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掌編小説/桜色のマニキュアとハチワレの空
桜色のマニキュアだった。
ター子の汗ばんだ手のひらの上に置かれたそれは、今の季節にピッタリの、お化粧なんかしたことない私たちにピッタリの、小さな瓶にめいっぱい詰まった、薄いピンクのマニキュア。
「かわいい。どうしたの、これ」
笑顔で聞く私と対照的にター子は怒ったような真っ赤な顔で私に言う。
「どうしたのって! ボンちゃんが言ったんじゃん!」
「私が? なんて言った?」
そんな顔で怒るから男子に
小説/予備席の男《#夜行バスに乗って》
僕は、兄さんが託してくれた手紙を再度開いて読み返した。
「自分に何かあったときに読んで実行して欲しい」と言って手渡されていた手紙。
間違いないと思う。
夜の籠、新しき宿、そして、春。
帳面駅に貼ってあったポスターを見た時ピンと来たんだ。手紙はこの夜行バスのことを言っているに違いないって。
「予備ニ坐スラバ」って言っても小学校の時の遠足みたいに夜行バスに補助席なんてない。予備ってなんだよと思った
小説/汐喰シーサイドホテル704号室
「お願いだよ、この通り。な、な?」
父さんは 汐喰シーサイドホテルのフロントカウンターで両手を合わせる。
僕はカウンターに飾られた金色に光る〔Good-bye 2023〕の文字を見つめてる。
「海の見える部屋だって本当はひとつくらい空いてるだろ。な」
「申し訳ございません。あいにく満室でございます」
ホテルの人は同じ言葉を繰り返す。
「年越しの花火を子どもたちに見せたいんだよ。分かるよな。な?」