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【建築・インテリアを考える前に読むブログ】第13回 サウナ & バー『わがまちサウナ』

今回の記事はYoutube動画でもご視聴になれます。
こちら>からご覧ください。

ご依頼の経緯

クライアントの会社で新規事業としてサウナをされるいう話の中で、
インターネット等でのリサーチの結果、弊社とあともう1社に声が掛かりました。
当初は専らプライベートサウナをされるという話を伺っており、
クライアントとのミーティングやテナント候補地の同行などを行い、
何らかのプランやデザイン案を出したわけではなく、
自然の成り行きで採取的に弊社を選んでいただきました。

ここ数年、サウナというのは日本でブームになっており、
クライアントの担当者の方自体がものすごくサウナが大好きな方でしたので、
サウナの知識や、「こうしたいああしたい」という要望、
持ち合わせている情報量も多く、整理に労力を費やしました。
先に述べた通り当初は個室サウナという話だったのですが、
やはりブームというのはどうしても下火になることもあるので、
そういった中でもう一度戦略を練り直しますということになりました。

その結果、銭湯にもあるような大人数が入れるようなパブリックサウナを
事業の柱として進めることとなりました。
付帯設備としてプライベートのサウナも設置するということで
最終的に話が纏まりました。

  


サウナ特有の設計

私自身が普段サウナに全く行かない人間なので
先ずは視察を兼ねて事務所の近くのサウナへ行き、
施設内の各所の寸法を測り、自分自身が何を感じ、どう思い、
改善点は無いかなど洗いざらい出し、
それをもってクライアントとディスカッションを重ねました。
やはり当然にそれでも私自身はまだまだ知識が不足しており、
サウナというものがあまりにも奥が深く、
知れば知るほど自身の無知を知る状態でした。

サウナを設計するには、
こういうデザインにしたい、ああいうデザインにしたいという以前に
サウナとしてどうあらないといけないかであったり、
設備計画であったりとソフト面を徹底的に考えなければなりません。

例えば今回の案件の中で特徴として水深の深い水風呂があります。
なんと水深1m10cmです。
水の重量はとんでもないもので、それだけの重量のものが
そもそもテナントの中で構造強度的に成立するのかという問題があり、
今回は新築の建物に入れたので、それなりの構造強度はあるはずなですが、
実際構造設計の専門家に構造検討してもらうと
「何の補強もなしにこのまま水深1メーター10センチの水風呂を作るとやがて床が割れ、大変な事態に陥る」とのことでした。

これは大変な事だということで、
まずは構造補強についての検討が行い、
その他にも設備面で言いますとサウナは給排水だけでなく、消防設備然り、
他にも様々な設備が絡むので、それが今回のテナント候補地でカバーできるのかという裏取り調査を先にする必要がありました。

それがかなり大変な作業で、
今回のような本格的なサウナは経験がなかった為にすごく苦労しました。

担当の方自身がものすごくサウナというものを愛しておられ、
あらゆる所のサウナを見て回っており、
今回程の水深のある水風呂を備えている施設は無いとのことで、
やるからには他に無いものをやりたいという熱い要望で今回の水風呂は実現しました。
その方の思いがそこまで強いものでなければ、
私は設計する責任者として100%断っていました。
「リスクが高過ぎる。そんな事は私は出来ません」と。

断る方が断然簡単だったのですが、担当方の熱意の強さに何とか実現させてあげたいと思い、構造の先生や工務店の方にもお願いし、解決策を見出し実現することが出来ました。

インテリデザインに関する作業は、これらの問題解決を済ませた後で、
設計業務のスケジュールの中で随分と後の方でした。
最後の最後にデザインが決まったのではいないかと思います。


デザインワーク

サウナというものはあまりにも高熱であり、内装仕上げの際に使用出来る素材がものすごく限定されており、サウナ室の中の仕上げは選択肢が殆どありません。

素材として先ずは木材。
そしてタイル。
タイルも熱の問題などで使える商品は限定的です。
LIXILと言うメーカーのエコカラットという特殊タイルは使用出来ます。
他にも確認しましたが結果的にこれしか使えませんでした。
一般的に使われているようなタイルだと熱を持ってしまって、
仮に壁や床などに貼り、そこに人が触れる大火傷をしてしまいます。

このような条件下でデザイン性を求めることは非常に難しいのです。

パブリックのサウナルームはメインの仕上げ材を木板としました。
普通に貼るのでは昔からよくある至って普通のサウナルームになってしまいます。
そこで、木板の貼り方をものすごく奇抜なものにしました。
斜めに貼ったり、縦に貼ったりと幾何学的な模様になるべく色々な組み合わせの貼り方をし、サウナ通の方が訪れても驚きを持ってサウナを味わってもらえるような、近未来的なデザインの空間に仕上げました。

プライベートのサウナルームは壁面全体を先程述べたリクシルのエコカラットタイルを貼りました。
コーラルピンク色のタイルをベースとし、アクセントに天然石柄のグレータイルをとしました。
コーラルピンク色をベースにした理由は、
こんなカラーリングのサウナは見たことが無いと訪れたお客さんを驚かせたかったからです。

プライベートのサウナルームは特に女性のお客さんをターゲットとしています。
その為、男性的なシックでエッジの効いた空間よりも、
女性ウケのいいカラーを狙ったのです。

