映画「メメント」

原題:memento
directed by Christopher Nolan
starring : Guy Pearce,  Carrie-Ann Moss, Joe Pantoliano

前向性健忘(発症以前の、つまりかなり前の記憶は残っているものの、発症後は新しい記憶は数分しか保たないで忘れてしまう症状)になってしまった男・レナード。ロスアンジェルスで保険の調査員をしていたのだが、ある日、何者かが自宅に侵入し、妻をレイプした上に殺害し、その光景を見てしまったレナードはそのショックで前向性健忘症になってしまい、以来、大切なことはメモをかかさず残し、体には刺青でその言葉を刻み、常にポラロイドカメラでその場所を撮影して、そこにメモを残すことを繰り返しながら、妻を殺した犯人を探し出そうと躍起になっていた。その過程で繰り返される、かつて保険の調査をしていた男の記憶障害、そしてその妻が夫の障害を認められなくて苦しんだ挙句、持病の糖尿病のために射っていたインシュリンを過剰に摂取してしまって昏睡状態に陥った事故・・・しかし、どこかおかしい。さらに、レナードのそばに現れた謎の女性ナタリー(キャリー・アン・モス)。彼女の彼氏はDV男で彼女は逃げたがっていて、レナードは彼女を救おうとその男を呼び出して襲うのだが・・・どこかがおかしい。次第に明らかになっていく、真実とは・・・実はレナードと妻の事件は、レナードが思い込んでいたものとは全く違っていたのだ・・・

  クリストファー・ノーラン監督の初期の作品で出世作。未見だったのでリバイバル上映があったので鑑賞。
時間軸を過去と現在に行ったり来たり・・・そしてモノクロとカラーとの使い分けで、レナードの過去の経歴や仕事ぶり、そして最後に見た妻の姿のフラッシュバック・・・時折現れては諭す言葉をかけてくる刑事・・・オーディエンスを巻き込んで揺さぶってくる過去と現実と現在と事実・・・そう、この作品、現在と現実は実はレナード自身にとっては「異なる」ということが肝だなぁと。最近の作品「テネット」でもそうだったけど、「現実」と「現在」って、本人の主観で見ていると実は「事実ではない」ことが次第に浮き彫りになっていく。
 記憶って自分の都合の良いように出来上がってしまう。それが自分にとって「現在」へと結びつけて認識していくけど、それは「事実」とは違っていく・・・そのことに実はレナード自身もどこかの時点で気づく・・・ってのが怖い・・・知らないままの方が実は単純で害がないんだなぁと。次第にかつて自分の仕事「保険の調査員」として携わった記憶障害の男と自分自身が次第に見分けがつかなくなっていく・・・あの男のようにはならない・・・・ってはずだったのに、実は「あの男」自体、本当に居たのかどうか・・・が怪しくなっていく。
記憶障害を患っていることを認識し、ことあるごとにメモを取り、ポラロイドカメラで撮った写真にもメモを残し、自身の体にもタトゥーという手段でメモを残し、消えてしまう記憶と奮闘している・・・そして最愛の妻を殺した犯人を自身の手で捜査していく・・・という健気な人・・・であったハズなのに、実は違った・・・ということが次第に明らかになっていく。

彼は結局、妻に対して何をしていたのか・・・真実はあの刑事が語った通りなのか。
それを知らされて愕然とする・・・で終わりなのかと思いきや、そこからが「紋切り型」ストーリーと全く違う転換をしていく。
レナード自身が自分自身の記憶障害を逆手にとって、開き直ってしまう表情がなんとも怖かった。
ガイ・ピアーズの表情がズシンと心に刺さる。

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