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スキルマトリクス導入までの具体的なポイント

こんにちは!クリエイティブ部OPSチームの下川です。
前回の記事では、スキルマトリクス施策の背景にある課題感や目的、それをどう解決していくかの方向性についてご紹介しました。

▼前回の記事はこちら

アウトラインを決めたはいいものの、導入していくにあたり、思い浮かぶ疑問はたくさんありました。「スキルレベルはどう測るのか?」「レベル付けされることで、メンバーからネガティブな反応はないだろうか?」「そもそもスキルマトリクスをどんな場面で活用すればいいのか?」etc….

今回は、実際に現場で導入するために私たちが行った
 ・スキルの採点基準と採点方法の設定
 ・スコアの共有方法と活用方法の設定

をご紹介したいと思います。

この記事が、日々試行錯誤しながら人材育成や組織デザインに取り組まれている方の参考になれば幸いです。


3大スキルとパーソナルスキルの解説

導入時のポイントの前に、まずは大前提となるスキルについて解説します。
私たちのスキルマトリクスは、主にコンセプチュアルスキル、ヒューマンスキル、テクニカルスキルの3大スキル群で構成されています。

コンセプチュアルスキル…概念化能力。ものごとの本質を見極める力
ヒューマンスキル…対人関係能力。信頼関係を築き人を動かす力
テクニカルスキル…業務に必要な知識や技術、ノウハウ

それぞれ3大スキル内に6〜10個のスキル群を内包しており、専門性を伴うテクニカルスキルのみ、職種によって異なるスキルを設定しています。

スキルマトリクスは3大スキルで構成されています

【コンセプチュアルスキル】
コンセプトや概念、仮説を作るなど、なにかを作る前段階で必要になるスキルです。3つの中で最も抽象的なスキルですが、テクニカルスキルを手でデザインする行為だとすれば、コンセプチュアルスキルは頭でデザインする行為とも言えます。

【ヒューマンスキル】
良好な人間関係を構築し、スムーズなコミュニケーションを行うために必要なスキルです。 「自分の考えを相手に正確に伝える」「相手の考えを理解する」といった、相互のコミュニケーションを促す能力であり、育成のためのティーチングや相手の言葉に耳を傾けるヒアリング能力などのスキルも含まれます。

【テクニカルスキル】
業務を遂行するために欠かせない専門的知識や技術、実際に作ったり表現する造形力です。それぞれの専門領域に深く関わってくるため、職種によって内包されるスキルと数は変化します。

【パーソナルスキル】
スキルマトリクスは、3大スキルを主な要素としていますが、3大スキルの中に含まれるものだけが社会における全てのスキルではありません。メンバーひとりひとりがこれまでのキャリアで培ってきたスキルや、最新技術によって生まれる新たな技術や知識もあります。
スキルマトリクスは強みの可視化はしますが、決して“決まったスキルの型“にはめ込みたいわけではありません。むしろ型に囚われず“本来の持ち味”を業務で発揮してもらいたいので、個々の特殊技能をアピールできるパーソナルスキルの項目を設けています。

スキルの採点基準の設定

スキルマトリクスは端的にいうと、設定したスキルを活用できるレベルで段階分けして、個々の能力値を可視化するものです。
そのため採点基準や方法が明確に示され、メンバーが採点プロセスを理解し、安心して参加できる公平性と透明性を持った状態が非常に重要となります。
例えば、スキルの採点基準が曖昧であったり、採点が主観的に行われていたりすると、公平性が損なわれてしまい、メンバーが自身の結果に納得できない状況が生まれ、モチベーションの低下や不満の原因となる可能性があります。

レベルの設定

まずは、具体的なレベル設定についてご紹介していきます。
私たちのスキルマトリクスでは、3大スキルに内包されているそれぞれのスキル項目に対して、◎◯△による3段階でのレベル分けと、より詳細な5段階でのレベル分けをしています。

全てのスキルには、◎○△レベルの参考となる「具体的な水準」が設定されており、メンバーはそれを参考に◎◯△の3段階で自己採点を大まかに行います。
その後、上司とシニアメンバーによる他者採点で、客観的視点を持って5段階での詳細な採点を行います。

