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【建築・インテリアを考える前に読むブログ】第15回 ショールーム&整備工場『DAIHATSU YAO』

今回の記事はYoutube動画でもご視聴になれます。
こちら>からご覧ください。


ご依頼の経緯

「ショールームと整備工場が大きな屋根で一つに繋がっており、築60年~70年ぐらいで老朽化も甚だしくなってきた為、建築・インテリアを刷新したいと思っており、第1期工事として整備工場を、第2期工事にショールームを建て直す計画で、そのデザインを考えてほしい。ただし、コンペです。」
というご相談から始まりました。

まずコンペ案件の場合についてですが、
何社がコンペに参加するのかということと、
可能であればその競合相手先は誰なのか
ということを把握した上で戦い方を考えます。

そして参加する相手が何社であれ誰であれ、常に提案するのは一番先に
ということをコンペでは心掛けています。
というのもやはり一番最初の提案が一番印象に残るからです。
ですのでそういう問い合わせがあったらすぐに返信し、
すぐに現場に伺ってヒアリングし、そしてすぐに提案するということを
心掛けています。

今回は2社のコンペで、相手の方は調べたところものすごく大きい、
ショールームをメインで手がけているモンスターのような会社でした。
なぜその相手ともう一社としてLUSTYdesignに声を掛けていただいたのだろう。
と、そこから考えていきました。
恐らくこのクライアントは会社の大小やこれまでの実績の数の多い少ないは
関係なく、純粋にどのような提案してくれるのだろうという期待感や、
これまでのLUSTYdesignの手がけた物件を見て、
デザイン性の純粋な好き、嫌いで判断して声を掛けていただけたのではないか、
ということを私なりに読み解きました。

であればLUSTYdesignが提案できるベストのものを少しでも早く、
つまり向こうの要望を聞き、その要望の全てをまかなえるようなデザインを速やかに一度提案し、
追加で要望があれば、それに対してもすぐに反応するということを心掛けていたら、LUSTYdesignに決めていただけました。

ご依頼内容、要望に対するアイデア


まずショールームにおいては今の時代になじむようなあり方で、どんなお客さんであれ、やはり来た時にワクワクするような空間が希望で、
整備工場に関してもデザイン性を持ち合わせ、整備する車の動線などいかに合理的にレイアウトするかを考えてほしいということをリクエストしていただきました。

ただし、クライアントの要望だけを踏まえたような提案ではクライアントからすると驚きはありません。
必ず心掛けているのはクライアントが予想してなかったことを提案に含ませるということです。
「そんなことは考えていなかった」「そこまで考えてもらえるのか」という驚きをも持ってもらえるような提案をいつも心掛けています。

2期に渡る工事というのが大前提で、1期目は整備工場の建て替え、その数年後に2期としてショールームを建て替えたいというのがクライアントの要望です。
であれば1期工事においては素直に整備工場だけやるのが普通といえば普通なのですが、
それでは驚きはないので「整備工場+ショールーム的な車を展示できるようなスペースを作ろう、それも目立つ位置に」ということを考えました。
敷地に面している道路は幅員が広く、また交通量も多く、加えて建物は交差点に面した敷地の角付近に建てる為、信号待ちの車や通行人から整備工場内に車を展示したらものすごく目立ちます。
その前を通る人たちに対して、例えば新しく出た車を展示できるような空間があれば大きな広告効果が見込める条件が揃っていると考え、
整備工場にプラスしてミニショールームを付ける提案をしました。
そもそもこれはクライアントの頭になかったことなので、
まずそれが一つの大きな驚きとなります。

そしてもう一つ、整備工場というものは、
基本的には閉ざされた箱の中で整備士が車を整備する場所です。
このあり方も変えたいと思いました。
整備している様子さえも魅せるような空間にしたいと考えました。

そこで、整備工場の正面は大きな開口を設けました。
整備工場とは思えないような建物の外観のデザインにし、
営業中はそのシャッターを開けて整備している様子が見えるようにしました。

そうすると整備スタッフも周囲から見られる事で仕事に対する意識が上がり、
見られている中でいい仕事をしようという意識になります。

また、常に見えるからこそ工場内が汚いと対外的にマイナス効果になるので、
工場の中を綺麗に保つようになります。
見せることによってあらゆる意識を今までよりも1段階も2段階も上げようと考え、
それをデザインに落とし込みました。

