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椎名林檎「正しい街」- 足らない言葉よりも近い距離を好んだ幼さ -

まえがき

明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い致します。

さて、2023年の目標に「ClariS以外のアーティストをもっとブログで紹介する」を掲げているので、新年1発目の記事では早速初紹介のアーティストを取り上げたいと思います。

もはや説明不要の存在、椎名林檎さんの「正しい街」です。

曲紹介

作詞・作曲:椎名林檎 編曲:亀田誠治

デビューアルバム「無罪モラトリアム」(1999年2月24日発売)の1曲目。
18歳の林檎さんがデビューのため福岡から上京する時に、当時の彼氏に別れを告げた実体験を歌った曲です。

歌詞

曲全体のストーリー

・「遠距離になるから別れよう」と自分から振った元カレと、翌年地元に帰省した時に再会する
・彼は未だに自分の事が好きで、新しい彼女を作らずに待ってくれている
・「君とこの街に残るのが正しかったのかな?」と思いながら、飛行機で東京に帰る

正直、あまりにも有名曲すぎて沢山の解説記事があると思うので、今更自分が付け足すことは何もないだろうなあって思ってます。
でもとにかくこの曲が好きなので、何も新規性は無いと思いますがひたすら自己満足のために語らせて頂きます。
※歌詞は歌ネット(https://www.uta-net.com/song/12953/)からの引用

1番

あの日飛び出した 此の街と君が正しかったのにね

不愉快な笑みを浮かべ長い沈黙の後態度を更に悪くしたら
冷たいアスファルトに額を擦らせて期待はずれのあたしを攻めた
君が周りを無くした
あたしはそれを無視した
さよならを告げたあの日の唇が一年後
どういう気持ちでいまあたしにキスをしてくれたのかな

いきなり別れ話の場面から始まります。
「メジャーデビューのために東京に行くことになった。遠距離恋愛は辛いから別れよう」と主人公(女性)から一方的に別れ話を切り出し、男性側から引き止められても取り付く島もない態度を取っている。
そのうち、男性側が土下座までし始めて額をアスファルトに擦り付けながら「どうしてそんなに頑固なんだ」とか主人公を責め始める。
いきなり土下座し始めるから当然周囲の人からもジロジロ見られたはずで、むしろそうする事で意固地な主人公の態度が変わることを男性側は期待したのかもしれません。
しかし、主人公はそれすらも無視して別れを告げた。
「君が周りを無くした あたしはそれを無視した」はそんな情景かなと思っています。

で、そうやって別れて上京した1年後。
帰省か何かで福岡に帰ってきた主人公は彼と再会し、どういう流れか分かりませんが彼からキスされます。
「どういう気持ちで」と言いつつ主人公もなんだかんだ受け入れてしまうんですね。
自分から振っておいて明らかに未練あります。

2番

短い嘘を繋げ赤いものに替えて疎外されゆく本音を伏せた
足らない言葉よりも近い距離を好み理解出来ていた様に思うが
君に涙を教えた
あたしはそれも無視した
可愛いひとなら捨てる程いるなんて云うくせに
どうして未だに君の横には誰一人居ないのかな

「赤いもの」って解釈が難しいですが、筆者は運命の赤い糸のことを言っているのかなと思っています。
彼との関係を壊したくないから、本当は言いたいことや相談したいことがあっても「短い嘘」を繋げて誤魔化して本音を言えなかった。
そうすれば、二人の赤い糸が切れないような気がしていた。
でも、そうやって本音を言わなかった(上京をギリギリまで隠していた?)ことがすれ違いの原因になってしまったんだとしたら切ないですね。
10代の恋愛っていう不器用さを感じます。

で、次の1行が本当に大好きなんです。
「足らない言葉よりも近い距離を好み理解出来ていた様に思うが」
これ凄くないですか?

本当はもっとお互いの気持ちを言葉にして伝えて相談して、沢山コミュニケーション取って心の溝を埋めるべきだったのかもしれない。
でも、若くて不器用で、そうできなかった。
もしかしたら、気持ちを明確に言葉にするのが怖かったのかもしれない。
明確な言葉にして話し合った結果、お互いの分かり合えない部分・埋められない溝がかえって浮き彫りになってしまうかもしれない。
それが怖くて、「足らない言葉」のままとにかく四六時中「近い距離」に居ることで気持ちを確かめ合おうとしてた。
お互いがどう思っているのかは言葉に出さず曖昧なままにして、とにかく近い距離に居れば気持ちが通じ合うと思っていた。
それでも君のことをある程度理解出来ていた様に思うけど、結局こういう結果になってしまった。

