見出し画像

一枚の毛布

「昨日苦しいことがあったんだよ」
と言いながら、
一緒にショートケーキをつつくのが恋人

「今日とても苦しいよね」
と言いながら、
一枚の毛布を肩に掛け合うのが夫婦

そう思っていた私は間違っていた?

明け方、あなたは、潮風の向かう方へ
渚の音とともに去って行った

「幸せになりたかったんだよ」

最後の言葉だけが耳に響きつづけている

シアワセだけを求めて愛を誓ったのなら
それはそう、私は役立たずのお人形

波打ち際に打ち捨てられて
カラスに手足をもがれるまで待っている

私を眺めるあなたの瞳は
薄闇を溶かした雨の粒

堕ちて、汚れて、踏みつけられたお人形が
「居場所」へ帰りたいのは間違いですか

静だって、濁だって、
一緒に飲み込もうとした

吉だって、凶だって、
ともに背負おうとした

あなたの曇った瞳を見つめて
その悲しみを受け入れ歩く覚悟ができていた

けれど、
片方(シアワセ)だけを望んだあなたの瞳に
両方(苦楽)を分かち合おうとした私は透明に映っていた

寒くても死ねない私は
一枚の薄い毛布を背負い
まだ叫ぶよ
どこかをさまよう片割れに向けて

「今日とても苦しいよね」

いただいたサポートに感謝し、あたたかみのある文章を書けるよう精進します!