに戸惑いを感じます。今までのミスチルの曲は、聞けばたいてい光の方へ連れて行ってくれたけど、この曲はどこにも連れて行ってくれない気がしています。まあ、この曲はサウンドトラックなので。あくまでBGMなので。自分の人生の主題歌は、自分で決めるべきなのかもしれません。

 ということで、ミスチルについて存分に語ったところで、2020年はここまで。また2021年にお会いしましょう!皆様、よいお年を。


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