映画「異人たち」

原題:All of us Strangers

directed by  Andrew Haigh

starring  Andrew Scott, Paul Mescal, Jamie Bell, Claire Foy


Based on ‘ Strangers ‘ by Taichi Yamada(  「異人たちの夏」  by 山田太一)


ロンドンのタワーマンションで一人暮らしをしているアダムは、12歳の時に交通事故で両親を一度に亡くした過去がある。現在は40代に入り、脚本家として暮らしているが、独り身でずっと孤独に過ごしてきた。在りし日の両親の思い出に基づく脚本に取り組んでいた彼は、思い立って幼少期を過ごした郊外の家を訪ねると、そこには、30年前に死亡したはずの両親が当時のままの姿で住んでいた。その後、アダムは足繁く実家に帰って、両親に囲まれ心満たされるひとときに浸る一方、同じマンションの住人の謎めいた青年ハリーと互いの孤独を語り合っているうちに恋に落ちていった。。しかし、その夢のような幸せな日々は永遠には続かない・・・それはアダム自身にも分かっていたことだったのだが・・・


 原作は山田太一氏の小説「異人たちの夏」・・・大林宣彦監督で映画化もされている。

ただ、私自身は今まで未見でした・・・

原作のことをとりあえず「検索しない、調べない」状態での本作鑑賞。

まず、ほとんど人気のしないタワーマンションで、他人を受け入れない感じのアダム(アンドリュー・スコット)が、同じマンションの住人ハリー(ポール・メスカル)に声をかけられる。「一人で寂しいんだ、一緒に飲まないか?」・・・割としつこく食い下がってくるハリーだが、にべもない素っ気ないアダム・・・この最初のシーンが最後になってすごく効いてくる。

   アダムの暮らす部屋の窓からの夕暮れ時の光景がとても美しい。琥珀色に染まる空と都会の街並みが小さく映る景色がため息ものだ。アンドリュー・ヘイ監督、そしてロンドンで撮られているのに、この空の色はどうしても「日本」を感じさせる。この窓からの光景の場面でぐっとオーディエンスを惹きつける・・・映画はやはり「画づくり」が決め手なんだなぁ・・・

そして街の人が他には誰もいないのか?と思わせるぐらい、アダムの抱える孤独感を強く感じさせる場面が続く。12歳の時に事故で亡くなった両親と暮らした実家へ行くと、空き家のはずが、そこには両親が昔のままの姿で普通に暮らしているのだ。両親との何気ない会話、でも、自分だけ40歳の大人になっているという不自然さ・・・・

そして、アダムは、この心の高揚感のまま、さっきはすげなく接したハリーに会いにいき、ゲイだったアダムはハリーと激しい恋に落ちる・・・この二人のセックスシーン・・・要るかなぁ・・・なんかなぁ~?って思った。

この話の要は、もう「異人」になってしまっているはずの両親との再会・・・本来はあり得ない再会で、空洞だった年月、孤独だった心を癒していく・・・という部分が芯なのに??とは思った。

ただ、ゲイだってことが、より一層アダムの心を内省的にさせ、孤独は深いものだった・・・ということをより印象付けた・・・のは分かるけど、性描写はそんなに必要かなぁ?

12歳という思春期入口のところで、両親がいっぺんに死んでしまった・・・自分がゲイであることを両親に告げる以前に相手がいなくなってしまった・・・誰にも相談できなかった・・・というのが確かにアダムの孤独をいっそう強い深いものにしていたのだろう・・・在りし日の母を演じたクレア・フォイさんが好演していて、自分たちはもうあの世の人だということを分かっていながらも、明るく振る舞っている・・・大林監督作品では秋吉久美子さんが演じていたということを後から知ったが、なんかイメージが重なる気がした。


  お互いに「これはあり得ないこと」だと分かっていて、最後に一番行きたい場所へ家族揃って行って、異人たちは去る・・・

アダムはハリーの住む部屋に向かうのだが・・・

私もここで「あっ!」と気づいた・・・そうだ、ハリーもまた・・・

「喪失」「孤独」・・・誰かに気づいてほしい、そして理解してほしい・・・それが叶わなくても、想いは残って伝わる・・・

なんとも抒情的で幽玄的に静かに・・・日本映画のように、淡い色合いと暗闇の中で撮られていく映像・・・なかなか言葉でうまく表現できないが、琥珀色の美しさを生かして、丁寧に大切に撮ってくれてるんだなぁ、うれしいなぁと心が豊かになった。


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