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素人が”缶のショップ”を出店した舞台裏のすべて


「え!?今回の企画ってうちの単独出店なんですか…?」


一気に血の気が引いたのは出店の1ケ月前、BASE社マルイ社の担当の方々と出店の打ち合わせをしているときのことでした。

元々は「新宿マルイ本館でのBASEポップアップスペースに出店しませんか?」という企画に応募したのがきっかけですが、自分が想像していたのは「BASE社のスペースに複数ショップが同時出店してスタッフも代わりに常駐してくれる」というものでした。

しかし、それは自分の勝手な思い込みで、実際は単独出店、ショップスタッフも自前、1週間基本2名常駐、というもので、出店もやった事がない、余剰人員もいない、小売の値札すら作ったことがない弊社には相当にハードルが高いことに気付いたのが冒頭の打ち合わせでの発言です。

今回は、普段はBtoBの下請け缶屋をやっている弊社が、新宿マルイ1Fという一等地で単独出店した舞台裏をつらつら書いていきたいと思います。マーケティングやストラテジックな話という再現性を追求した話ではなく、石川が何を考えてどう動いていたか、という原体験のストーリーでまとめます。


側島製罐とは何をしている会社なのか

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そもそも、一般の方はカラフルな缶カンを売っている会社というイメージしかないかもしれないので、前提として弊社がどんな会社なのか改めて記しておきます。

社名:側島製罐株式会社
代表:石川浩章
創業:1906年(明治39年)
場所:愛知県海部郡大治町西条字附田89
業種:スチール缶の製造(お菓子・乾物・ワックス・蚊取り線香などの缶)

普段は、海苔屋さんやあられやさんの銀色の缶カンや、デパ地下のお菓子屋さんの缶カンを作ったりしている会社です。BtoB(事業向け)の売上が100%で114年間やってきた会社です。

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今までは取引先からの「こんな缶をつくってほしい」というオーダーに応えて仕事をしてきただけだったので、toCの領域は何もかも手探りでやっている状態です。当然、通販小売なんてものも今までやったこともなく、況や実店舗をや、です。

1件のツイートから始まった缶カンのDtoC

僕自身はこの会社の後継ぎとして2020年4月に入社しました。今も平社員の立場ではありますが、実質的な会社の意思決定者として稼働しており、右肩下がりになっていた老舗缶屋を立て直すべく会社内の改革をみんなと一緒に進めているところです。

このツイートはそんな改革の一環で、不良在庫を廃棄していた時のことでした。昔作ったけど売れ残って使われていないカラフルな缶カンが山ほど出てきて、「こんなに色も綺麗でかわいいのに、もったいないなあ。」と思って何の気なしにぼやいたのがバズり、その際に通販でも売ってほしいというお声がたくさん届いたのを機にBASEのプラットフォームを活用して通販サイトを立ち上げました。これが2021年の1月のことです。

通販サイトを立ち上げた当初は「段ボールに裸の状態の缶と緩衝材だけ入れてお届け」というお粗末なものだったのを、お客様の反応や他社事例を参考に手探りながら改良を重ね、最近はショップカードを入れたりスリーブに梱包したりと、曲がりなりにも通販らしい形を整えられてきたかなと思っていました。BASE社から件の案内メールが来たのはそんな時のことでした。

「新宿マルイ本館で出店できるなんて夢みたい!通販も慣れてきたしとりあえずエントリーしてみよう!」と、とにかく挑戦することが大事だというマインドばかり先行していてまともに出店の詳細を確認しないままエントリーしてしまったわけです。


ないない尽くしの出店準備

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BASE社とマルイ社と打ち合わせを終えて、改めて出店までの1ケ月で準備しなければいけないことを洗い出してみました。

MUST
・人繰り(1日2名、のべ14名)
・今回の企画のテーマ、タイトル決め
・今回の出店用のポスターやデジサイのデータ×8パターン
・当日の展示方法の企画
・当日の展示物の調達
・値札やポップなどのデータ作成、備品調達
・販促物の作成、調達
・プレスリリース発信、宣伝

WANT
・ショッパーの企画、調達
・スリーブの企画、調達
・ノベルティの調達

新宿マルイ本館1Fに出店できるというのは夢のような話ではあるのですが、その内容がみすぼらしいものであれば出店も逆効果になってしまい、更にはマルイさんやBASEさんの看板にも泥を塗ることになってしまいかねません。とはいえ、イラレの使い方も知らず、値札をどうやって作れば良いのかもわからず、1週間張り付きで2名出せるような余剰人員もなく、というないない尽くしの状態で途方に暮れていました。とはいえ、足りない部分をすべて外注丸投げのようにしてしまうのは経験値が積めずに単発で終わってしまう(そもそも予算的にも無理)ため、イラレでのデータ作成や展示などのノウハウを伝授しながら今回の企画をサポートするという条件で、以前弊社のパンフレットを作っていただいた96Labのしづかさんにお手伝いを依頼することにしました。


