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ーある詩人によせてー #詩のようなもの


 
砂ぼこりをいただいた山査子さんざしも やぶがらしの生け垣も いけどもいけども見あたらなくて

アンドロメダ星雲は 道脇のフェンダーミラーの輝きに取りこめられ

黄色い園児たちが 横断歩道を渡りながら けたたましくあざける

 

気の良いおかみさんは 小春日和のひなたから ひょっこり顔をのぞかせることもなく

バッカスは 竪琴たてごとを投げ出して 邪悪な陰謀をえんえんと語り

良寛さんは 耄碌頭巾もうろくずきん茶髪ちゃぱつあたまをかくし にんまりとほほえみつづけ

いっぱいになったポケットから 小切手帳を探している

 

写真機一つだけぶら下げて 武蔵野台地をさまよってみるが

豆腐売りの喇叭らっぱばかりが高らかで 配達中の氷屋のオート三輪を避けるのにいそがしい

曲馬団きょくばだんの薄汚れたテントと 柱の先のしなだれた三角旗しか うつらない

 

時雨しぐれだけが現し世で 影のうすい喫茶店にひなんする

板東平氏のふるつわものたちが 大声で首の数を 競い合い

平九郎が 西に向かって 平伏している 

だれかが大声でおめく

  おれの居場所は ここじゃねえ
  てめえの居場所も ここにはねえ
 
きっと 雨があがったのだろう