サウナに入った時に写真撮ってもらい、SNSなどで拡散して頂くことで
話題になればいいなと思い、このようなデザインに仕上げました。

使える素材というのは、本当に僅かで限られていますが、それでも他にはないようなデザインに仕上げる事が出来たという自負はあります。

サウナルームやととのいスペースの照明はダウンライトではなく、ほぼ間接照明で空間を照らしています。

不定期にイベントなども行われる為、
その時々によって空間演出が出来るよう、照度を変更出来るようにしています。

ダウンライトは基本的に床を照らすものであり、
対して間接照明は使い方によっては天井にも壁にも床にも光が当てることが出来、雰囲気作りにはもってこいの存在です。

サウナ室には煌々と床面を照らすだけのダウンライトは不必要だと考え、
例えば天井と壁の角の部分を照らしたり、座面の下をふんわりと照らしたり、
背もたれ板の下部を照らすと言った風に間接照明のみで空間を照らし、
サウナに集中し、没入体験ができるような空間にしたいと考えました。

これはととのい場も同様です。
サウナから出て、シャワーを浴びた後にぼーっとできるような空間。

そのぼーっとした意識下の中での空間で、照明が煌々と光っている必要は無く、
間接的な光だけでほの暗い中で一人の世界に入り浸れるような没入出来る空間にしたいと考えました。

ととのい場にはサウナルームにない仕掛けがあります。
間接照明の光が同じ照度で光続けているのではなく、明るくなったり暗くなったりといったような演出を表現してみたいと考えました。

分かりやすくいうと例えばキャンプの焚き火の光です。
明るくなったり暗くなったり、ゆらゆら揺れたりとする様を
"f分の1ゆらぎ"と言われるのですが、これを間接照明で表現しました。

この"f分の1ゆらぎ"は人間をものすごくリラックスさせる効果があります。
間接照明だけでもリラックス出来る空間を作ることは出来るのですが、
更なるリラックス効果を求め、より一層深くリラックス出来、没入出来る空間に仕上げました。

次にフロントスペースについての説明です。
フロントカウンターの機能としては大きく分けると2つあります。
一つは受付のカウンター、そしてもう一つはバーです。

バーはサウナ終わった後、例えば私が体験のために行ったサウナだと、時間が来れば直ぐに帰る必要がありました。
私はサウナ利用後は結構体がだるく少し休憩したかったのですが。

サウナ利用後に余韻に浸れる空間があれば有り難いなと思いました。
バー自体はクライアントも当初から作りたいと仰っており、ならばその空間をだらっと余韻に浸れるような空間に出来ないかと考えました。

このカウンターにはハイチェアが3脚あります。
他にもソファー席などもっとゆったりと出来るような空間を作りたかったのですが、テナントスペースの関係上それは不可能でした。
それでも限られた空間の中でリラックス出来る空間には仕上げたつもりです。

そもそもクライアンは他の施設と同じようなことをされたいという考えではありませんでした。
機能的にもデザイン的にも他の施設がやっていないことをやりたいという事が要望でしたのでデザインの提案では全てがほぼ修正無しOKを頂く事が出来ました。

スペースごとのデザインの違い

フロントスペースはパブリックサウナやプライベートサウナのインテリアデザインとは印象をガラッと変えています。

パブリックサウナのようなデザインを踏襲するならば、もっとクールでエッジの効いた空間に仕上げていたのですが、入り口の言わばこの施設の顔の部分にあたり、男性のみならず女性も来る空間なので
入った時に女性にとっても親しみやすい雰囲気に仕上げたいと考えました。

かと言って過剰に親しみやすさというテイストに迎合し過ぎた柔らかい空間にもしたくないということで、オリエンタルなデザインにしたいと直感的に思い、これをキーワードにデザインしました。

今回のサウナ自体はロケーションが野田という大阪の下町です。
周りには昔ながら続くお店が結構あり商店街もあります。

そんな中で何かギャップみたいなものを生み出したいなという思いがありました。
そのギャップは何かというと、そういう下町の中にあるエッジの効いたモダンなインテリアデザインの空間が広がるサウナ施設

加えてその施設内においても、全てがエッジの効いた空間ではなく、エントランスは先に述べたようにオリエンタルテイストのどこか柔らかな雰囲気で、サウナ空間は近未来的なエッジの効いたデザインに仕上がっています。

施設の入っている建物のエレベーターを降り、オリエンタルテイストのエントランスに行き着いたお客さんがその先に近未来的な空間広がっているとは多分思わないでしょう。


温白色の程良い照度のフロント空間から急に照度が落ち、ブラック系の岩肌調の壁面や、ブラックの天井の空間が広がると思わないでしょう。
これはプライベートの空間も一緒です。
施設内の空間全体が画一的な同じテイストの空間ではなく、とても同じ施設だとは思えないような異なるテイストの空間が共存する施設になったら面白いなという思いでデザインしました。



工事~完成

パブリックサウナの壁や天井は先にも述べたように斜めや水平など画一性の無い貼り方で、
且つ天井は傾斜していたり、段差もあります。

設備工事においても給排水や電気配線、空調設備に消防設備など実際に出来上がった状態では決して見えない部分、例えば天井裏だったり床下だったりと色々な線や配管が張り巡らされており、工事の際には調整が本当に大変で苦労の連続でした。

ですから完成して間もない頃は喜びよりも、安堵の気持ちが大きく、後にじわじわと嬉しさみたいなものが湧き出てきました。

その嬉しさ根源は長期間の緊張状態からの解放です。

クライアントがSNSを運用されている様子から
サウナ事業に対する熱量、本気度がひしひしと伝わってくるのですが、色々な情報発信をしている中で、折に触れては他にはないデザインだとか、
デザインクオリティに対して対外的にアピールしてくれていたり、
「やはりデザインクオリティに間違いなかったです」
みたいなことを書いてくださっているのを拝見し、
評価してくれている事を感じ、本当に良かったなと思いました。
非常に喜んで頂けたのではないでしょうか。

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