大枠の3段階と、詳細な5段階のレベル

具体的な水準を設定する際には、以下の流れで検討を行いました。

  1. どういった目的のスキルなのかを言語化し、関係者間での共通認識を確立する。

  2. 各スキルにおいて、具体的な水準を設定するために、以下の要素を検討。

    1. 対象物:スキルが適用される対象や範囲

    2. 影響範囲:スキルの影響が及ぶ対象や範囲

    3. 熟練度や期待する成果:スキルを持つ人や対象物がどのような状態になる必要があるのか、または望ましいのか

  3. 複数名で読み合わせを行い、粒度を統一し、表現に引っかかりや迷いが生じないように検討を重ねる

基準がブレないよう、認識を合わせながら進める

スキルレベルの具体的な設定例

スキルレベルの言語化は難しく、悩む部分が多かったのですが、現場で働くシニアメンバーと一緒に考えることで、納得できるスキル設定を目指しました。
事例を調べて得た情報や、レベル水準表の3段階や5段階の定義を参考に、自分たちの業務内容と照らし合わせながら具体的なスキルレベルの定義を明確にしていきました。
例として、デザイナーのテクニカルスキルを一部ご紹介します。

【レイアウト】
仕上がりの形を想定し、要素を効果的に配置することで伝わりやすくする手法
◎…不規則なレイアウトでもロジックを持って心地の良いバランスのレイアウトが出来る
○…訴求したい内容の優先順位・情報整理をしたレイアウトを考えることができる
△…デザイン4原則(整列・近接・反復・対比)、視線誘導への理解がある

【色彩】
最適な印象を与える配色を行うための色彩の知識
◎…論理的な配色に基づき、色の提案を行うことが出来る・UDカラーの知識をもっている(アクセシビリティ)
○…施策に合わせた効果的な色を選択することができる
△…色相・明度・彩度といった色の3要素や配色技法を理解している。

【タイポグラフィ】
文字を読みやすく見せるデザインの手法
◎…欧文、和文、どういうときにどういうフォントを使うのが最適かロジカルに説明できる
○…読みやすさを意識した、文字詰め、行間設計、和欧混植が行える
△…書体について基本的な知識があり、イメージに合ったフォント選びができる

【ビジュアル】
平面的だけではない画作り、視覚的に情報を伝達する手法

◎…違和感のないリッチなビジュアルをコンセプトから作ることができる
 常にアンテナを貼り、既成概念に囚われない、トレンドを取り入れたビジュアル提案ができる
○…施策・ターゲットに合わせた効果的なビジュアル制作ができる
 構成の基本形を理解してビジュアルを複数案つくることが出来る
△…構成に合わせてビジュアル制作ができる
 フィードバックを受けながら、デザインをブラッシュアップできる

制作ツールのスキルについては、「○○を作れる」「〇〇機能を使える」といった具体的な表現にすると、できることに目がいき過ぎて本質を見失いがちなので、抽象度を上げた表現を採用しました。

【ツールスキル】
◎…業界水準で見たとき、他社のプロレベルと遜色なく業務を行える
○…一通りの機能を使用でき、効率的に業務を行える
△…一部サポートが必要だが、業務レベルの使用には問題がない

スキルの採点方法の設定

採点が評価者の主観や好みに左右されると、公平性が損なわれる可能性があります。 そのため、共通の採点フローや採点ルールを定めることで、採点の一貫性を確保しました。

①自己採点

まずは、メンバー自身でおこなう自己採点から始まります。
自己採点は、専用フォーマットを使って、◎◯△の3段階でおこないます。
目安となる水準はあれど、そこに自分が到達しているか、又は未達かは、判断が難しいところです。
ですが、本質的に大切なのは、自分の強みがどこなのか、自分の課題はどこなのかを分析して中長期的な成長計画を立てることです。
まずは自己認識を高めるきっかけとして、思うままに自己採点をしてもらいます。

②他者採点

他者採点は、上司とシニアメンバー複数名で行います。
上司は、メンバーの普段の業務や勤務状況を元に、俯瞰的視点で採点を行うのが役割です。
シニアメンバーは、現場で感じるメンバーのスキルレベルを元に、現場視点で採点を行うのが役割です。

複数人で採点を行うことにより、採点時の属人化のリスクを回避することが目的です。他者採点を行う際は、必ず上司とシニアメンバーがその場で一緒にディスカッションをしながら行なうようにしています。

また、採点者によっての判断のブレを極力少なくするため、「現状だけでなく今後の期待値やポテンシャルも加味するのか?」「メンバーの自己採点を加味しながら採点するのか?」「メンバーのレベル感の把握が困難だと感じたらどう判断するのか?」などなど、実際の採点時に悩んだ点をもとにして、細かい採点ルールも設定されています。

