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頑張らないでうどんを食べよう

割引あり

大きなエッセイを書くことにしました。1年の振り返り兼、初めての有料記事です。2024年は本を執筆して出版しようと決めたので、その準備運動みたいな感じで、自分の言葉でいつもの記事よりはちょっと多めの文章を書いてみました。

自分の言葉で自分の世界を。

そう思っています。アスリートとして出来事を発信するだけではなくて、自分の生活に言葉で自分だけの感情の色をつけて書きたい。飾らずに等身大で言葉を紡ぎたい、そういう思いだけで書いています。飽きっぽい性格なのでまた同じことをやるかは分からないけれど、過去でも未来でもない今の感性を素朴に語ってみようという企画です。簡単な5つのテーマ「夢」「恋愛」「料理」「匂いと記憶」「ひと」を通して2023年を振り返りました。ちょっと長いから、1章ずつでも、通勤電車の中や休憩中のお供にでも読んでください。

頑張らない日がとても大事だと思っているので、「今日は頑張らないでうどんを食べよう」と思えるような、ちょっと気の抜ける、肩の力が抜ける文章になればいいなと願って書きました。



夢を見ながら種を蒔き、今日の土壌に水をやる

幼稚園の卒園アルバムの将来の夢の欄に、「アイスホッケーの選手」と書いた。周りにはケーキ屋さんやプリンセスと書く子も多かった中、子供心ながらにアイスホッケーの選手というのは独自性があっていいと思った記憶がある。

それからも根気よく、中学生、高校生と、自分の将来の夢を聞かれたらアイスホッケーの選手と答えていた。ただ、小学生の間だけは、毎年、違う夢を書いていた記憶がある。というのも、小学生になった時に、現実的に、アイスホッケーの選手、というイメージが全く浮かばなかった。日本で活躍しているプロ選手はみんな男性ということにも気づき、でもってまだ、日本代表という概念も知らなかった。小学生の時の夢で、記憶に残っているのは2つ。小学3年生の時に書いた「学校の先生」と、小学6年生の時に書いた「小説家」。本が大好きだから、小説家には思い入れがあった。

今は連絡先も分からくなってしまった、小学校の時の親友の1人はものすごく読書家で、面白くて小学生にしてはちょっと大人びた本をたくさん知っていた。小学校5、6年生の間はクラスが離れたけれど、休み時間に、こっちのクラスまでやってきて、図書館で借りてきて彼女が既に読んだ本を貸してくれた。中学受験期にも関わらず彼女から借りて思いっきり浸かったライトノベルのシリーズが、「文学少女シリーズ」。高校の文芸部に所属する遠子先輩は、大の読書好きで、本や、部活の後輩が書いた物語を実際に食べて楽しむ。この本の影響で文芸部にまで憧れを持って、中学ではもれなく文芸同好会に入部したのもいい思い出だ。どこか現実離れしたストーリーだけどその遠い世界の情景まで浮かんでしまって、本が手放せない生活から、自然と、自分もこんな物語を紡ぎたいと思うようになった。

ほぼ活動もなく帰宅部同然だった中学校の文芸同好会だが、年に数回、部員が物語を書いて部誌を発行して配布する、という活動を行なっていた。そこで私は大変なことに気づいてしまう。物語が書けない。本が好きだし、空想の世界も好きで、妄想も好きなのに、なぜか、架空の物語が上手く書けなかった。面白い話を書こうとすると、どうしても自分の経験や周りのモデルに沿った話になってしまう。当時、私は、有川浩さんの「図書館戦争シリーズ」にどハマりして、通学の電車の中でそれを読むのが楽しみだった(ちなみに今でも年に数回は読んでいて、通算100回以上はリピートしてると思うこのシリーズ)。手の中に、こんなに面白い物語があるのに、私は小説をいくら書こうとしても、自分の周りに起こったことをなぞるようにしか書けない。訓練して根気よく書いていたらもしかしたら、上手くなったのかもしれないけど、その中学生のうちに私は、「私は自分の経験からしか文章が書けない」と思って頭に入れてしまった。それはその時の私にとって、小説家という夢から遠ざかることを意味していた。

それでもやっぱり、本を読むことは好きだった。小説家という夢を手放しても、「本をいつか出してみたい」と思ってはいた。ただ、何かを書くことはない。活躍している有名アスリートが自伝のようなものを書くように、私も大学を卒業して社会で活躍したら、自分の経験を綴るような本を出すのかもしれない、と思っていた。

自分の経験からしか文章が書けないということは、いつか書くことが尽きてしまうことだと中学生の私は思っていた。だけどどうやらそれは違った。それから数年で毎日、毎月、毎年、いろんなことが起きた。私にはまだ、いくつもの架空の物語を書くことは難しいけれど、自分というレンズを通した世界の見方は意外と面白くて、誰にも想像できない経験と感情がたくさんある、と思えるようになった。小学生の時に「小説家になりたい」と蒔いた種は、枯れも廃れもせず、ちゃんと発芽して成長していた。大学を卒業してたくさんの文章を書き始めた私は、今年本を出す、と決めた。

幼稚園の頃からの夢も、途中でできた夢も、いろんな種がそれぞれのスピードで芽を出して伸びている。たとえ種を蒔いたことすら忘れていたとしても。種の特徴は誰も知らない。いつ花を咲かせるか、それがどんな花なのか、いつが成長期か、どこにも書いてない。だから今日できることは、今日の土壌に水をあげること。今日をどんな素敵な1日にしようかな、とりあえず今日を全力で、そう思って生きてたらいいことがたくさんあるって言ったら、なんか最高。そりゃ人の咲かせる花が羨ましくなることもたくさんあるよ。でも、もういくつ種を蒔いたかなんてわからない自分の今日の土壌は絶対大事にしたい。


美味しいサイドディッシュは恋愛

日本に数カ月しかいないという生活を数年していると、まるで、「ひと夏の恋」という言葉が当てはまってしまうかのような人と出会うことが、ごく稀にある。かもしれない。もしそれを恋と呼ぶならば、だけども。

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