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絵の具

ラインをひく。その中を塗る。
絵の具を水でとく。
いい具合になったら、そっと重ねていく。
はみ出さないように。
色が偏らないように。
気づくと、息が止まっているので
時々思い出したように息をする。

何かに似ている。
絵の具で絵を描くことは
何かに似ている。

体を使うことが大切なのだろうか。
カラーペンや色鉛筆でも絵を描く。
その時とは違う
不思議な心持ちがあるのだ。

例えばそれは
特別なスープを作ったり
手間のかかる野菜で煮物を作る時に似ている。

ハンバーグや餃子を焼いたり
お芋を蒸したり、サラダを作ったり
そういう時には感じない
静かな青い時間が流れるのだ。

自分の呼吸の音が聞こえる。
呼吸と共に動く。
丁寧にやさしく、心を込めて。

それはまた、舞台の本番にも似通っている。
針の糸を通すように。
正確に、やさしくなぞるように。
それでいてダイナミックに。

息が止まりそうな緊張の中で 
第一声のために、息を吸い込む。
肺に空気が入ったのがわかる。

自分しかいない世界で。
音一つしない静寂の彼方で。

こっそり微笑んで、楽しいことをしよう。
色々やってみよう。
まだこの世界には
わたしの知らない色がある。

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