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【ショートショート】ペットボトルのキャップの裏

言うまでもないことだが、未開封のペットボトルは衛生上安全である。

それを、開ける。

パキパキという手応えが、いかにもペットボトルが開封されましたという感じがする。

それを、飲む。

ある程度飲んでまたフタをする。

そのとき、飲み物を飲むことに意識が行っているので、キャップをどうしているのかなど
殆どノーマークである。

大抵はボトルを持っていない方の手のひらの中である。

他には裏返しにしてテーブルなどの平面に置かれたりしている。

そう、8割以上はこのパターンです。

そういうことです。

僕はこの隙を見てキャップの裏側に移動します。

フタをされたら、その飲み物の香りで満たされます。

大抵は良い香りです。

幸せです。

ある時、濃い煙のような液体が入ったボトルに入りました。

燻製のような匂いの濃縮液です。

「木酢液」というそうです。

それを1000倍とかに薄めて葉っぱの裏などにスプレーすると害虫が付かないそうです。

僕のようなしぶとさでも、さすがにこの原液はキツい。

しかも、ずっと使われずに何年もそのままです。

その間、そのボトルの水面から上を、まるで「ブロックくずし」のように行き来するだけなんです。

そして、久しぶりに開けられた瞬間にボトルの外に向けて飛び出します。

その次の瞬間に僕は行き場を失い、
霧のように消えるのですが、

元々、僕という存在自体、生物でもないし、意識の残像のようなものです。

人からは「視線」と呼ばれています。

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