一等地での出店で何を目指すのか

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いざ出店の準備を進めるにあたってまず最初に決めなければいけなかったのは、「今回の出店を事業全体でどう位置付けるか」ということでした。売上をたくさん立てるというのはもちろん大事なことではありますが、無名の会社が突然新宿マルイ本館に出店したところで、普段からTwitterなどを見て知ってくださってる方以外の来店を期待するのは非常に難しいと感じていました。10年で300缶しか売れなかったという過去の反省からも、「かわいい缶が何となく並んでいるお店」というものでは何の価値もないのは明らかです。

ディレクションのサポートをお願いしたしづかさんとも侃々諤々した結果、以下の3点をゴールとして企画することにしました。

①一般の方への認知拡大
②既に認知はしているが顧客になっていない層へのリーチ
③新商品のテストマーケティング

KPIとして期間中の売上50万円という数字も一応セットしました。


”笑顔に全力でコミットしよう”というバリューを貫き通す

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こういうとマルイさんやBASEさんに怒られてしまうかもしれませんが、「たくさん売る」ということはあまり目的にしたくありませんでした。企画する中で、調達コストや販促方法などで迷う場面も多くありましたが、弊社のバリューの一つある”笑顔に全力でコミットしよう”に沿って、どうすれば来てくださった方に楽しんでいただけるか、「来てよかったな」と記憶に残していただけるかということを突き詰めて考えていきました。売上や認知はその結果という位置づけです。

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例えば、ショッパーも当初はこんな真っ青なものを企画していました。最近刷新したCIの認知拡大を目論んでのことでしたが、

「カラフルな缶カンを期待してきてくれる人にとって、会社のアピールが強すぎると体験のノイズになるのでは?」

と思い直し、真っ白なベースのものへ仕様変更したりしていました。

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初めてのことを手探りでやっているとどうしても視野が狭窄してしまい、自社都合である「売上」や「認知拡大」に立脚したものになって、気付けば自分たちの想いばかりに偏重した内容になってしまっている場面が何度もありました。しかし、今回の企画のゴールの前提は、わざわざ弊社の出店に足を運んでくださる方々に喜んでいただくことです。自分たちのエゴは捨てて、一人でも多くの方に感動していただけるように企画を進めていきました。手探り素人ながら直截に意見をしまくる石川に対して、忌憚なく意見をぶつけて擦り合わせてくださったしづかさんには心から感謝です。


自分達の想いを世の中に届けたいという一心でのつぶやき

今回の出店に当たっては、初めてPRTIMESを活用してプレスリリースを発信しました。

何件か転載していただいたり、新聞社に取材に来ていただいたりと、件数的にはそれなりの成果を上げることはできました。しかし、あくまでもビジネス関係の方々が興味を持ってくださっているだけで、一般の方にリーチできている感覚はあまりありませんでした。いくらメディアで取り上げていただけたとしても集客導線が作れなければ今回の広報としては成功とは言えません。そして、それはつまり今回の件で一緒に頑張ってくれているスタッフやパートナーの努力にも十分に応えられないことを意味します。何をすればもっと興味を持っていただけるか、自分たちの想いが届くか、最後の最後まであがき続けて、悩みに悩んで出店前日に投稿したのがこのツイートです。


ショップ開店と同時に押し寄せる来客の波

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今回の出店期間は3/11㈮~3/17㈭の1週間でした。

記念すべき弊社ショップの第一号のお客様は古参NBAニックスファンであるスタークスさんという方でした。以前から弊社の缶を買ってファングッズを収納してくださってる方で、Twitterで今回の出店を見てお越しくださいました。

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そして、スタークスさんの来店を皮切りに、平日金曜日であるにも関わらず非常にたくさんの方が弊社ショップにお越しいただき、気付けば欠品間近となる商品も出てきてしまいました。

「在庫なくなったら補充すればよいのでは?」
という話なのですが、ここは非常に判断に迷ったポイントでした。まず缶はその容積の大きさから送料だけでも負担が非常に大きく、売れ残ってしまった際の返送コストも相当に掛かります。また、この日は金曜日で土日は会社も休みなので、在庫補充するのも初日の開店直後の13時がデッドラインでした。

来店が多いのもバズったことによる一過性のものではないか?本社のスタッフに負担を強いて結局売れなかったでは話にならないのでは?という思いもありつつも「商品を見るのを楽しみに時間を割いて来てくださった方々をがっかりさせてはいけない」と原点のバリューに立ち返り、当初の仕入れと同程度の数量で在庫の補充を手配しました。


