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こそあど言葉は歌詞映えする

 気づけば12月も終わり、今年も終わりです。人生の下降線を辿ってはおりますが、それなりに楽しいこともあったなあと振り返りつつ…今日も作詞コラムいってみよう!

 きっかけは、ふとSMAPの「夜空ノムコウ」を思い出したところから始まりました。「♪あれから~ 僕たちは~ 何かを信じてこれたかな」いい曲ですよね。いい歌詞ですし。そして思い出してから毎回思うのは「あれからっていつからなんやろかー」です。歌いだしが「あれから」って、本当はおかしいんですよ。これ、あれ、それ、どれ…こそあど言葉とは指示語です。指示語は、話し手の状況やいる場所にをもとに、ものを指し示す言葉です。指示語が登場する前に、ある程度話し手の状況を把握できなければ、「あれ」がいったいどれなのか、聞き手にはまったくわからない。だから最初から「あれ」って言うなんて、不親切極まりないわけです。私は歌の冒頭から指示語を使う勇気はないです。スガシカオさんは本当にすごい。

 でも、こそあど言葉って歌詞に使うとなんかかっこいいんですよね。だから、作詞を始めた当初はよく使っていました。ただ、最初の頃「こそあど言葉に逃げるな」というアドバイスを頂いたことがあり、しばらくは敬遠していました。最近はまた使い始めていますけどね。だってこそあど言葉って、便利が良いいし、歌詞においてはとある魔法を使える言葉なんですよ。だから乱発はせずに、うまく使いたいし、他の人にもうまく使って欲しい。そんな思いを込めて、歌詞におけるこそあど言葉の有効性についてまとめてみました。


こそあど言葉は音がいい

 日本語の母音5つの中で、あ、え、お、の3つは発音しやすい、強めの音ですよね。逆に、い、う、は口を大きくあけるわけではないので、籠る音、弱めの音です。それを考えると、こそあどはすべて強い音で始まるんです。フレーズの最初に持ってきても、安心して発音できる音=聞きやすい音ばかりなんです。自覚していますが、私が本当によく使ってしまうのが「どんな」です。言ってみれば英語の「Don't」に近い音なので、強い響きで、使い勝手がいいと思っています。


音数合わせに便利

 これは本当はプロとしては言いたくないのです。でも、事実なんです。曲先と言ってメロディーが先にあり、そこに歌詞をつけるのが昨今の作詞方法。となると、歌詞には必ず文字制限があるのです。メロディーが8音ならば、基本は8文字をそこに乗せるのです。もちろん、基本です。2文字で1音扱いにするとか、3文字で1音扱いにするという場合もあります。そして、そっちの方がいい時もあります。とはいえ、歌詞には文字制限があり、特に作詞を始めたばかりの頃は「あー、1文字足りない!!」とか「2文字多すぎる!」とか、たった1-2文字の違いに散々頭を悩ませるのです。言葉を変え、言い方を変えてメロディーにきっちりハマる言葉を考えていくのが作詞家の仕事。そんな時に、「あの」とか「その」とか、2文字くらいの言葉ってすごく便利なんですよね。
 1文字なら終助詞(語尾につける「さ」「ね」「よ」など)という手もあるのですが、終助詞って意外に歌い手のカラーを変えてしまう可能性があります。その歌い手さんには「~さ」とか「~よ」とか似合わない、ということがあるのです。2文字の動詞なんてないし、2文字の名詞はありますが、名詞も歌全体の印象を変えてしまう可能性がある。そうなると、すごーく無難な言葉ってこそあど言葉になるんですよねえ。とはいえ、「こいつ文字合わせにこそあど言葉使ってるな」と人に思われないように、こっそり使ってくださいね。


リスナーは都合のいい解釈ができる

 最初にお話ししたSMAPさんの「夜空ノムコウ」ですが、皆さんは「あれから」って「いつ」だと思いますか?歌の歌詞を辿っていけば、ぼくと君が公園で誰かの声に気づき身をひそめていたころ、君が何か伝えようと手を握りかえしていたころのことを言っているのかもしれません。でも今この歌を聞けば、この歌が流行っていた当時のSMAPさんを思い出す人がいるかもしれませんし、この歌を耳にしていたころの自分の状況を思い出す人だっているかもしれません。もしこれが国語のテストなら、「あれ」が差す明確な時期を答えないといけないでしょう。でも歌詞ですから、正直に言って正解はありません。指示語って、けっこうふわっとしているんです。でもそのふわっとした曖昧さゆえに、リスナーは自分勝手に解釈できるんです。あれからってこのときのことだよきっと!と、勝手に憶測していいんです。歌詞の曖昧さは、リスナーが入り込む隙を与えます。自分が好きなように解釈していいとなると、もっとこの歌が好きになる可能性が高いのです。

 日本語だけでなく、これが英語であっても指示語は強いなと思わされるヒット曲があります。1999年にヒットしたバックストリートボーイズの「I want it that way」私この曲すごい好きなんですけど、あまりに曖昧過ぎると今でも思っています。I want it that way = 私はそれをそんなふうに欲しい。え?どれをどんなふうに?ってなりますよね。指示語が2つも入っているですよ。この曲はスイス人の売れっ子作家マックス・マーティンさんが作られていて、当時はまだあまり英語が達者ではなかったという話も聞きますし、プロの作詞家が別の歌詞をつけたけど、オリジナルのミステリアスな雰囲気を越えられなかったのでこの歌詞になった、という記事を読んだことがあります。英語ネイティブも わけわからん!と言っている歌詞で、この歌詞には意味がないと批判されていたことも事実です。
 それでもこの曲がヒットしたのは、曲のキャッチーさだったり、人気アイドルが歌ったということもあるでしょうけど、リスナーがそれぞれの「it」と「that way」を勝手に解釈して受け入れたのだと私は思います。

 歌詞はある程度のわかりやすさが必要ですが、同時に多くの人に受け入れられるためには、ある程度のあいまいさも必要です。自分勝手に解釈して、自分のものとして受け入れる「隙」がないと、多くの人には届かないと私は考えています。そういう点では、指示語は強い。むしろ最強!


こそあど言葉のススメ


 音がいい、音数合わせに便利、そしてリスナーは都合のいい解釈ができる。いいことだらけのこそあど言葉を、これからも適宜使っていこうと思っています。でも、乱発はダメですよ!


最後に、「夜空ノムコウ」の歌詞を検索しようとしたら、検索候補にこんなんあがってきました。今年ちょっと流行ったんですか?爆笑したんでやめてくださいw ”あれから僕たちはスンドゥブチゲ高菜”


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