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令和の歳時記 桑の実

桑の実が美味しい。甘くて甘くて、食べ過ぎてしまうほどだ。お菓子のグミほどではないが、弾力があるのも魅力だ。

6月の野山へ入る一番の喜びは桑の実を食べることにある。自然、つまりオーガニックなのに意外や意外、採って食べる人は少ない。

理由は「汚い」とか「危ない」と答える人が多い。まずはアリやハチ、そしてハエなどの虫が桑の実を這い回って「汚い」というイメージ。次に鳥の存在が来る。

確かに桑の実の周りには虫が多いのは当たってる。それは美味しいから当たり前だ。

でも鳥は案外、飛来しないように感じる。それは桑の実がなっている枝が細くて、安定して止まっていられないからではないかと思う。

春先のサクラなどにはメジロが止まって、蜜を美味しそうに吸っているのとは訳がちがう。

ホバリングが得意なハミングバードだったら喜んで食べるに違いないが、日本にはいない。だから桑の実は鳥からの“被害”は少ないように思われる。

そうなると種の繁栄において、難儀していると思われるが、桑の実の多くは地面に落下することで、鳥たちに食べやすい環境を提供している。

わたしのような食いしん坊の人間も種の繁栄に貢献している。汚い話だが、桑の実を食べた後の排泄物は種ばかりだからだ。

しかし、現代人のわたしは水洗トイレを使うので、桑の実の作戦は成功とは言えない。昔の人間だったら、農作業の後の食事のデザートに桑の実を食べて、そこらで野糞をしたから、種は広範囲にばら撒かれたのだろう。

さて、わたしが桑の実を採る際は補虫網を用いる。たわわに実が付いている枝を補虫網に何本も入れて、思いっきり揺すって落とす。

ある程度溜まったら、補虫網に手を突っ込んで、片手いっぱいに掴んで口に入れるのだ。これがたまらなく美味しい。

ただ先日の桑の実には「苦虫」の思いをした。食べた瞬間、口いっぱいに「臭み」が広がったのだ。その正体はすぐわかった。

カメムシを食べたのだ。正式名はチャバネアオカメムシ。多くの人が嫌う「汚い虫」である。

よくカメムシはパクチーの味がするというが、そんなことはない。噛んだ瞬間、若干の苦味を感じるが、口内に広がる匂いが強烈すぎて、パクチー気分を楽しめない。

すぐに地面に吐き出した。飲料水で口をゆすいだがなかなか消えない。となるともう一度、桑の実で口を潤すしかない。

さらに桑の実を口に運ぶ。だんだん、カメムシに味が消えていく。わたしの勝手な想像だが、これも桑の実の戦略のひとつなのかもしれないと思った。

昔の少年少女たちも同様にカメムシを口に含んだら、すぐに吐き出しただろう。吐き出すことで、種の繁栄が促進されるからだ。

そんなことを想像して夏の到来を楽しみのも乙なものだ。


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