AwBH 第3章 日本語化プロジェクト訳者雑感

※本記事は『鱗羽の天使』本編の核心的なネタバレを含みます。さらに、トゥルーエンディング(全グッドエンディング網羅後のエンディング)の内容にも触れています。未プレイの方は引き返すことを強くお勧めします。

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AwSWの人間世界はFalloutでした。

以上。
…というのも味気ないのでもう少し掘り下げていきましょう。
訳者としては人間編であるストーリー『I』がAwBHの中でも特に重要な位置を占めていると考えています。なぜなら…

・本編でレザが取った行動の説得力を補完してくれる
トゥルーエンドの後に主人公と全ての竜が移住する世界である

この二つの点で大きな役割を果たしているからです。特に後者は本編後の世界を想像する上で欠かせません。また、人間と竜の世界を対比的に語る視点こそがAwSWの物語における特にユニークな部分であり、もしも人間世界の設定がおざなりにされていたら、これほど愛される作品にはなっていなかったことでしょう。

この世界では2050年代に超大規模太陽フレアが発生。その電磁パルスによって電子回路を搭載した機器は全て破壊され、サイバネティクスや超高速通信網といったハイテクに依存していた人類は致命的な打撃を受けました。人口衛星から輸送まであらゆるインフラが停止し、政府や社会秩序は崩壊。人々は小さなコミュニティに分断され、武器を取って自衛しています。

太陽フレアによる世界崩壊というシナリオは陰謀論めいた終末論でお馴染みのネタですが、同列に扱われることも少なくなかったパンデミックによる世界危機を間近で体験している私たちにとって、この手のシナリオは皮肉にも奇妙な説得力を帯びているように感じてしまうところです。

このような無政府状態ですから、レザや本編主人公は"人類の大使"という仰々しい肩書を名乗っていただけで、実際には特定のコミュニティの代表者でしかなかったものと思われます。

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レザの右手は高度なサイバネティクス技術が用いられた義手であったようです。外から見分けがつかないどころか本人にも知覚できないほどですので、この世界の文明が終了する直前のテクノロジーが極めて高度であったことを端的に示しています。この義手については第6章でも少し語られることになります。

イザベルの口ぶりからすると、レザが高校を卒業したのはコミックの7~8年前のようです(原文では"quite a few years")。高校卒業後、大学を出て、就職し、世界が崩壊してポータルに送り込まれる、というイベントが挟まります。ここから計算すると、レザは本編時点で26~28歳前後なのではないかなと。レザと同じ大学で同期だった本編主人公も同様のはずです。まあ、飛び級や社会人入学も当たり前のアメリカの大学ですから、二人の正確な年齢や、同年齢かどうかまでは分かりませんが。また、この居住地は(元?)ネバダ州にあることがコミックの説明から明らかになっています。留学生という可能性はありますが、恐らく二人ともアメリカ人ですね。レザのファミリーネーム、イスキエルドはスペイン系ですので、彼のルーツはヒスパニック系にありそうですが、祖先が南北戦争に参加していたとも言及されており、少なくとも直近の移民ではなさそうです。

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彼の祖先に関する言及で、本編で使われた古めかしいリボルバーの出どころについても明らかになっています。南北戦争という奴隷制に端を発した戦争に用いられた銃が、数百年の時を経て他の知的生命体の権利を否定するために用いられることになる…ドラマがありますね。訳者は銃器について明るくないので、本編のイラストで描かれている銃が南北戦争時代の銃と一致しているのか、いい加減なメンテナンスでも発射可能な状態で現存し得るのか、といった部分については触れないでおきます。

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レザが通っていたというガルブレイス高校ですが、この世界では有名な巨大複合企業(コングロマリット)直営の大学への進学校のようです。竜の世界を創造したイズミが所属していた先と同一である可能性高いですね。もしレザが以前にそこで働いていたのだとしたら、かつて同じ組織に属していた二人が本編ではお互いに違う立場に立ち、殺し合っていたことになります。何とも皮肉です。

レザを救出したコミュニティの責任者の娘、イザベル。この居住地はカリオン・フィーダーズと呼ばれるローカルギャングの脅威に晒されているようです。なお、原文では"a local raider gang"、多くの日本語圏の人にとっては馴染みのない単語ですのでギャングと訳しましたが、Falloutシリーズを遊んだことがある方にとってはレイダーのほうがピンと来るかもしれません。居住地の壁の外では北斗の拳のモヒカンのような連中がうようよしているのでしょう。

トゥルーエンドで仄めかされた未来は一見、約束されていたように思えますが、この食糧難、無政府状態で数百万匹の竜が野に放たれるとどうなるのか、前途多難な予感はします。

第3章の続きは第6章で語られることになります。第4章では再びブライス率いる警察のお話に戻ります。

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本記事は『Angels with Broken Hearts』の日本語訳プロジェクトです。
オリジナルの公式HPはこちら
http://angelswithbrokenhearts.com/

この翻訳記事は制作者の許可の下で行われている公認プロジェクトですが、訳文はファンによる非公式翻訳です。公式は訳文に一切の責任を負いません。訳文についてお気づきの点は訳者までお寄せください。

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訳:Luptas