全員が自分事で対応するチームの底力

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「今から4時間以内に倉庫から500缶ピックアップして東京に送ってくれ」

弊社のメイン事業はBtoBの製缶業であり、toCの事業を専属で担当している人はいません。そんな余剰人員のない中で今回の東京にいる石川からのオーダーは無理難題といえるものでした。

「出来る分だけでいいから」と半ばダメもとでオーダーを出していたわけですが、結果的には発注した全商品が翌日に届きました。聞けば、会議をリスケしたり出張の予定を組み替えたりして、手が空けられる人全員で作業し、金曜日の発送に間に合わせてくれたとのことでした。

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Slackで本部にお礼のメッセージを伝えると、みんなから激励のメッセージが。今回の件は短期間のスプリント勝負だったので、社内では実質石川が一人で進めていたわけなのですが、それでもこれだけ理解を示しバックアップしてくれるというのは本当に頼もしく強いチームなんだなと改めて思うとともに、本部のスタッフのみんなには感謝の気持ちでいっぱいでした。


実店舗の疑似クラファンと化したショップ

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店に足を運んでくださる方の様子を見ていると非常に興味深い傾向があることに気付きました。どうも、マルイ本館の入り口から一直線に弊社の売場の棚の前まで来てくださる方がほとんどなのです。話しかけて聞いてみると、約95%がTwitterを見てきてくださったという回答でした。

ピュアなマルイさんの顧客にリーチできていないという反省もありつつも、広報的には大変喜ばしいことでした。そして、売り手買い手の心理的構図はとてもクラウドファンディング的だなとも感じました。決して狙ってやったものではないのですが、買っていかれる皆様が「応援してます」「頑張ってね」「素敵な商品を企画してくれてありがとう」という言葉を投げかけてくださるのです。去り際にそんな一言を言われるたびに、自分たちの想いが届いたんだという実感で胸がいっぱいになり、涙を堪えるのに必死でレジ打ちしていました。

怒涛の一週間で得られた成果

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在庫の欠品以外は大きなトラブルもなく、無事一週間の出店を終えることができたのは、会社内外の支援してくださる人たちのおかげで、改めてお礼申し上げる次第です。

今回の結果を振り返ってみると

①一般の方への認知拡大
  →マルイさんのピュアな顧客層にはリーチできなかった

②既に認知はしているが顧客になっていない層へのリーチ
  →「興味はあったが現物見てから買いたいと思っていた」という来客が非常に多く、狙い通りとなった。

③新商品のテストマーケティング
  →今回新たに販売した筒形の缶が今回の出店で最も売れた商品であることからも、商品企画の方針は間違っていないことが分かった。

という感じで、それなりの手ごたえを感じることができる結果となりました。なお、売上は約110万円を達成し、あまり見ない桁とお褒めのお言葉もいただきました。売上を目的とはしていませんでしたが、たくさんの方が喜んで買っていってくださったこと思うとこれ以上にない喜びを感じます。


「宝物を託される人になろう」というビジョンの実現

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今回の出店に際しては、本当にたくさんの方にお世話になりました。

ご対応いただいたマルイ社の皆様
通販だけでなく実店舗での機会をくださったBASE社の皆様
今回の出店の後押しと手厚いサポートをしてくださった池田さん
広報でご支援くださった木村さん
ディレクションのお手伝いをしてくださったしづかさん
展示でコラボ&お片付けのお手伝いまでしてくださったさがおうじさん
販売のお手伝いをしてくださったたなみおさんだいごさん
ショッパーやスリーブで無理を聞いてくださったフヂヤさん
展示のために大事なグッズを貸し出してくださったMakotoさん
出店のアドバイスをくださった戸谷さん
プレスリリースの添削をしてくれたお友達
遊びに来てくれた友人知人の皆様
Twitterを見て遊びに来てくださった皆様
そして、強力にバックアップして励まし続けてくれた弊社スタッフのみんな

創業115年間、缶をつくることしかやってこなかった弊社が、新宿マルイ本館1Fという身分不相応な場所でこれだけの結果を出すことができたのは、支えてくださった皆様のお陰です。本当にありがとうございました。

五里霧中になっている会社の中で「自分たちの存在意義は何か」という問いを立ててから約一年。ビジョンの実現に向けたマイルストーンを一つずつ積み上げられていることは素直に嬉しく思います。結果としてうまくいっただけという部分も多く反省もたくさんありますが、「自分達の手で新たな価値を作ることができた」という原体験は何にも代えがたい財産であり、次のステップに向けての大きな糧となると信じています。

自分たちの力でもっとワクワクする世の中をつくることを夢見て、小さな企業の大きな挑戦をこれからも続けていきます。


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