クライアントの反応とコンセプトワーク


ミニショールームを作るというアイデアはクライアントからすると全く考えていなかったことですので、
「角地に商品を展示するとそれはものすごく目立ちますね。」と素直に全て喜んでもらえました。

当然ながら、ダイハツのショールームは例えば同じく国産メーカーのレクサスなどと比べたら一般的にショールームの装いは明らかに違います。

ターゲットが違うのでショールームの造りそのものが異なります。
レクサスは商品単価が高い為、空間作りに予算がかかっていますが、ダイハツはそうではありません。

ダイハツに限らず他の軽自動車メーカーのショールームというのはそういうもので、それはいいとか悪いの問題ではなく、どこにお金を投じるかという話です。
しなし、私はそれを脱却したいと考えました。
訪れるお客様にとっても「ダイハツのショールームとはこういうものだ」みたいな考えがあると思うのですが、それを覆す空間にしたいと思いました。
クライアントであるダイハツさん、ひいてはその奥にいるダイハツさんのお客様達の想像を超えるような、そんな空間を提供したいという想いがありました。

上質な空間での商談は成約率が上がります。
それは車の販売に限らずです。
人は心地が良い空間に居ると滞在時間も長くなりますし、ポジティブでオープンなマインドになります。

一般的に皆さんがイメージするようなこれまでのショールームのあり方、予定調和なものは作りたくないなという思いの中でデザインしました。

デザインワーク

ダイハツさんのコーポレートカラーはレッドで、
これが際立つよう、建物の外壁はホワイトとしました。
そして、如何に特徴的なデザインで目を引かせるかと考えた中で、直線的なデザインではなく、曲線を描いた滑らかな輪郭の建物にしたいと考えました。

角や直線が多い建物は時としてとっ付きにくくなります。
ダイハツさんはファミリー層の顧客が多く、その層にも受け入れられるデザインは何だろうかと考える中で、曲線を積極的に用いる事とし、加えてそこに独創的な要素を入れようと考え、スターウォーズにでも出てくる宇宙船のような近未来的な空間を表現しました。

整備工場の照明も普通であれば真下に向けてダウンライトであったり、天井からの大型の電球で照明が規則正しく並ぶものですが、それでは面白くないなと思い、
照明をマッチ棒を空に解き放った時に空中でバラバラと広がるようなイメージを照明で表現してみました。

工事~完成

建物を建てる際は図面は必要不可欠なものであり、工務店には図面通りにやってもらうというのが当然なのですが、照明に関してはさきほど述べたようにマッチ棒を空中に解き放って散らすようなイメージというのは図面では描き辛く、その為、私自身が現場に赴き、電気屋さんと一緒に設置しました。

例えば「この照明は右端を5センチ上げてください。左を10センチ下げてください。」というような1本1本全て指示しながらの作業でした。

ミニショールームの壁の多くはガラスであり、加えて曲面が多く、ガラス壁とその他の素材の壁とでラインを綺麗に揃える必要があり、現場は随分と苦労していました。
ガラスは非常に大きい為、製造出来る工場が日本で3箇所しかありませんでした。
特注故に納期がかかり、またガラスメーカーへの発注指示を正確にしないと現場でうまく納まらない為、発注するまでも大変でした。

図面に沿って建てていても全てが上手くはいかないのが現場であり、その為この大きなガラスもなかなか発注が出来ず、スケジュールが大幅にずれ込む状況に追い込まれました。
それでも何としてでも間に合わせるべく、ガラスメーカーに頼み込んで製造工場を休日にも稼働してもらい、ガラスが出来上がるや否や、製造元である北陸から直ぐ様トラックで運んで来てもらいました。

完成後

完成した時は嬉しさよりも安堵の気持ちが優りました。
予め決められた工事スケジュールがずれ込み、ダイハツさんのお得意様に向けたレセプションイベントに間に合わない可能性があったのですが、なんとかそれまでに完成させることが出来ました。

クライアントであるダイハツさんの社長にとって、ショールームと整備工場の建て替えは先代から社長業を引き継いだ時からの夢でした。
プロのカメラマンに撮影して頂いた写真をお見せすると、
「自分の建物とは思えません。本当に感動しております。」と言って頂き、私もその言葉に感動しました。
私にとって、クライアントに喜んで頂ける事が何よりの喜びなのです。

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