1行からこんな長文を勝手に読み取る筆者の妄想力がおかしいのかもしれませんが、このカップルがここに至るまでの過程が全部詰まってると思うんですよね・・・。
不器用で、自分勝手で、でも純粋で切実な、10代のありのままの気持ち。
この1行だけであと30分語れそうなくらい好きです・・・。

「君に涙を教えた あたしはそれも無視した」
これも切ねえ・・・。
そうやってすれ違いの原因を作って一方的に別れを切り出したのは自分。
君を泣かせてしまったのも自分。
それもあたしは無視した。

多分、彼のことが好きだからこそ遠距離に耐えられる自信が無くて、この主人公は防衛本能的に別れちゃったんですよね。
そこでちゃんと話し合ったり遠距離を上手くやっていくよう前向きに頑張れるほど大人ではなかった。
これ以上傷付いたりメンタルが不安定になるのが怖くて、強制的に見ないようにシャットダウンしてしまった。
それも含めて10代ですね・・・。
あまりにも詩の純度が高くて、恋愛に限らず自分にもそういう時期があったな・・・と自分の10代を思い出してしまいます。

さらに次の行も凄い。
「可愛いひとなら捨てる程いるなんて云うくせに どうして未だに君の横には誰一人居ないのかな」

「可愛い女の子なんて履いて捨てるほどいるから、すぐ次の彼女作る」って君は私に言うのに、1年経っても君は新しい彼女を作らないまま。
私にまだ未練があるの?
何も言わないけど、実は私を待ってくれているの?
そんな風に主人公の心が揺れ動いてるのがメチャクチャ伝わってきます・・・。

Dメロ~ラスサビ

何て大それたことを夢見てしまったんだろう
あんな傲慢な類の愛を押し付けたり
都会では冬の匂いも正しくない
百道浜も君も室見川もない

もう我が儘など云えないことは分かっているから
明日の空港に最後でも来てなんてとても云えない
忠告は全ていま罰として現実になった

あの日飛び出した此の街と君が正しかったのにね

「何て大それたことを夢見てしまったんだろう」
彼を振ってまで掴もうとしたメジャーデビューの夢のことなんでしょうか。
「あんな傲慢な類の愛を押し付けたり」
私のことを本当に愛してるなら、夢を応援すると思って別れて。
的なことを別れ話の時に言ったんですかね?
もしくは、遠距離に耐えられないから一方的に振ったこと自体を「傲慢な愛」と表現してるのかもしれません。

「都会では冬の匂いも正しくない」
そうまでして上京した東京での暮らしに、ちょっと息苦しさを感じてる。
東京の冬の匂いは正しくない。
じゃあ正しい冬の匂いはどこ?
自分が育った街、君も待っている福岡。っていうことですよね。
※「百道浜」「室見川」は福岡の地名
「百道浜も君も室見川もない」
このフレーズもめっちゃ良い・・・。

そしてラスサビ。
一方的に振っておいて今更こんなわがまま言える訳ないって自分が一番分かってるけど、本当は君に空港まで見送りに来て欲しい。
最後にもう1度だけ君に会いたい。
自分勝手なメンヘラ女だな!って思う人もいるかもしれませんが、筆者はこういう女心がメチャクチャ好きですよ・・・。

「忠告は全ていま罰として現実になった」
1年前の別れ話の時に彼に色々言われたのかもしれません。
「あとで後悔しても知らないよ」とか。
結局彼が言ったことの方が正しくて、あの時素直に引き止める彼の言葉に従っていた方が良かったのかもしれない。
百道浜も君も室見川もある、福岡に残るのが正しかったのかもしれない。

「あの日飛び出した此の街と君が正しかったのにね」
そう自嘲的に思いながら、飛行機で1人東京に帰る。
そんな終わり方なのかなぁ・・・と思います。

あとがき

・「遠距離になるから別れよう」と自分から振った元カレと、翌年地元に帰省した時に再会する
・彼は未だに自分の事が好きで、新しい彼女を作らずに待っていてくれる
・「君とこの街に残るのが正しかったのかな?」と思いながら、飛行機で東京に帰る

いや~、改めて思うんですが。
この曲がメジャーデビューアルバムの1曲目ってエモすぎません?
自分のアマチュア時代、デビューするまでの道のり全部にケジメを付けるみたいじゃないですか。
しかもこの1stアルバム、大半がデビュー前の10代の頃に作られた曲で、この曲も18歳で作られたそうで。
いや、この名曲を18歳で・・・?
どんな才能だよ・・・。
椎名林檎という人の凄さにただただ戦慄するばかりです・・・。

というわけで、今年はこんな感じでClariS以外のアーティストも沢山紹介していくぞという決意を新たにしました。
林檎さんもようやく紹介できて良かったので、今年中にもう何曲か書きたいと思います。

では、ここまで読んで頂きありがとうございました。

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