採点は全て一つのExcel上で行います。
自己採点と他者採点を並べてギャップを知ることで、自己認知を高めます。

スコアの共有方法の設定

採点されたスコアは最終的に
①トータルスコア
②総合スキルグラフ
③3大スキル毎のレーダーチャート
の、3つのエリアを一つにまとめたスコア表として共有されます。

①トータルスコア
全てのスキルの合計値と、その合計値を雇用形態別の期待値及び自身の前回値と比較できるようになっています。

②総合スキルグラフ
テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの3大スキルを6つにグループ分けし、大枠として自分の強みがどこか把握できるようになっています。

③3大スキル毎のレーダーチャート
より詳細にどのスキルが強みなのか把握できるようになっています。

特に②総合スキルグラフは、個々のスキルの評価よりもまずは自分自身の特性や強みを理解してもらうことを意図して作成しました。
スキルのグループ分けは以下の通りです。

スコアの活用方法の設定

次に、このスコア表をどのように活用していくのかご紹介します。

キャリア形成をサポートする

スキルマトリクスで可視化されたスコアは、他人と比較して優劣を判断するためのものではありません。
メンバーは、自分が知らなかった強みや特性に注目し、伸ばしていく方向性を検討して何をレベルアップするかを自分で決めます。上司はメンバーがそのスキルを高められるよう支援を行うのが役割であり、スキルマトリクスはそのお手伝いをします。

1on1で伸ばす方向を把握

上司は、可視化されたスコアを使ってメンバーの現状の強みや特性、上司としての期待役割をフィードバックします。
メンバーは「キャリアの方向性」や「何をスキルアップしたいか」を伝えます。
ここで大事なのは、双方の思惑を擦り合わせて、スキルをポジショニングし、計画的な目標設定をすることです。

具体的なスコアが提示されるので、中にはアレもコレもと全てのスキルに目が行ってしまうかもしれませんが、中長期に現実的な目線で目標設定するのが重要です。そのためにも、日頃の1on1での擦り合わせやサポートが重要ということになります。
また、上司とメンバーが全く別の職種ということもあり得ます。そういった異なる職種間でも、目標とするスキルと水準が明確にわかるという点においてもスキルマトリクスの意義は大きいです。

ガイドラインの作成

スキルマトリクスの導入において、スキルを可視化するという施策がネガティブに受け取られる可能性が考えられました。
そのため、メンバーに施策意図の理解を促し、受け入れてもらいやすい物にするためにガイドラインを制作しました。

記事でもご紹介したような
・スキルマトリクスの目的や導入の背景
・スキルレベルの定義や採点基準
・採点結果の共有方法
・活用方法
などでガイドラインを構成しています。
それを読めば、スキルマトリクスに関する情報を把握し、理解を深めることができるようになっています。

イラストや図を取り入れ、難しい説明をより受け入れやすく

ですが、どうしても難しい話が多くなりますし、文章だけを読んでいると疲れてしまいます。
そこで活躍するのが、前回から登場しているパンダ師弟です。

ガイドラインを読む人の心理的ハードルを低くするため、キャラクターが案内人となりイラストや図で活用方法のイメージを補完しています。スキルマトリクスのような成長支援の施策は、劇的に効く特効薬というより、東洋医学のようにじっくり効いてくる中長期を見越した施策のため、そこから「東洋医学」「漢方」「中華」「歴史」「修行」「虎の巻」「秘伝書」など、イメージを膨らませ、武術修行に身を置くパンダと女の子のキャラクターをナビゲーターとして登場させました。

スムーズな導入のためには準備が大切!

今回は、スキルマトリクス導入までの具体的なポイントについてまとめました。

  • スキルマトリクスの採点基準を明確化する。

  • 採点者の役割を明確にし、公平性と客観性を確保する。

  • メンバーへの効果的な共有方法を設定する。

  • スキルマトリクスの活用方法を示す。

これらのポイントを押さえることで、スキルマトリクスの導入をスムーズに進めることができます。

参考にさせていただいた記事

最後に、スキルマトリクスを実践してみた過程を公開してくださっている記事をご紹介します。運用フローや評価時のルール設定で参考にさせていただきました。

次のステップとしては、実際にスキルマトリクスを運用し、メンバーの成長支援に取り組んでいくことになります。
スキルマトリクスの運用においては、定期的な実施とフィードバックを行いながら、メンバーの成長をサポートしていくことが大切です。
また、運用フローの見直しや改善も継続的に行っていくことも重要です。

次回は、実際に運用してみた結果と、今後の展望について共有したいと思います!お楽しみに!